ゲネラルパウゼ
小狸
掌編
朝から喉に
声がガッサガサになっていた。
一応家を出る前に熱を測ったのだが、発熱はしていなかった。
喉風邪――ということなのだろうか。
珍しい、と思った。
私が風邪を引く時は、鼻と喉と熱と、全てが同時に風邪の症状になるからである。
上司に朝の挨拶をした時に
今は、職場からの帰る電車の中で、スマートフォンで掌編小説を打鍵しているという塩梅である。
何をしているのだ、さっさと休養しろと思う方もいらっしゃるかもしれないが、その通りである。
ただ、何というか。
普段職場にいて見ることのないこの景色を、文章に残しておきたくなった、とでも言おうか。
ここまで来ると、最早風邪とは別の意味で、病気の域である。
そこまでして書きたいのかと問われたら、そこまでして書きたいのだ、と答える。
学校や仕事に向かう人々の波は、私が出勤している7時8時よりは和らいでいるように感じる。実際下り方面の電車で座ることができるというのは、珍しいことである。
と。
ある程度文章をスマホのメモ帳に打鍵し終えたところで、小説投稿サイトの個人ページの編集欄に向かった。スマホのメモ帳は、あまり大量の文字を保存しておくと重くなるのである。コピペして貼り付けるのにも、二度三度往復する必要があるのだ。
ふと――その編集欄を見る。
一目で、何をいつ更新したかが分かるようになっている、便利な世になったなあと思う。
すると、12月に入ってからは、毎日何らかの小説を投稿していたことに気が付いた。
仕事で職務に従事し、家に帰って書き溜めていた小説をネットの海に放流する、そんな生活をここ数日は続けてきた。連載、という体で不定期掲載している小説も、ここ数日は毎日更新していた。
毎日、である。
時間が余っているとか、仕事が楽だとか、そういうことではない。
家事も掃除も
他にすることがないのである。
小説新人賞には、今年公募されている分にはあらかた応募してしまった。焦っても仕方ない。来年に向けてプロットを練る程度で、今年中に長編小説を脱稿することはまずないだろう。
ならば恋愛はどうなのか――と、時折会社の同期や家族に
大学時代の同級生は同棲を始めたり、早い人は結婚したりしているという
何となく、恋愛方面で、私はこれまでもこれからも、誰かを選ぶことも、誰かに選ばれることも、ないと思うのだ。
そういう自分を、想像することができない。
できないのだから、仕方ない。
なんて、私の平坦な恋愛遍歴を晒したところで、どうしようもない。
そんなことを考えている間に、喉の痛みが増してきた。
下らないことを考えたせいだろう。
電車が揺れ、唾を飲み込むだけで、僅かな痛みを感じる。
インフルエンザだったら面倒だなと思った。
まあ取り敢えずは、家に帰ったらあったかくして寝て、明日の様子に懸けるとしよう。
それで医者に行くか決めよう。
小説の投稿は一旦、数日はお休みである。
何となくこの風邪は、数日長引くような気がするのだ。
毎日続けていることを休むことになる罪悪感というのは、実は無かったりする。体調不良の脳内が散逸している状態で書いた小説は、きっと良いものにはならない。平時と比較するまでもなく、である。
できるのなら、より良いものを作りたい。
読んでくださる方が、そこにいる限り。
なんて――プロでも何でもない私が言うのも烏滸がましいかもしれないけれど、そう思うのである。
取り敢えず今、現段階では、仕事と小説は休息が必要だろう。
電車から降りて、やや足早に改札を出た。
家に帰ったら、さっさと寝よう。
寒さが本格的になってくる時期である。
皆さまも息災でお過ごしください。
おやすみ。
(「ゲネラルパウゼ」――了)
ゲネラルパウゼ 小狸 @segen_gen
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