第3話 コンビ結成

***


 四方森に囲まれた場所に位置する、ヴィアトリカ・ビンセント邸の西側、一階のゲストルームにて、荒巻はルームメイトとしてとある人物と生活を共にしていた。

 そして、このときの荒巻は探偵としてではなく、新人の使用人としてヴィアトリカ・ビンセントの屋敷にて住み込みで働いていた。何故か、家政婦長ハウスキーパーのロザンナ・ワトソンが教育係を務め、新人の荒巻をビシバシ指導していた。

「なんでこの俺が、ヴィアトリカお嬢様の使用人を務めなくちゃならないんですか?」

 実に納得が行かないと言う風にむくれた顔をする荒巻に、ロザンナは気取るような口調で理由を述べる。

「以前……石畳の道路の真ん中で倒れていたあなたが、お嬢様に向かってこう言いましたよね?

『怪我の手当をしてくれたお礼に、俺に何か手伝わせてくれよ!』と。

 なので、使用人としてのお手伝い、よろしくお願いしますね!」

 なんて、笑顔で言われても荒巻はぜんぜん嬉しくなかった。

 おまけにそのとき披露した、名探偵顔負けの『推理』も全くの的外れ(てっきりヴィアトリカとロザンナが闇に属する人間の可能性が高いと踏んだが実はそうではなく、二人は本当に道に迷っていた)で、荒巻を病院に連れて行かなかったのも、病院に連れて行くほど重傷ではなかったからである。

 ロザンナから本当の理由を聞いたとき、自身の推理が当たったと鼻高々になっていた荒巻はショックのあまり三分間気絶した。

 石畳の道路の真ん中で倒れていた荒巻の、怪我の手当をしてくれたのには感謝するが、そのときに荒巻が言った『俺に何か手伝わせてくれよ!』は、探偵としてお役に立てられればと言う意味である。決して、新人の教育係を務めるロザンナの下、ヴィアトリカお嬢様の使用人としてお手伝いをすると言う意味ではない。ゆえに、使用人の証である上下黒のタキシードを着用する荒巻は納得が行かなかった。

 とはいえ、手厳しいロザンナの指導に反抗する気にもなれず、ここ数日は、ロザンナのいいなりである。だが、それもいい加減、うんざりしていた。

「そりゃまぁ……相手は泣く子も黙る、すべてにおいて完璧な家政婦長ハウスキーパーのロザンナさんだからねぇ……少しのミスも許さないだろう。とはいえ、使用人の仕事をしたことがない、右も左も分からない新人に対して容赦ないのはちょっと……いや、かなり引くよね」

「……まだ何も言っていないのに、あたかも俺の心情を推し量ったような口ぶりで言うの、やめてもらっていいですか?」

 ヴィアトリカ・ビンセント邸の西側、一階のゲストルーム内にて、ルームメイトのエドガーに冷ややかな視線を投げかけつつもそう、荒巻はとげとげしく返事をした。

 気品のある上下白のスーツを着用し、耳に掛かるくらいの黄土色の髪に緑色の目をした青年エドガーは、とある事件を追ってここまでやって来た探偵だ。

 現在、家主のヴィアトリカお嬢様から許可を得たうえで、客人として屋敷に住みついている。

 二十六歳の悠斗よりも年下であることは明らかだったが、『二十歳くらいの荒巻雄馬の設定』にのっとり、ヴィアトリカ、ロザンナ、エドガーと会話をする時は敬語を使っていた。

 もともと童顔であるがゆえ、この屋敷に住む誰からも悠斗が実は、自分達よりも年上であることを認識されていない。

 薄ら悲しき現実ではあるが、悠斗の立場上、その方が都合がいいことに変わりなかった。

 今日も今日とてロザンナに散々こき使われた後、荒巻は部屋に入るなり、気さくに声をかけてきたエドガーに返事をする気になれず、無視をしてしまった。エドガーがまさか、荒巻の心を見透かすとは思わずに……だ。

「きみから直接、事情を聞かずとも顔色を見れば分かる。今の仕事にだいぶ不満を持っていてなおかつ、教育係のロザンナに嫌気がさしているんだろう?」

「だったら……なんだって、言うんです?」

 ズバズバと言い当てるエドガーに薄ら恐怖を抱きつつも、反抗的に返答する荒巻。その反応を見て含み笑いを浮かべたエドガーが、気取った口調で荒巻にこう言った。

「今すぐにでも、方向転換することを勧める。こうして、探偵の俺達が、ルームメイトとして同じ部屋で過ごしているのも何かの縁……ってことで、コンビを組まないか? ちょうど今、厄介な難事件を抱えていて、俺だけじゃ解決出来そうにないんだ。頭脳明晰のきみが手伝ってくれると、とても助かるんだけど……今なら、不向きなロザンナや使用人の仕事から解放される特典が付いてくるぜ?」

 そう言って、ウインクしたエドガーからの突然の誘いに、荒巻は目を瞠った。

 だが、メンタルがやられるんじゃないかと思うほどの毒舌なロザンナから、退屈な使用人の仕事から解放されるのならと、荒巻は真顔でエドガーに返事をする。

「いいぜ。俺で役に立つのなら、エドガーとコンビを組む」

「交渉成立……だな。これからよろしく頼むぜ、相棒!」

 気取るような笑みを浮かべて手を差し伸べてきたエドガーに、含み笑いを浮かべる凜々しい顔で荒巻はがっちりと握手をする。

 こうして、真の正体を隠し、自ら探偵と偽る荒巻は、探偵と称するエドガーとコンビを結成したのだった。

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