第15話(シャドウブレイド視点)
「ホイはタゲを取ったまま逃げ回れ、ドーマンは左、私は右をやる!」
シャドウブレイドはそう叫ぶと、次の瞬間には
「製鉄まつり」が終わってからは、この三人で行動することが増えた。スティールハートが使いそうな素材を収集するのが目的だった。
「まず一匹!」
シャドウブレイドがそう叫ぶと同時に、もう一匹の魔物の口の中に巨大な石柱が押し込まれて身体が引き裂かれた。ドーマンの石魔法では
「もう一匹も終わりましたよ」
ドーマンは涼しい顔でそう言った。
残った一匹をドーマンが土魔法を使って拘束すると、シャドウブレイドは頭上から急所に斬りつけて最後の敵を倒した。
「いやーこわかったにゃ。だけどレベルが50に上がったにゃ!」
ほいっぷるん♪はそう言ってその場に座り込んだ。最初のうちは足手まといだと感じることも多かったが、最近はなかなか立ち回りが上手になっている。
直接的に敵を倒さなくても、敵の注意を引いて逃げ回り、たまに治癒魔法を使ってくれれば十分に役立つ。敵のレベルが彼女よりもずっと高いことが多いので、あっという間にレベルも上がった。
「しかしドーマン、クランの活動のほうは放っておいていいのか? たしか卿は副リーダーだっただろう」
「南のダンジョンを独占しろという命令には辟易しておりましてね。小生の
ここはフェッリ村近郊の山岳地帯にある小さな湖で見つけた穴場だ。
「さて、砂鉄を集めましょう。なに小生が召喚魔法でゴーレムを使役するので簡単ですよ」
ドーマンはそう言って五匹ほどのゴーレムを召喚して採集作業に当たらせた。彼を呼び寄せた理由の一つがこれだ。退屈な作業が圧倒的に楽になる。彼は土魔法が一番得意だが召喚魔法の腕もなかなかのものだ。
今までソロでばかりやっていたが――気心の知れた仲間と組むパーティプレイも、案外悪くない。そう認めざるを得ない。自分の中で何かが変わり始めているのかもしれない。
「凄い素材も手に入れたことだし、そろそろスティールハートの工房に行ってみないかにゃ?」
ほいっぷるん♪が提案した。もう一週間以上会っていない。フレンド登録されているので、毎日ログインしているのは知っているのだが、向こうから連絡が来る気配は一向になかった。
「製鉄まつり」で入手した素材をすべて使い切るまで工房に籠もるつもりなのかもしれないが、依頼したAランク刀の進捗具合も気になる。
「オークションには何回かA-の武器や道具を出しているので、ひょっとしたらAランクの武器をすでに作っているかもしれませんね」
どうやらドーマンも同意見のようだ。
「……よし。
シャドウブレイドがそう言うと、ほいっぷるん♪とドーマンも頷く。
一行は、そのままフェッリ村まで引き上げて解散した。
***
『アルティマット・アンリアリティ』からログアウトすると、「シャドウブレイド」は「
「あーあ、またリアルに戻ってきちゃった」
早姫はそう呟くとゆっくりと時間を掛けてVRスーツを脱いだ。そして、傍らに立てかけられている松葉杖をつかみ、顔をしかめながら必死で体を起こす。
「大丈夫、早姫ちゃん? 手伝おうか?」
部屋の外から母の声が聞こえてくる。そろそろログアウトする時間だと見越して待ち構えていたのだろう。
「大丈夫。これもリハビリだから、放っておいて」
早姫はそう言うと壁によりかかりながら、取り出しておいたガウンを羽織った。このような単純な所作にもいちいち時間がかかる。そして松葉杖を頼りにゆっくりと歩を進めた。
「お母さん、こういうのは全部捨ててって言ったでしょ!」
リビングまでたどり着くと、早姫は棘のある声を出した。彼女の視線の先には数々のトロフィーが専用の棚に陳列されている。棚の最上段には全豪オープンを勝ったときの大きなトロフィーが一段を丸ごと占有して飾ってあった。
「だけど、お父さんもとっても誇りに思ってたのよ……」
心配そうに早姫のすぐ後ろをついてきていた母が悲しげな声で囁く。あの事故のとき、身を投げ出して自分を庇った父のことを出されると辛い。
「じゃぁ、捨てないでもいいから、せめて私の目につかないところに置いて。お願い」
早姫が声のトーンを落としてそう言うと、母は「わかったわ……」と小声で答える。
「ずっとゲームばかりしてるけど、大丈夫なの? いくらなんでもやり過ぎじゃないかと心配だわ」
「大丈夫。むしろリハビリになるし、健康にも良いって、芦屋先生も言っていたでしょ?」
「それにしたって。寝てる時間以外はほとんどゲームをしてるなんて異常よ」
「じゃぁ、どうしろっての? 外に出て醜態を晒して、週刊誌に写真を撮られて世間の同情を集めてこいって言うの? そんなの絶対に嫌!」
言い放った瞬間、母の悲しそうな顔を見て胸が締め付けられた。また声を荒らげてしまった。
母のことは好きだし、感謝もしているというのに、アスリートだった頃には当たり前にできていたはずのメンタルコントロールは、一体どこへ消えたのか? 我ながら情けない。
そう思ったとき、ふとあのドワーフの鍛冶師、スティールハートの顔が脳裏に浮かんだ。こんな情けない姿は絶対に見せられない。そして、そう思うのならば、態度を改めるべきだろう。
「ごめん……。ちょっとシャワー浴びてくる」
早姫はそう言い残して、バスルームへと向かった。
『アルティマット・アンリアリティ』に嵌っているのは、あの世界自体が奥深いからというのもあるが、それだけではない。
事故の前の自分よりもずっと優れた肉体。翼が生えたように高く飛ぶこともできれば、稲妻のようなスピードで動くこともできる。
私の反射神経に完全に反応することができる肉体を操るのが楽しくて仕方がない。健康な肉体を鍛えてもたどり着けない境地を味わうことができる。
それを言えば、母も理解を示してくれるかもしれない。だけどそれを言うと「リアルで動けなくなった哀れな人間の現実逃避」だと誤解されかねない。
現実逃避だと思われるのが悔しいから口に出したことはない。実際に単なる現実逃避なのかもしれない。でもそれ以上の何かがあの世界にはあると早姫は信じたかった。
松葉杖なしでは立っていることも難しいので、早姫は壁によりかかりながらシャワーを浴びた。
リビングに戻ると母が食事を用意してくれていた。母は元栄養士で現役時代にも手作りの料理で私を支えてくれていた。今もプレー中に摂取することが難しい栄養素を中心に献立を考えてくれている。
「ありがとう。いただきます」
早姫はそう言うと、テーブルの対面に座っている母をちらりと見た。目が合うと母はにっこりと微笑み、彼女も不器用な微笑みを返す。
自分のことを本当に心配してくれる人がいて、熱中できることもある。もう悲劇のヒロインみたいに振る舞うのはやめるべきだ。そう思った瞬間、ガウンのポケットに忍ばせてあったスマホがブブッと震えた。
『わかった。じゃあ明日きてくれ』
通知をタップすると、スティールハートからのぶっきらぼうな返信が表示された。
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