第2話

翔太に出会ってから、優佳の生活は明らかに変わった。以前は無関心だったアイドルの世界に、今ではすっかり心を奪われていた。最初はただの興味本位だった彼のことを追いかける日々が、いつしか優佳の生活の一部となり、翔太の存在がどんどん大きくなっていった。

翔太が出演するテレビ番組やラジオ番組は、優佳にとって欠かせない時間となった。毎週録画して、帰宅後に何度も再生しては、彼の表情、声、仕草を隅々まで観察した。特に、彼が見せるふとした素顔や、無邪気な笑顔に心を奪われることが多かった。完璧に思えるその姿の裏に、少しだけ見える人間らしい弱さや優しさを感じるたびに、優佳の胸は締めつけられるようだった。


「翔太、こんなに素敵な人がいるんだ…」


彼を応援することに、次第に深い意味を見出すようになった。翔太がどれほど多くの人に愛され、どれほど忙しくても常にファンを大切にしている姿を見て、優佳はますます彼に引き寄せられていった。彼の笑顔や優しさは、疲れた心に無償の癒しを与えてくれた。


だが、それと同時に、優佳の中にはある種の不安が芽生えていた。翔太の人気がどんどん高まるにつれ、彼にはたくさんのファンが集まるようになり、その中で自分の存在がだんだんと小さく感じられるようになった。彼にとって、自分はただの「一人のファン」にすぎないのだと、どこかで現実を突きつけられているような気がした。


ファンミーティングやイベントで彼と目が合った瞬間、優佳の胸は高鳴る。しかし、その一瞬の嬉しさが過ぎると、ふと彼との距離感を感じてしまう自分がいた。翔太はあまりにも多くのファンに囲まれている。そして、自分の存在がその中で本当に意味があるのかどうか、時折考えてしまう。


「私は、ただの一人のファンにすぎない…」


そんな気持ちが浮かぶ度、優佳は心の中で自分に言い聞かせた。


「でも、私は翔太が好きなんだ。」


この一言を胸に、彼女は自分の気持ちを整理し、推しを応援することに決して後悔はないと強く感じた。しかし、思いがけずに感じる孤独感もまた、優佳にとっては切なくも美しい一つの感情だった。


ある日、優佳はついに勇気を出して、翔太が出演するイベントに参加することを決めた。以前からファンイベントに参加することには少し躊躇していたが、どうしても彼に一度、直接応援の気持ちを伝えたかった。


その日、会場には翔太を見ようと集まった多くのファンがいた。優佳もその中に身を沈め、会場の一体感を感じながら待っていた。やがて、翔太がステージに登場すると、会場中が一斉に歓声を上げた。その姿を見た瞬間、優佳の胸は高鳴り、目の前にいる彼が本当に「翔太その人」だという実感が湧いてきた。


イベント中、ファンとの交流の時間が訪れ、優佳もその場に参加した。彼女は緊張しながらも、自分がどれだけ翔太を応援しているかを伝えたかった。


「翔太、ずっと応援しています。」


その言葉を、翔太がじっと目を見て受け止めると、彼は微笑んで答えた。


「ありがとう。君の応援が僕にとって本当に大きな力になっているんだ。」


その瞬間、優佳はまるで世界が一瞬で静止したような感覚に包まれた。翔太の優しい笑顔は、彼女にとって、何よりも尊いものに感じられた。そんな彼の言葉が、優佳の心にしっかりと刻み込まれた。


「私は、もっと翔太を応援していきたい。」


その瞬間、優佳は確信した。翔太の幸せを心から願い、彼を支えることが、どんなに遠くても自分の役目だと感じるようになった。そして、その気持ちは日を追うごとに強く、深くなっていった。


しかし、同時に心のどこかで不安も芽生えていた。それは、翔太がこれから先どんな道を歩んでいくのか、自分がその一部として関わり続けられるのかという不安だった。彼が人気を集め、ますます輝く存在になるにつれて、その影響力はどんどん大きくなり、自分の存在が薄くなってしまうのではないかという恐れがあった。


でも、優佳はすぐにその不安を振り払うように心に決めた。


「私は私。推しを応援し続ける限り、それが私の役目。」


その思いが、優佳を前へと進ませた。翔太がどんな選択をしても、どんな道を歩んでも、彼の幸せを願い、応援し続けること。それが、彼女にとって最も大切なことだった。


ここまでで第二章を描きました。翔太に対する優佳の気持ちや不安、また彼女の決意がより深く描けたと思います。次章でも引き続きこの調子で展開していきますので、感想やリクエストがあれば教えてくださいね!

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