異形記録ファイル

異形記録ファイル

無力級

異形-No.303「願いの天秤」

■――■【基本情報】■――■

【報告書ID】KP-2049-10-10L

【作成日】日ノ出暦 2049/10/12

【最終更新日】日ノ出暦 2050/01/05（律眼による因果律解析完了）

【閲覧レベル】レベル4（特定の職員による悪用を防止するため）

■――■【事案概要】■――■

1. 異形観測・出現情報

【異形名称】異形-No.303「願いの天秤」

【異形階級】無力級（生体捕獲済み）

【発生地区】日ノ出 中部地区 閑静な住宅街の一角（古民家内）

【異形観測装置記録】異常波形はほぼ皆無。ただし、周辺地区の「幸運度・不運度」の統計的偏りを八咫烏のデータ解析が検知し、発覚。

【被害状況】直接的な被害なし。ただし、周囲数キロメートルで「宝くじの高額当選」と「原因不明の不審死」が同数発生するという、不自然な因果の均衡が確認された。

2. 対応作戦情報（終火奏報告）

【作戦名】作戦「静かなる均衡」

【作戦コード】OP-TS-150

【対応部隊】終火奏 第九部隊（隊長：職員コード TK-0012）

【隊長階級・氏名】金剛級 / 月読 慎司

【出動兵力】金剛級 1名、銀英級 1名、八咫烏 観測班 2名

■――■【詳細経過および記録】■――■

3. 戦闘・捕獲・研究プロセス

[終火奏 第九部隊 捕獲過程]

10/10 14:00、現場の古民家に進入。異形-No.303は床の間に安置された「真鍮製の古い天秤」の姿で確認された。異形は一切の物理的攻撃手段を持たず、近づく隊員に対しても無反応であった。

月読隊長が神威で室内をスキャンしたところ、天秤の周囲で因果律の糸が物理的に絡み合っていることを視認。この異形は「願った者の望みを叶える」代わりに、「それと同等の対価（不幸）をランダムな他者に押し付ける」性質を持つと断定された。一切の抵抗がないため、神威による因果の遮断を行い、特殊収容箱にて捕獲完了。

[律眼・帳 収容後処置]

「帳」の投獄レベル1（特別概念収容室）に収容。律眼による実験の結果、天秤の片皿に「望み」を記した紙を置くと、もう片方の皿に「対価の内容」が自動的に出現することが判明。この交換は絶対的であり、拒否することは不可能である。

4. 作戦中の通話記録（主要記録）

14:10 [隊長/月読] → [管制]: 「目標を発見。……これは、ただの道具に見える。だが、この部屋の因果が歪みすぎていて、吐き気がするぞ。」

14:15 [八咫烏 観測員] → [隊長/月読]: 「隊長、触れないでください。その天秤、今この瞬間も『誰かのささやかな願い』を吸い上げ、別の誰かの寿命を削っています。」

14:20 [隊長/月読] → [管制]: 「収容箱へ隔離した。因果の糸が切れた……。周辺の『異常な幸運』もこれで止まるはずだ。」

5. 討伐兵への聴取記録（録音反訳）

聴取対象者: 金剛級 月読 慎司（職員コード TK-0012）

聴取担当: 職員コード HR-0022 / 異形人事部

聴取日時: 日ノ出暦 2049/10/15

[質問者]: 異形から「語りかけ」はありましたか？

[対象者]: 声はありません。ただ、天秤を凝視すると、自分の頭の中に『何を望む？』という選択肢が浮かび上がってくるんです。私の場合は『失った部下の蘇生』でした。その瞬間に、対価として『日ノ出の1地区の全滅』が天秤の反対側に提示された。

[質問者]: それで、どうしましたか。

[対象者]: 吐き捨てて、箱に放り込みましたよ。あれは「無力級」なんて名前で呼んでいい代物じゃない。最も邪悪な異形だ。

6. 討伐・収容結果

【最終処置】生体捕獲完了（帳へ永久収容）

【異形残骸/収容状況】本体を「因果遮断合金」製の箱に封印。帳の最深部、人の思考が届かない真空室に保管。

【最終被害報告】直接的な被害はゼロだが、周辺地域で過去1年間に発生した「不自然な死」14件が、この異形の対価であった可能性が高い。

【討伐兵負傷報告】なし。ただし、月読隊長および同行隊員に対し、精神的ケアと記憶処理（レベル3）を推奨。

■――■【技術・研究情報】■――■

7. 異形の詳細特性（律眼報告）

【世界滅亡予測】もし全人類がこの天秤の存在を知り、己の欲望のために使用し始めた場合、因果の等価交換が連鎖的に発生。最終的には「全ての幸福」と「全ての不幸」が相殺され、世界から「変化」や「可能性」という概念が消失し、静止した死の世界へ至ると予測。

【世界滅亡クラス】概念

【外見・形状】精巧な装飾が施された真鍮製の天秤。左右の皿は常に完全な平衡を保っている。

【観測された特異性】「因果の強制交換」。願望を具現化する代わりに、同等の負の事象を世界に発生させる。

8. 災抱武器製造（火鎚報告）

【製造対象異形】異形-No.303（一部組織の抽出に成功）

【災抱武器名称】因果の裁定者（カルマ・ジャッジ）

【災抱レベル】レベル5（運用凍結中）

【特性/主要能力】敵に与えたダメージを、自分ではなく「全く無関係な第三者」に転嫁する。

【適正試験合格者】エルダーセブンにより製造・使用を永久禁止。 人道上の理由および因果崩壊のリスクが大きすぎるため。

■――■【特記事項・機密情報】■――■

9. 八咫烏からの指示・処置

周辺住民に対しては「古い呪物に関する都市伝説の調査」としてカバーストーリーを流布。天秤に触れた可能性のある者全員にレベル5の記憶処理を実施。

10. 記録保管・機密情報統制

【関連ファイル】RIT-303-LAW（因果律操作理論）、LAW-SECRET-X（使用禁止災抱武器リスト）

【紙椿補足】本報告書はエルダーセブンの直轄管理とする。この異形を利用した「国家運営の最適化」を提言した職員は、即座に職務解任および記憶処理の対象とする。

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