Epi.9-2: 凛の望まぬ再会

唐突にドアが開いた。

「美咲さん! あーしだよ! って! あーっ! この間見た子だ!」

由香が凛を指さした。


「開けるなりうるさいわね」

美咲が眉をしかめた。


「初めてここに来た時に会ったんだよ。かわいいよね!」


ささっと二人に近づき、凛の顔を覗き込む。

凛は無言で顔を背けた。


「照れてるー。かわいー」

由香が凛の頬を指でつんつんと突いていた。


「照れてない!やめろ!」

凛が由香の指を振り払う。


「凛が嫌がってるでしょ、やめなさい」


「へー、凛ちゃんって言うんだね。あーしは由香だよ。よろしくー」

美咲の注意も何処吹く風で微笑みかけた。

しかし、凛は由香を睨みつけ、そっぽを向いた。


「あっ!そだ!今日の配信は凛ちゃんにも出てもらおうっと!」


悲鳴をあげそうな勢いで盛り上がる由香を見て、美咲がため息をつく。

「あんたね、凛の気持ちを無視して話を進めないの」


「そっかぁ……」

考え直したかに思われた矢先――

「凛ちゃん用のかわいい服を用意するから――ね!お願い!」

パシン!と手を合わせて頭を下げる。


少し長い沈黙の後「……服はいらない。……少しだけなら……」と小さく声を発した。


無視して出ていけばよかったのに、なぜ承諾したのだろう?

凛は自分でもその理由が分からなかった。


やかましくて、やたらと触れてくる。

こちらが動いて話すことを意に介さない。

……むかし、似たような経験をしたことがあったような気がするが……思い出せない。


「やたー!」

由香は座ったまま両手を振り上げ、ふらふらと体を揺らしている。

見ようによっては、踊っているようにも見えた。


「でも、配信予定の時間まで結構あるわよ?そんなに待たせるのはかわいそうでしょ」

暗に、あまり乗り気ではない凛を解放するように言った。


「あー、そっかー」

由香は人差し指を唇に当て、視線を彷徨わせて何かを考えている。

何かを思いついたのだろう。

ぱんっと手を叩くと満面の笑みで「じゃあ、今やっちゃおう! ……えーっと……奇襲配信!ってやつ!」

由香は勢いよく言い放ったものの、すぐに「あれ……違ったっけ……」と眉をひそめ、小声で何かをぶつぶつと呟き始める。


「……ゲリラ配信のこと?」


「そうそれ! 美咲さんってば博識!」

由香がさらに盛り上がった。


「……まあいいけど、あんた、怪異遭遇率100%の配信をするって言ってなかった? さゆりもしのぶもまだ戻ってきてないわよ?」

グラスの液体で喉を潤しながら美咲が言った。

その言葉には『凛を逃がしてあげたい』ということを含んでいたが、由香はもちろん気づかなかった。


「ふふーん、凛ちゃんは動いて喋れる人形でしょ?つまり、凛ちゃんも怪異なのでーす!」

バンザイをするように両手を上げ、自分で黄色い悲鳴もあげていた。


美咲はため息をひとつついてから、ボソッと呟いた。

「それって、凛がじっとしてたらアウトじゃない?」


「凛ちゃんはそんな事しないよ。ねー、凛ちゃん」

凛に微笑みかけた。


「……」


「あれ? おーい、凛ちゃーん」

凛の意識を確かめるように目の前で手を振る。

しかし、凛は微動だにしない。

まるで、普通の一松人形のように。


「なんでそんな意地悪するの? ねえ、凛ちゃん」


人形が話そうが動こうが、気にしないどころか喜ぶ。

さっきまで笑っていたかと思えば、急に泣きそうな顔になる。

こっちの都合は聞かず、自分の都合を優先する。


――思い出した。


子供に似ているんだ、この女は。


「……うるさい」

凛の冷淡な声が由香に向けられた。


「凛ちゃんが喋ってくれたー! もう相思相愛だよね」


「……あのさ、ほんとにうるさいからね?」

美咲の諦めたような声は由香には届かなかったが、ふたりを見る美咲の目は優しかった。

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