第2話 異例の招集

若かりしころの俺は、声高々に叫んだ!


「不審な死の原因は、明らかになるべきだ!

 それを明らかにすべき人間が、組織が、この都市には必要だ!」


そして、それは俺では無かった。


恥ずかしい。心底恥ずかしい。



俺の職場である「都市治安局」は、まさに俺がやりたいことができる職場だった。

迷宮都市内で不審な死があれば、その事件を捜査し、犯人を捜し追及し検挙し、長年にわたり都市の治安を維持してきた。

その主軸となるのが、治安局に所属する「捜査官」たちの存在だ。


捜査官は、己の経験や知識、そして何よりも強力な個人の能力である「スキル」を駆使して難解な事件をいとも簡単に解決していくのだ。


かくゆう俺も捜査官の端くれではある。

端くれではあるが、ただの端くれでもある。


俺がこの捜査官としての仕事を続けて20年弱、実際にやれたことは極めて少ない。

冒険者になれなかった理由と同じように、俺が迷宮都市の捜査官として活躍できなかった理由もまたいろいろあるのだ。




「ご苦労様です!」


治安局の入り口に差し掛かった俺は、年若い衛兵に元気よく声を掛けられる。

長年勤めている職場だ。当然俺は、彼のことを見知っているし、彼もまた俺が捜査官の一人だということを知っている。


ただ、職種も違い経験も少ない彼は、俺の治安局内での立ち位置について、まだあまりわかっていないのだろう。

俺にかけてくる声や言葉に、嘲りも見下すような態度も、今のところ感じられない。


「や、今日も元気だね。お子さんの風邪は治った?」


40過ぎのおじさんに必要なのは人当たりの良さと謙虚さだ。

軽い調子で世間話しを交わして、いつもどおりに俺は治安局の中に入る。


都市治安局の建屋は、この迷宮都市の中でも最初期に建てられた建造物の一つだ。

物資も人もまだそれほど潤沢でないころに建造されたそれは、見た目以上に造りがオンボロである。


その歩くたびにガシガシと上下に大きく揺れることで有名な玄関から真っ直ぐに伸びる中央廊下を、今日もまた大きく揺すりながら大柄な男が俺に向かって走ってきた。


「主任!お疲れ様です!」


こいつもまた若者特有のハキハキした大声で俺にあいさつをしてきた。


大柄な体格とそれに似合う声量で、存在感がすごい。

背も高ければ胸板も厚く、性格は明るく人懐っこい。人と話すときの前のめり感は、大柄な体躯で押し潰してくるのじゃないかと不安になるが、温和そうな表情からは大型犬のような雰囲気も感じられる。


まぁ、つまりは俺と対極の位置にいるような奴ということだ。


「おはよう、ケイスター。なにか事件が起きてるのか?」


当然、俺はこの建屋に足を踏み入れた瞬間に、そういう雰囲気を感じている。つまり確認のようなものだ。


「はいっ!玄関で主任殿を捕まえて検分室へ連れて来いとの局長じきじきのご命令がありました!」


「局長じきじき?」


それは特殊な状況だ。

難解な事件が起こったことの証左でもある。


局長というからには、この治安局のトップである。それが、一つの事件解決のために先頭に立つなどということは滅多に無い。

今回起きた事件というのは、つまりそういう類の事件ということだ。


「なんで俺まで?」


当然、局長は俺の力量を正しく把握している。


「いえ、詳しい事情は知らないのですが、今朝起きた事件の関係で捜査官全員を招集しているようです。」


全員?

それはとんでもない事件だな。


この治安局に所属している捜査官は、40人ほどだ。

そして、当然その全員が、捜査官になる絶対条件である「スキル」を覚醒させている。


局長は、捜査官全員のスキルを駆使しなければ解決できないと判断したのだろうか?

いや、流石にそんな事件は前代未聞だ。聞いたことがない。


スキルというのは、人智を超えた能力だ。

スキルは、非常に強力な力であり、大抵のことが出来てしまう。

それぞれのスキルごとに限界は確かに存在する、が、できることに比べたらそれは些事と言っていいだろう。


スキルの一例を挙げるならば、離れた場所に一瞬で移動するスキル、身体を透明にするスキル、防御不能の一撃を繰り出すスキルなど、多種多様な能力の存在が確認されている。


迷宮に挑戦する冒険者は、必ずその覚醒を目指す。

なので迷宮都市に住まう人間にとって、スキルの存在は身近だ。


だが、冒険者がそれを利用して迷宮に挑む反面、迷宮外における事件・事故の類にもスキルの存在が大きく関わってしまっている。

迷宮都市の規模が大きくなればなるほど、その人間関係は複雑で、衝突も多くなった。

通常の都市に住む人間同士であれば、せいぜい刃傷沙汰が関の山という事件も、この迷宮都市では、スキルを使った大規模な戦闘行為に発展しうる。


そんな迷宮都市特有の事情を鑑みて組織されたのが、我が都市治安局であり、その構成員たる捜査官たちなのだ。


スキルによる事件には、スキルで対応せよ、という当然の理屈だ。

そういう経緯があるので、捜査官が持つスキルは、事件の捜査に役立つ能力が非常に多い。


スキルは、一人ひとりが固有のものを持ち、似たような能力はあれど、全く同じ能力は存在しないと言っていいほど多様だ。

治安局側が、捜査官に向いたスキルを覚醒させた人間をスカウトしにいくこともたびたびあるくらいである。


そんなスキル持ちを多数招集して、解決できない事件があるのだろうか。


俺は疑問に思いながら検分室へ急いだ。

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