第2話の斉藤

 ポカポカの太陽。

 子どもたちの笑い声。

 公園のベンチと缶コーヒー。



 俺の名前は斉藤 達也、三十二歳。独身。

 先日、無職になりました。


 上司を──部長を殴り飛ばしたためです。

 あの野郎、同期のアイツばかりを贔屓して、俺にはゴミのような仕事しか回さねぇ。アイツの親父がどこぞの議員と懇意だとかなんとかで。

 あまつさえ、俺のことは陰で“敗戦処理係”なんて呼びやがる。負け犬には似合いの仕事だと。


 それでも──それでも俺は、頑張ったんですよ。

 孤軍奮闘、駆けずり回ってようやくデカい仕事を取ってきた訳です。

 それを掠め取られたと知った時、気付いたらもう、俺の右手はヤツの頬に埋まってた訳です。


 あーあ。

 九年間勤めての懲戒解雇。退職金はなし。

「警察沙汰にしないだけ有難いと思え」と苦々しく吐き捨てたヤツの顔を思い出すと、まだ腹が立つ。


 しかし、怒りじゃ腹は膨れない訳で。

「仕事、探さなきゃな」

 そう呟いて、手の中の封筒から書類を取り出した。

 出がけにポストに届いていた、離職票だ。


 氏名の欄には

『斉藤 達也』

 と書いてある。


 俺の藤の字、本当は草冠の間が空くヤツなんだけどな。

 ま、そんなこたぁ誰も気にせんでしょうがね。

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