第1章 第2話 異変と決断
「魔法適性検査」
それは凡人か天才かを分ける、残酷なイベントだ。
だが、僕に見えているのは「数値」ではない。
――ただの「パラメータ設定値」だ。
第1章 第2話
異変と決断
1.15。
(異常値だ)
転生三週間。視力が発達し、部屋の隅の金属球――マナ濃度計の数値が、はっきり読める。
通常変動幅:0.95〜1.05。
潮汐マナの影響で±0.1。
今、1.15。標準偏差の2倍超。
(確率論的に、異常事象)
「また上がったのか!」
父が飛び込んできた。
「くそ……バルドゥンの言った通りだ」
母が駆けつける。「LEIの影響?」
「間違いない。三日で0.2上昇。自然変動じゃない」
(LEI。世界安定度指標。これが動けば……)
俺はベッドの柵を掴んだ。小さな手で、精一杯。
(マナ濃度 → LEI → 何かが起きる。因果の連鎖だ)
午後、バルドゥンが現れた。
「LEIが閾値の8割に達した。各国に警告が出ておる」
(閾値の8割。ゲームで言えば警告エリアだ)
革袋から青白い結晶が溢れる。「純度98%の精製マナ」
父が手にかざす。光球が浮かぶ――前回より明るく安定。
「品質で魔法の出力が変わる……最適化みたいだ」
バルドゥンが俺を見る。「坊主、これが商売だ。需要と供給、リスクとリターン」
父が悩む。「在庫リスクが……」
母が頷く。「半分だけ。分散しましょう」
(合理的判断。ポートフォリオ最適化だ)
握手が交わされる。
(マナ市場 = エネルギー経済。魔法 = 技術。全部つながってる)
バルドゥンが去り、母が俺を窓辺に連れて行った。
「見て」三本マストの帆船が入港する。帆が青白く光る。
「【マナ推進帆船】」
母が手をかざす。微風が起こる。
「【微風召喚】」
目を閉じる。数秒後――「潮が変わった」
(感知系魔法。環境センサーとして機能)
「でも、魔法には危険もある」
母の声が震える。
「先輩が……マナ暴走を起こした。【水流制御】を過負荷で」
(水流制御。水圧制御アルゴリズム的なものか)
「手が光ったまま、消えなかった。三日後に……」
母が俺を強く抱く。
「約束して。魔法を使う時は、必ず『なぜ』を考えて」
俺は母の腕を掴んだ。
(約束する。理解してから実行する。デバッグの基本だ)
夕方、影が長くなる頃。
階下から使者の声。「アルタニア王国が関税40%引き上げ」
「40%だと!?」
「明日、緊急評議会です」
使者が去り、父と母だけになる。
「経済戦争だ……」父の声。「選択肢は三つ」
指を折る。「アルタニアに従う。別ルートを探す。自分で運ぶ」
母が黙る。長い沈黙の後――
「……私が操舵する。この子を置いていかない」
「三人で行く」
(船出。リスク高いが自由がある。独立系開発者みたいだ)
窓の外、夕陽が海を赤く染める。
(家族という最小単位で、世界と対峙する)
夜。
海が異常に明るい。マナ濃度計:1.18。
(視覚化されたエネルギー密度。熱力学で言えば黒体放射に近い)
頭の中でモデルを構築する。
if LEI > 0.8閾値:
マナ密度上昇 → 市場不安定 → 国家緊張
if 緊張継続:
衝突確率上昇
(条件分岐。閾値を超えたら、別のシナリオへ)
その時――
ガンガンガン!
警鐘が鳴り響く。
「何だ!?」
窓の外。港に人々が集まる。松明の光。
海面が激しく波立つ。
(イベント発生。トリガー条件満たしたか)
マナ濃度計:1.20。
(上限突破。システム限界に近づいてる)
警鐘が鳴り続ける。
(観察者の役割は終わった)
(次は……参加者だ)
小さな拳を握る。
(この世界のコードを、一行ずつ読んでいく)
(バグがあれば、見つけ出す)
(システムが暴走すれば、止めてみせる)
転生者として。
プログラマーとして。
この家族の一員として。
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【第1章 第2話】
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「……計測不能? 故障か?」
ざわつく試験会場。
違う、故障じゃない。
僕がうっかり、測定器の上限(桁数)を超えてしまっただけだ。
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