第20話 面接

ドアをノックすると、スーツ姿の男性面接官が優しく微笑んだ。


「どうぞ、リラックスして座ってくださいね。緊張しなくて大丈夫ですよ」


その一言だけで、肩の力が少し抜ける。


「では、コースを希望された理由を教えていただけますか?」


事前に練習した内容を思い出しながら、ゆっくり言葉を選ぶ。


「不動産の仕事に興味も持ちまして、その足がかりとして宅建を学んでみたいと思いました。あとは、資格を取れば自信にもなると思いましたので、勉強も頑張ってみたいとも思いました」


面接官は大きくうなずく。


「なるほど、しっかり考えていますね。宅建は大変ですが、努力すれば必ず取れます。授業もサポートも手厚いので、一緒に頑張りましょう」


まるで入学後のフォローまで保証するような言い方に、胸が少し温かくなる。


「生活面で困っていることなどはありますか? サポート制度もありますよ」


「今は無料宿泊所にいて……でも、落ち着いて勉強できる環境を作りたいと思っています」


「大丈夫です。訓練校からのフォローもあるので、不安があればいつでも相談してくださいね」


面接は拍子抜けするほど優しく、10分ほどで終わった。


別室では、朝倉が緊張で指先を少し震わせている。


しかし面接官の女性は、まるで友達のように柔らかく微笑んだ。


「そんなに固くならなくていいですよ。

 経理コースを希望した理由、聞かせてもらえますか?」


朝倉は深呼吸して、静かに話し始める。


「人より得意なことは少ないんですけど……数字を扱う仕事は落ち着いて取り組める気がして。人から几帳面で真面目だと言われることが多かったので、もしかしたら向いてるのかなと思いました」


「素敵ですね。それ、立派な適性ですよ」


面接官は、まるで褒めるように言う。


「簿記2級を取れば、就職の幅が大きく広がります。会計事務所にも行けますしね。

 私たちも全力で応援するので、一緒に合格を目指しましょう」


朝倉の表情が、ほんの少しだけ明るくなる。


面接は和やかに進み、最後はこんな言葉で締めくくられた。


「今日お話した感じなら、コースにとても適していると思いますよ。

 入校したら、楽しく学んでいきましょうね」


面接を終えて廊下に戻ると、俺と朝倉は同時に息を吐いた。


「……なんか、思ったより優しかったな」


「うん……もっと厳しいのかと思ってました」


すれ違う訓練生たちは笑顔で談笑していて、学校というよりコミュニティのような温かさがある。


二人は自然と顔を見合わせ、

「受かりそうな気がするね」と小さく笑った。


その笑顔は、久しぶりに心からの笑顔だった。

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