第16話 現実

翌朝。

薄い湯気の立つ味噌汁に箸を動かしながら、俺と朝倉は今日の予定を確認する。


「朝イチでハローワーク。午後は応募した会社の面接だな」

「私も二件…なんとか一つくらい通りたいですね」


その後、数日間就職活動を続けていたが……


(今回はご縁がなかったということで…)


メールが届くたびに、俺と朝倉は気分が沈んでいった。


「空白があると、本当に弾かれるんですね…」

「俺も。面接どころか書類すら通らない」


二人とも、努力して前に進もうとしているのに、過去が足を引っ張る。


やっと辿りつけた面接でも……


「ネットカフェ生活…? なるほど。で、なぜすぐに職につかなかったんですか?」

「…環境が整わなくて。その、面接を受けるにも…」


面接官の目が、興味ではなく評価の光に変わる。

朝倉も同じ壁にぶつかっていた。


「前の会社が倒産して…でも、ちゃんと働く気はあります」

「そうですか。でも即戦力を求めてましてね」


形式的に頭を下げられて終わり。

二人の足取りは、帰り道だけ妙に重い。


「……私、もう正社員は無理なのかな」


共同スペースの薄い蛍光灯の下。

コーヒーを手に、朝倉がぽつりと言う。


「そんなことない。けど……今のままだと、受かる気がしない」

「そうだね……」


不安を言葉にすると、沈黙がひどくリアルにのしかかる。

だが、沈黙を破ったのは朝倉の小さな決意だった。


「……訓練校、考えてみませんか?」


「スキル身につけて、空白を上書きするってことか」

「うん。今のままだと、ずっと落ち続けちゃう気がして」


二人の視線が自然と重なる。


正社員にすぐなる道は閉ざされている。

だけど、まだ別の道がある。


その夜、二人ははじめて現実を直視した上での前向きな選択を語り合った。





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