第15話 朝倉と夕食

就労支援の面談を終えた日の夜


俺と朝倉は食堂で一緒に夜飯を食べていた


「今日、三崎さん……優しかったね」


「ああ。あんなふうに、ちゃんと話を聞いてくれる人、久しぶりに見た」


朝倉は小さく笑うが、その笑顔はどこか疲れていて、安堵が混じっている。


「逃げるのは悪くないって言われて……なんか、泣きそうになった」


「俺もだよ。……ネカフェにいた頃は、逃げたら終わりだと思ってた。でも、あれって逃げたくなるほど限界だったってことなんだな」



そんな言葉を口にしたのは初めてだった。

朝倉は手を止め、そっとこちらを見つめる。


「ちゃんと……進んでる感じ、するね」

「まだ何も決まってないけど……今日は変わった気がする」


しばらく、二人で黙って食事を進める。

外はもう暗く、窓から見える街灯が橙色の光を落としていた。


「……ねえ」

彼女は味噌汁を両手で包んだまま、小さく言った。


「もし、また不安になったらさ……一緒に行ってもいい? 就労支援とか、役所とか」


「もちろん。俺も……朝倉がいてくれると、助かるから」


言ってから、少し照れくさくなった。

けれど、朝倉は素直に微笑む。


「じゃあ……二人で頑張ろうね」


その言葉は、約束というより確認。

今日という日が、本当に一歩になったことを確かめ合うように。


夕食を食べ終え、食器を返却口へ持っていく。

その瞬間、朝倉がぽつり。


「……こんなふうに明日の話ができる日が、また来るとは思わなかった」

「これからもっと増やしていこう。そういう日」

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