王子様系女子と仲良くなった 〜他の女子からの目線が鋭すぎる件について〜
キングコーカサスたぬき
第1話 大名行列
なんだこれは。
朝8時15分。白銀南高校の木目調の廊下に、舞台挨拶さながらのレッドカーペットが敷かれている。その豪華な道は2階に位置する、2年3組へと続いていく。
その両脇には女子たちが膝をついて並ぶ。令和の大名行列といわんばかりの景色に、男子生徒たちは呆れを通り越して、慣れ親しんでいた。
この景色は白銀南高校の日常であった。
そして8時20分。
1階の中央玄関から黄色い悲鳴が上がる。
今日の主役、
彼女は身長170㎝、金髪をセンターパートにして襟足はウルフ、ハワイの海のような瞳にカールした長い黄金のまつ毛。ほかの生徒と同じはずの紺色のブレザーも、彼女が袖を通せばブランドものだ。
レッドカーペットの上を歩く姿はさながら、どこかの国の王子様である。
黄色い悲鳴は波のように伝播し、王子の歩いたところはもはや声が出ていない。涙を流す者さえ見受けられる。そんな群衆に微笑みかけることもなく、無表情のまま歩いていく王子の姿に、人はまたしても惚れ直す。
こんな日々が1年以上続いているのだから、女子の推し活を理解できない男子にとっては謎の儀式でしかない。最初は異を唱える者もいたが、やがて推しへの熱量で押し流されて口を開かなくなるのが通例だった。
◇
男女別で健康診断が行われると、当然教室には男子の時間と女子の時間が生まれる。
どちらにしても、同性のみで集まると行われるのはいつもこれだ。
「じゃあ、狙ってる女発表会しようぜ! まずは俺からな!」
そう、恋愛トークである。
クラスの陽キャが教壇に立ち、自分の好みを恥ずかしげもなく発表する姿はさながら、好きな女の子発表ドラゴンだ。
女子の恋バナは生々しいと言われるが、男子の恋バナも大概だ。
男子の恋バナの最も底にある物は基本的に性欲だ。誰とやりたいだの、隣の高校のあの子はすぐに股を開くだの、低俗な会話が繰り広げられる。
時にはクラスのカーストが下位の者が突然晒上げに会うこともある。彼らは傷を負い、また一つ学校への憎悪の石を積み上げる。
そんな晒上げにすら合わないのがこの俺、
昔から男子とは趣味が合わず、幼稚園ではおままごとを得意とした俺だが、次第に女子グループのギスギスにも巻き込まれるようになっていった。そこで俺はすべてをかなぐり捨てて、どこの組織にも属さぬものになった。
かっこよく言ってみたが、要するに人間関係が苦手なぼっちである。
そんな俺だが、人を好きになることもある。
狙っているという表現はいかにも男子なので使いたくないが、実際そういう気持ちを持っている人がいる。
それがこの学校の王子様、王子 シルベである。
国宝級のビジュアルに、博学才類、身長ゆえの手足の長さからどの部活からも助っ人を頼まれる身体能力、そしてそれをひけらかさない謙虚な姿勢。
どれをとっても無敵で、神様が利き手で創ったような人間が同じクラスにいるのは、夢幻なのではないかと思ってしまう。
だが、俺の最も好きなところは列挙したどれでもない。
彼女は時折、深い悲しみの表情を見せる。いや、見せてる気がする。
いつも無表情で何を考えているかわからないが、物事が一つ終わるたびに何か悲しげな表情をしている。ように見える。
登校時もそうだ。
レッドカーペットを歩ききった王子はいつも、席に着いた瞬間どこか憂鬱な表情を見せる。だと俺は思ってる。
先ほどから語尾に自信がないのは、人の心の奥底なんてわからないからだ。
まして俺はぼっちの身。人間関係から身を引いた男の考察なんて当たるはずもない。
視点を変えて、クラスの男子たちの評価を聞いてみよう。訊いてみようではない。これはぼっちの盗み聞ぎだ。
クラスメイト達の恋バナのボルテージは少しずつ上がってきている。
ここで一人の男子がシルベの名前を出した。
「えー、王子はないわ」
「あいつ狙ったらファンクラブの奴らに何されるかわかんないし」
「だよな~まあ、ファンクラブがいなくても手が届かねえけどな。何考えてんのかわかんねえし」
クラスメイトの評価はこうだ。
王子にはファンクラブがあり、半分以上の女子が加入していると言われている。王子を狙うということは、この学校の半数以上の女子から命を狙われるということなのだ。
故に、俺は王子が好きなことを公にしていないし、話す相手もいない。
つらつら王子について語っては見たが、結局のところ俺は一度も彼女と話したことがないし、接点もない。感情はすべて一方通行だ。
◇
ぼっちの俺が最も困るのは昼食だ。
ぼっちは常に群衆の反対をいかなければならない。俺が1年生のほとんどを費やして発見したのが、使われていない空き部室だ。
白銀高校には校舎、体育館のほかに部室棟がある。
昔は棟が必要なほど多くの部活があり、すべての部屋が埋まっていたようだが、現在は教師の働き方の変化もあり、空きが出ている。
そんな部屋をこっそりお借りして、孤独の弁当を楽しませてもらっている。
部屋の最奥にある部長用と思われるコの字型の机に弁当を置き、柔らかいクッション製の椅子に偉そうに腰掛ける。
これが最高の昼休みだ。
卵焼きを口に入れたとき、開くはずのない眼前の扉がゆっくりと開く。
そして入ってきたのは国宝級の顔面を持つ想い人だった。
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