第29話:相棒のアンサー

 正義執行人の最後の動画が投稿されてから、わずか三十分後。

 かなでさんの行動は電光石火だった。彼女は私を防音室に座らせると慣れた手つきで配信機材のセッティングを始めた。


「かなでさん、これは……?」


「反撃よ。最高のね」


 彼女は通話アプリを立ち上げると、あるアカウントにコールをかけた。数秒後、その通話は繋がり、私のヘッドホンから聞き慣れたあの凛とした声が聞こえてきた。


「準備はいい?」


 かなでさんの問いかけにレイさんが迷うことなく応えた。


『ああ。こっちもいつでもいける』


「レイさん……!」


 かなでさんは私のチャンネルの管理画面を開くと、配信タイトルにたった一言『大切なお知らせ』とだけ打ち込んだ。

 そして、配信が開始される。

 何の予告もなかったにも関わらず、その知らせは瞬く間にネット中を駆け巡ったらしい。スマホの画面に表示された同時接続者数のカウンターが、異常な勢いで回転していくのが見えた。


『何が始まるんだ……?』


『なになに怖いんだけど』


『すずちゃん大丈夫か!?』


『執行人の動画への反論かな』


 コメント欄が期待と不安で渦巻く中、私はマイクの前に座っていた。心臓が早鐘のように鳴っている。でも、不思議と怖くはない。隣にかなでさんがいてくれる。それからヘッドホンの向こうには、最強の相棒がいてくれる。


 画面には見慣れた私の活動用のイラスト。その隣に通話相手を示す黒いシルエットのアイコンが表示された。

 深く息を吸い込み、マイクに声を乗せた。


「皆さんこんばんは。すずです。急な配信でごめんなさい」


 いつものように澄んだ声を出すことを心がけた。今日だけはその声に、私の揺るぎない決意の全てを乗せるつもりだった。


「ネットで私の大切な人のことを、とても酷い言葉で傷つけようとしている人がいます。私はそれを絶対に許すことができません……!」


 私は言葉を続ける。


「なので、今日は皆さんにご紹介したい人がいます。私の――最高の相棒です!」


 その言葉と同時にコメント欄がざわめき始めた。


『相棒って……まさか』


『天城レイ来るのか!?』


『表舞台に上がったことないよな?』


 そのざわめきが最高潮に達した時、私のヘッドホンから聞こえていた声が配信にも乗せられた。低くて凛とした、どこまでもクールな女性の声。


「どうも」


 たった、その一言。

 その声が持つ圧倒的な存在感に、コメント欄が一瞬静まり返る。


『え……女の声?』


『誰……?』


 その瞬間。コメント欄に全く別の角度からの爆弾のような書き込みが投下された。


『おい!!! 天城レイのチャンネルで、配信始まったぞ!!!!』


 そのコメントに気づいた人々が慌ててレイさんのチャンネルへと飛ぶ。その数秒後、彼らは絶叫と共に私の配信へと戻ってきた。


『やべええええええええええ!!!!』


『レイのチャンネル顔出ししてる!!!!!!!!』


『死ぬほど美人で草』


『女の人だああああああああああああああ!!!』



 彼らの反応が全ての合図だった。

 私の配信画面にレイさんの配信を載せる。

 そこに現れたのは黒髪のショートカットがよく似合っている、涼しげな目元をした女性の姿だ。中性的な魅力を持った美人。彼女もまた、ヘッドセットをつけこちらを静かに見つめている。


 コメント欄が爆発した。


『!?!?!?!?!?』


『本人だあああああああああああ!!!!』


『マジで美人過ぎない?』


『マジで女の人だった!!!!!!』


『なんで今まで顔出ししなかったんだw』


『声良っ!!!』


 誰もがその衝撃の事実に驚きを見せた。

 その最高のタイミングで、最も誇らしい紹介の言葉を告げた。


「彼女が私の音楽を作ってくれている、天才作曲家。天城レイさんです」


 私の声は喜びで少しだけ震えていたかもしれない。

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