第14話:反撃の狼煙

『【緊急生配信のお知らせ】

 いつも応援ありがとうございます。すずです。

 この度、私の歌に関しまして、皆様に多くのご心配とご迷惑をおかけしていることを心よりお詫び申し上げます。

 つきましては、明後日の夜9時より緊急で生配信を行わせていただきます。

 皆様が抱かれている疑問に、私の歌で全てお答えします。

 お時間のある方は、どうか、見届けに来てください』


 私が投稿した短い告知文は、乾いた草原に投げ込まれた一本の松明のように、瞬く間にネット中を駆け巡った。

 その反応は、まさに三者三様だった。


『すずちゃん! 信じてた!』


『無理しないで…でも、応援してる!』


『これで白黒はっきりするな』


 純粋に私を信じ、心配してくれるファンたち。


『公開処刑配信キターーーwww』


『どうせ泣いて謝罪して終わりだろ』


『どんな言い訳するのか楽しみだな、加工ビッチ』


 私の敗北を確信し、嘲笑するアンチたち。


 そのどちらでもなく、ただ面白い見世物を求める大多数の野次馬たち。

 私のチャンネル登録者数は、この告知をきっかけに皮肉にもさらに数万人増加した。誰もがこの騒動の結末を、固唾を呑んで見守っていた。


 配信までの二日間。私とかなでさんは、決戦に向けた準備に追われていた。

 かなでさんはいつも以上に念入りに配信機材のチェックを行っていた。「機材トラブルで言い訳した、なんて言わせないためにね」と彼女は笑う。


 それと同時に弁護士と連携し、配信中に起こりうるあらゆる事態への法的対処プランを詰めていた。彼女が築いてくれた鉄壁の守りがあるからこそ、私は安心してステージに上がれる。



 私は一人、防音室に籠っていた。何を歌うか。どう証明するか。レイさんの言う通り、圧倒的な「本物」を見せつけなければ意味がない。

 私はいくつかの候補曲をリストアップし、レイさんにチャットで相談を持ちかけた。


『オペラのアリアで、技術と声量をいきなり見せつけるのはどうかな?』


 私の提案に、レイさんからはすぐに返信があった。


『悪くない。いや、それが最善だ。連中が崇める機械では絶対に到達できない領域を、人間の喉一つで見せつけてやれ』


 彼女の力強い言葉に、私の覚悟は定まった。

 これは戦いだ。レコーディングの時と同じ……いや、それ以上の集中力で、私の本気の歌を世界に見せつけてやる。



 そして、運命の夜が来た。

 配信開始時刻の十分前。私は、防音室のマイクの前に座っていた。隣のコントロールルームには、かなでさんがヘッドセットをつけてスタンバイしている。

 モニターに映し出された待機画面には、すでにたくさんの視聴者が集まっていた。コメント欄は、期待と不安、そして悪意が渦巻く嵐のような状態になっている。はっきり言って最悪の治安。だけどそれが面白い。


「すずちゃん、準備はいい?」


 かなでさんが真剣な眼差しで問いかけてくる。

 私はこくりと一つ頷いた。緊張はしていない。不思議と心は凪いでいた。

 これは私の存在証明だ。私の歌を、私の魂を、偽物だと罵った全ての者たちへの宣戦布告。


 深く深く息を吸い込む。


 さあ、始めよう。私の、私たちの――反撃を。

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