第11話 Contact: DM(通知)
配信を終え、換金(もちろんシアンのログ改竄付き)を済ませた和也は、安宿の自室で「戦利品」を広げていた。
コンビニのレジ袋から取り出したのは、
『厚切り熟成ロースカツ弁当(大盛り)』――価格、850ギフト。
そして、キンキンに冷えた『強炭酸ブラック・コーラ(瓶)』――価格、180ギフト。
普段の和也なら絶対手を出さない、富豪の食事だ。
「……いただきます」
箸を割り、分厚いカツを口に放り込む。
噛み締めた瞬間、肉の脂とソースの旨味が口いっぱいに広がった。
「ッ……美味え……!」
空っぽの胃袋が歓喜の声を上げる。
続けてコーラの栓を抜き、喉に流し込む。
強烈な炭酸が食道を駆け抜け、疲労した脳髄を刺激する。
「くぅ〜っ! 生き返る……!」
『……ただの糖分とカフェインの塊です。もっとバランスの良い栄養食を推奨しますが』
視界の端でシアンが呆れたように腕を組んでいる。
「分かってないな、シアン。これは『栄養』じゃなくて『報酬(リワード)』なんだよ。魂のな」
『非合理的な思考です。ですが、貴方のドーパミン値が30%上昇しているのは事実ですね』
和也は笑いながら、カツを頬張った。
昨日の今日で、所持金は再び「120万ギフト」まで回復している。
このペースなら、もっと良い装備も買えるし、いずれはセキュリティのしっかりしたマンションに引っ越すことも夢じゃない。
そんな幸福な時間を、無機質な通知音が切り裂いた。
♪ピロンッ
D-StreamのDM(ダイレクトメッセージ)着信音だ。
ファンからのスパチャ礼への返信か?
和也はのんきにコーラを飲みながら、ウィンドウを開いた。
「……ぶっ!?」
盛大にコーラを吹き出しそうになる。
送信者名を見て、心臓が跳ね上がった。
【Sender: ギルド監査部・特務執行官 鳴神 光莉】
「げっ、あいつかよ! なんで俺のアカウント知ってんだ!?」
『配信タグと行動ログから特定されたのでしょう。……彼女、仕事が速いですね』
恐る恐るメッセージを開封する。
件名:重要監視対象指定の通知
配信者『黒狐』殿
貴殿に対し、ギルド規定に基づき「S級重要監視対象」への指定を通達します。
今後、貴殿のダンジョン内での行動は、全て当職(鳴神)がモニタリングします。
なお、メビウスの特例により拘束は行いませんが、市民の安全を脅かす行動(過度な地形破壊、暴走行為など)が確認された場合、即座に現場へ急行し、実力をもって鎮圧します。
追伸:
昨日の逃走経路は見事でした。次は逃がしません。
文面から、生真面目さと静かな怒りが滲み出ている。
最後の追伸が怖すぎる。
「……完全にロックオンされたな」
『返信しましょう。無視すると「逃亡の意思あり」と見なされ、心証が悪化します』
「なんて送るんだよ……。『お手柔らかに頼む』とか?」
『いいえ。挑発せず、かつ隙を見せない返答が最適です』
シアンの指示に従い、和也は震える指でキーボードを叩いた。
【Re: 了解。……好きにしろ】
送信ボタンを押した瞬間、和也は深いため息をついた。
せっかくの高級弁当の味が、少しだけしなくなった気がした。
昼は「赤坂」として冷たく管理され。
夜は「黒狐」として厳しく監視される。
逃げ場のない二重生活が、幕を開けたのだった。
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