第2話 再会――震える勇者と荷物持ち
森を抜けた先の草原で、俺は立ち止まった。
がさり、と音がして、茂みの向こうから小柄な影が現れる。
肩に合っていない剣、ずり落ちそうな盾。
背中の荷袋は、明らかに本人の体力を超えていた。
「……カ、カイ?」
震えた声。
忘れようもない、幼馴染み――勇者ユウトだった。
「久しぶりだな」
そう返しただけで、ユウトの目が一気に潤む。
「よ、よかった……誰もいなくて……」
「パーティーが……その……」
言葉が続かない。
視線は地面を彷徨い、剣を握る手は小刻みに震えている。
……ああ。
追放されたのは、俺だけじゃなかったらしい。
「座れ」
俺は近くの切り株を指さし、荷袋を受け取った。
その瞬間、ユウトの肩が、はっきりと軽くなる。
「え……?」
「今まで、これ一人で持ってたのか」
「そりゃ、足も前に出なくなる」
俺は中身を確認し、無言で仕分けを始める。
回復薬は底に。
不要な戦利品は処分。
予備装備は重量分散。
たったそれだけで、荷袋は半分以下になった。
「……すごい」
「なにもしてないのに……」
「してるさ」
「ただ、誰も評価しないだけでな」
ユウトは唇を噛みしめ、ぽつりと言った。
「……僕、勇者に選ばれたけど」
「正直……怖い」
「戦いになると、頭が真っ白になる」
「知ってる」
即答すると、ユウトが顔を上げた。
「昔からそうだった」
「でも、お前は“逃げる判断”だけは、誰よりも正確だった」
ユウトは目を見開く。
「それは……ダメなことだって……」
「違う」
俺はユウトの剣の向きを直し、盾の位置を調整する。
「死なない勇者は、成長できる」
「俺が横にいる間は、絶対に死なせない」
沈黙。
風が草原を揺らす。
「……一緒に、来てくれるの?」
震える声で、ユウトが聞いた。
「荷物持ちが必要だろ」
「勇者様」
少しだけ、ユウトが笑った。
泣きそうな顔のまま。
「……うん」
「お願いします」
その瞬間、
俺のスキルログが静かに開いた。
【荷物持ち】
対象:ユウト(勇者)
役割最適化――開始
影の勇者の仕事は、始まった。
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