『影の勇者の荷物持ち ――軟弱な幼馴染みのパーティーを最強にする――』
塩塚 和人
第1話 追放――「荷物持ちはいらない」
「……今日で終わりだ、カイ」
焚き火の前、鎧を着込んだ勇者レオンがそう言った。
剣聖、聖女、大魔導士――いずれも名のあるメンバーが、無言で頷く。
「理由は分かっているな?」
分かっている。
俺は前に出ない。
敵を倒さない。
戦果も数字も残らない。
「戦闘に参加しない寄生虫はいらない。
物資管理? 索敵? そんなの下位職でもできる」
聖女が目を逸らし、大魔導士が鼻で笑う。
「君がいなくても、もう十分強いからね」
「むしろ足手まといだった」
……なるほど。
このパーティーは“強さ”を勘違いしたまま、ここまで来たらしい。
「分かった」
俺はあっさりと荷袋を下ろした。
「え、それだけ?」
「引き止めてほしいのか?」
「泣きついてくると思ったが」
勇者レオンが嘲るように言う。
俺は何も言わず、焚き火のそばに置いていた帳簿を一冊、閉じた。
その瞬間。
「――あ?」
戦士が声を上げる。
背中の大剣が、異常な重さで地面に沈んだ。
「な、なんだこれ……装備重量が……」
「回復魔法の効率が落ちてる!?」
「詠唱が……長い……!」
俺は振り返らずに言った。
「荷物持ちは、荷物を“持っている間だけ”最適化する職だ」
「管理も補助も、全部俺のスキル範囲だった」
焚き火の光が、揺れる。
「君たちは今まで、“最高の状態”で戦っていただけだ」
「それを自分の実力だと勘違いした」
勇者レオンが歯噛みする。
「戻れ……今のは冗談だ」
「条件を――」
「遅い」
俺は森へ歩き出す。
「追放は成立した。
――それじゃあ、頑張ってくれ、“本物の実力”で」
背後で、誰かが膝をつく音がした。
そして数日後。
俺は、臆病で軟弱な幼馴染みの勇者ユウトと再会する。
荷物を抱えて、震えながら、それでも前に進もうとする――
まだ何者でもない勇者と。
影の勇者の仕事は、ここから始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます