怪異のコバナシ
なるのるな
怪異のコバナシ ~遺された骨壺~
◆◆◆
私の名前は
十六歳。高校一年生。だけど、事情があって学校には行っていない。一応在籍はしてるけど。
別に引きこもりってわけでもないんだけど、あんまり外には出ないかな。
外には
私にはナニかが視える。聴こえる。ときには触れることさえできる。
他の人には認識できないナニか。カメラ映像や音声データでも捉えられないモノ。
そんなモノを私は認識できる。認識できてしまう。別に頼んでもないのにさ。この変な才能? 特性? ……何でもいいけど、コレのお陰で色々と苦労してる。
お寺や神社で相談したことだってある。有名な占い師に霊能力者、霊媒師に超能力者まで。色んな人に見てもらった。勿論、当たり前な対応として、病院で隅々まで検査だってしてもらったよ。
でも、全然ダメ。何も分からない。
霊能力者や超能力者はほとんどが自称だったし、極僅かな“本物”の人たちも分野が違う。彼等には私と同じような不思議な能力があるけど、それだけ。その能力を活用は出来ても、消す方法なんて知らない。
ま、当たり前だよね。本物な人達も『自分がどうしてそんな能力を持つのか』なんて知らなかったし。原因は不明なまんまってこと。あるから使うっていう便利機能みたいな感じ? ……そりゃ、私だってもう諦めてるけどさ。だからと言って、この能力を活用してやろう! な~んて思うほどには割り切れてない。
私は別に霊的なモノの姿を視たいわけじゃない。声を聴きたいわけでもない。よく除霊云々とか言われるけど、そんなこと出来るわけないじゃん。寺生まれとかじゃないんだし。人の世に紛れる悪霊たちを人知れず祓ってきた……とか、そんな中二病的な一族の生まれでもない。
それでも、噂を聞きつけて私に霊を視てくれと頼んでくる人たちがいる。
ま、私のこの能力を積極的に金に換えようとするのは、私の叔父さんなんだけどさ。小遣い稼ぎには良いかなってところ。
◆◆◆
「で、今回は何なの?」
「嫌だな~どうしてそんな顔するのかな~? ちょっと出張に行ってたから、今日は兄貴のところにお土産を持って来ただけだってぇ~」
嘘つき。胡散臭いんだよ。アンタは。
彼の名は
お父さんの弟。私の叔父さん。便利屋をやってるとは言ってるけど、その実、本当に何をやってるかは分からない怪しい人だ。
ちなみに私の
この叔父さんは、私の能力を知りそれを金に換えようと躍起になってる。
迷惑な話……と言えれば良いんだけど、小遣いという名目で払ってくれる、その仕事の報酬が割と良いのが悔しい。実動を考えればバイトとしては破格の金額。くっ、金に釣られる自分が憎い。
「そういうのいいから。白々しいんだよ、叔父さんは。どうせお父さんたちにはもう話をしたんでしょ?」
「へへへ……やっぱ分かる?」
当然。日曜の昼間に陽介叔父さんが家に来る時点でおかしいから。下でお父さんやお母さんと談笑してたの聞こえてたし。私に声を掛けないってことは……〝そういう話〟なんでしょうに。流石に馬鹿にし過ぎだよ。
「いやぁ~この間、〝デる〟って噂のある家の片付けの依頼を受けたんだけどさぁ~実のところ、俺じゃなくて目当ては遥ちゃんだったんだよねぇ。……なんでも、その家にデるっていう奴らの話を聞かせて欲しいんだってさ。いや、こんな話されても困るのは分かってるんだけどさ……人助けだと思ってさ? ね?」
「はいはい。能書きはいいよ。もうお父さんたちのオッケーはもらったくせにさ……叔父さんのそういう回りくどいところ、好きじゃない」
ホント、周りの了承取ってから来るのが腹が立つ。別に私だって小遣いが貰えるし、普通にお願いされたら二つ返事でオッケーするのにさ。はぁ。面倒くさい。叔父さんもだけど、私自身も。
「いや~ごめんね? 流石に兄貴や
そんな未成年を利用して金儲けしてるのは誰なのかな? こっちにも恩恵があるから、強く叔父さんを否定も出来ないけどさ。
「つまり、そのデるって家に行って視ればいいの?」
「そうそう。叔父さんと一緒に空き家探索ってことで! 当然のことながら、
この人は胡散臭くて怪しい。ただ、お金については律儀だ。お父さんにも聞いたけど、叔父さんは諸経費を抜いた上で、報酬の半分程度を私に支払っている。下手をすればパパ活かと疑われる額。流石に両親にも相談して、常識的なバイト代程度を私が受け取って残りは親に預けている。そんなこともあり、叔父さんのことは心底嫌いにもなれない。……ま、そういうのを含めて、この人は計算高いんだと思う。
「さっそくだけど、明日の午前中に迎えに来るから!」
「ちょっと。私、一応学生なんだけど?」
「え? どうせ学校は行かないでしょ?」
なんだかな。分かってはいるけど、当たり前のように言われるのは腹が立つ。ま、これも自分が悪いんだけどさ。両親だって公認してるし……はぁ。
「……はいはい。じゃあ、いつものように身分証は忘れないでね?」
「分かってるよ」
普段の叔父さんの仕事がどんなのかは知らないけど、私へのバイト要請の際は、どうしても怪しい雰囲気だったり、辺鄙な場所へ連れて行かれることが多い。心霊絡みだからまぁそうなんだろうって感じ。
でも、流石に平日の日中、そんな場所で未成年を連れ回していると……警察がお仕事をしてくれるというわけ。日本の治安はこうして守られてるんだって実感する。
これまでも度々、叔父さんと行動している際に職務質問を受けることがあり、私と叔父さんの関係性を証明するには口頭だけでは足りない。両親に直接連絡が行くこともあった。
やはり叔父さんの胡散臭さも相まって、警察官もなかなか引き下がってはくれないんだよね。
なんて言うのか……警察官の勘ってやつ? その精度はかなり高性能だと思う。
なので、叔父さんと行動する時には身分証が必須。叔父さんはお父さんとの関係を証明する為に、お父さんの協力を得て戸籍謄本ってやつを持ち歩いている。でも、逆にそこまでガチガチに準備する方が怪しい気もするけど。
不思議だね。自分のことを証明する書類を持ってるだけで、叔父さんを見る警察官の目が余計に鋭くなる所を何度も目撃した。計画的犯行って思われてるよね。はは。
「あぁ、一応は動きやすい恰好でお願いするよ。聞く限りではかなり放置してあった家みたいだから……埃っぽいとは思う。肌もあまり出さない方が良いだろうね。虫とかいそうだ」
「うぇぇ……テンション下がること言うね……」
「スカートやワンピースで来られると流石にアレだからね。上着は別にいいけど、下はジャージやスウェットはダメ。せめてジーンズとかにしてくれ。何なら使い捨てとしてどこかで買ってもいい。あと、家の調査だけど土足だ。スニーカーやブーツが望ましいね」
これ……完全に何らかの作業をさせる気だよね?
◆◆◆
次の日の朝、迎えに来た叔父さんのミニバンタイプの軽四で出かける。後ろの座席は倒して荷台のようになっているけど……色々な器材や作業用とみられる荷物が積んである。
「あぁ、撮影もするからね。その機材だよ。あとは……下手したら片づけをしながらって可能性もあってね」
「片づけ……ゴミ屋敷的な?」
「そこまでじゃないはずなんだけどねぇ……」
絶対に嘘だな。
前にも同じような感じで連れられた時には、ガッツリとゴミ屋敷だった。ああいうのは、ニュースでは知ってたけど、本当に実在するんだと驚いた覚えも記憶に新しい。ただ、二回目は要らない。
「……あんまり酷かったら入らないよ?」
「ま、まぁまぁ。そんなこと言わないでさ? なんだかんだと、遥ちゃんだってちゃんと作業着スタイルじゃない?」
叔父さんのことを、負の方向で信頼してるからね。
どうせそんなことだろうとは思ってたし。とにかく、私は言われるままに働きますよ。
本当は外になんか出てたくないけど、いつまでもそうも言ってられないのも分かってるんだ。他の人に見えないモノが視える。聞こえないモノが聴こえる。世間からすればただのメンヘラに過ぎないってさ。
私にとってはこれが普通なんだけど、世間一般からすればそうじゃないのは知ってるけど……合わせるのはしんどいんだよ。
街を行く車窓からも視える。交差点の真ん中に突っ立ってる。ビルの路地に座り込んでる。歩道を歩く人並みの中にも紛れている。目を閉じて開いても消えない。ずっと視える。あちこちに居る。
もう慣れたと言えたら良いんだけど、そんなはずもない。時折、コッチを認識して寄ってくるヤツだっているし普通に怖い。
ただ、何故かは分からないけど、実害を被ったケースはほとんどないんだよね。憑り憑かれるような目にあったのは数えるほどだし、海外のゴーストハンター的な動画にあるような、ポルターガイストで存在をアピールするようなモノにも出会ったことはない。会いたくもない。
「ん? 大丈夫?」
「……なにが? 別に平気だよ」
嘘だ。平気じゃない。でも仕方ない。他の人に理解なんてしてもらえないんだしさ。
本当は知ってる。叔父さんが私に構うのは、お金のためでもあるんだろうけど、それだけじゃない。むしろ、お父さんとお母さんが私を外へ連れ出すようにと叔父さんに頼んでる。
ま、そりゃ心配するのも分かるよ。親に迷惑を掛けてる自覚だってあるからね。でも、今は無理。人の多い場所はそれだけあいつらが視える。聴こえる。小中学生の時よりも私の
いわゆる〝本物〟の人たちに言わせると、普通なら年を経るごとに失うことの方が多いらしく、私のは稀有な才能だって褒められた。まったく嬉しくもない。
私は普通に失いたい。こんな能力。
「ま、本当に無理なら言ってね。別に遥ちゃんが居なくてもなんとかなるからさ」
「……別に大丈夫だよ。でもありがと。だけど、私が要らないなら初めから誘わなきゃいいでしょ?」
「はは。まぁそこはね。やっぱり、嘘八百で誤魔化すだけだと、流石に依頼人にも悪いしさ」
「なにそれ」
叔父さんならソレっぽいストーリーを作って、嘘八百で依頼人を丸め込みそうだけど。それをしないだけの倫理観はあるのかな? いや、もしかするとほとんどがそんな感じで、私を誘うのが稀なのかも知れない。
その後は、くだらない話に終始して、車で一時間ほど走ったところで目的地へと到着した。
隣の市。それも端っこの方。田んぼや山々が地元よりも目立つけど、普通の住宅街って感じ。一軒家が立ち並ぶ区画の中の普通の住宅が目的地。
二階建ての一軒家。
外観は周りの家と違いはないし、ぱっと見た限りでは周囲に霊的なモノは視えない。ちょっと拍子抜けするくらいに普通。実はもっとおどろおどろしい場所を想像してた。
「本当はこういう場合は依頼人の方に立ち会ってもらうんだけど、都合が付かないと言われてね。鍵を預かってる。ま、よほどこの家に入りたくないらしい」
なんでも依頼人は、この家の中で〝ナニか〟の気配を感じたのだとか。で、すっかりビビっちゃったらしい。
「……で? 私は具体的に何をすればいいの? この家にデるっていう霊を視るだけ? ……元々ソレくらいしかできないけど」
「えっとね。実はこの家には仏壇が残っていてね。その仏壇の中には骨壺……遺骨もそのままになってるそうだ。厄介なのが、その遺骨が誰の物か分からないってさ。遥ちゃんは知らないだろうけど、遺骨っていうのは、火葬許可証に火葬済みの印のある書類……俗に埋葬許可証なんて言われるんだけど、その書類がないと納骨できないってパターンが多くてね。本来は骨壺にその遺骨の名前や戒名、生年月日やら没年なんかを書いていたり、そういうシールが貼ってあることが多いんだけど、残された骨壺にはそんなものはない。当然、埋葬許可証もない。元の家主は高齢で今は施設に入所しているらしく、仏壇は亡くなった家主の妻のための物だったんだけど、妻の遺骨は十二年ほど前に既に納骨されててね。あ、娘さんも五年前に亡くなっているそうだ」
は? なにそれ? じゃあ、私に視て欲しいっていうのは、その誰の物か分からない遺骨の持ち主探しのため?
いやいや、その遺骨の持ち主が霊になってるかも分からないよね?
「……よく分からないんだけど……その家主のお爺さん? その人に聞けば良くない?」
「あのねぇ……それが出来たら僕がわざわざ仕事としてこんな事を頼まれてないから。家主のお爺さんは施設って言ったでしょ? まぁ若い遥ちゃんがピンと来ないのも無理はないけど、家主さんは八十歳を超えてて認知症なんだよ。既に記憶もあやふやだし、明確な意思疎通も難しい。娘さんが亡くなった後、しばらくして親族が施設への入所を段取りしたそうだけど、その時にはもうまともに会話が成立していなかったってさ。娘さんが家主であるお父さんを介護していたらしいけど……娘さん自身が亡くなる前、かなり介護疲れで参っていたらしい」
認知症。いわゆる
「……ふ~ん。とりあえず、家の中で霊が何か喋ってないかを聴くよ。ただ、いつも言っているように、連中とは会話が成立しないから。その家主のお爺さんと同じような感じだと思って。相手がブツブツ言うのを聴くだけだからね」
「ああもちろんそれで良いよ。依頼人……家主の遠い親戚なんだけど、正直なところ期待はしてないらしいから。適当で良いよ」
いやいや。私が言うのも何だけど、現にこの家には誰の物か分からない遺骨が残されてるんでしょ? そんな軽い感じでいいわけ?
◆◆◆
家の中に踏み込む前に、叔父さんは撮影をはじめた。機材は手持ちのジンバル付きカメラ。ウェアラブルカメラとかもあるらしいけど、今日は手持ちで十分だそうだ。
叔父さん曰く、証拠としては弱いけど、立ち会いの無い場合にはこうやって撮影をするんだってさ。後から文句を言ってくる人も少なくないとか。
私からすれば、疑うなら初めから立ち会えばいいのにって思う。色々と事情があるのは分かるけど。
「遥ちゃん。それじゃ始めるよ。……はい。これから
後日に依頼人へ提出するため、下手な配信者のように語り出す叔父さん。ちなみに、時折、この撮影した動画に霊的なナニかが映り込むこともあり、許可を得た上で叔父さんはその部分だけを動画サイトにアップしたりもするようだ。当然、個人情報に触れる部分の音声はカットするんだけど、その動画編集作業中に自身の下手なレポーターぶりを目の当たりにして悶えているらしい。ま、どうでもいい話。
玄関を開けた瞬間に独特な埃の臭い。防塵マスクにゴーグルもつけ、キャップも着用してるけど……臭いが纏わりつくようで嫌なものは嫌だ。帰ったら速攻でお風呂。着替え。今日の服は……処分しようかな?
「玄関口から埃が溜まっています。横関氏からはこの三か月は出入りがないと聞いていますが、見る限りでは人の出入りがあった様子はありません。恐らく、横関氏が退室した当時と同じ状況かと思われます」
叔父さんは言葉を濁していたけど、普通の感覚からすると立派なゴミ屋敷だよ。ま、以前に連れて行かれたところとは違い、この家はゴミというよりは、物が多いという感じかな?
歩くスペースはあるけど、廊下の半分は新聞紙やら雑誌やら、まとめ買いした缶ビールの箱、通販器具の箱、箱、箱。とにかく物が多い。
「まずは玄関から左側。リビングとダイニングキッチンを見ていきます。聞くところによると、ここが家主である福崎氏の主たる生活スペースだったそうです」
リビングへの扉は開けっ放し。空箱に占領されており、閉まらないっていうのが正しい。歩くスペースもないようなら片づけを……と、聞かされたけど、その必要はなさそう。
やはりリビングにもとにかく新聞紙や雑誌、空箱が多い。積み上げられている。物が多いだけだと思ったけど、台所は魔境。見たことのないラベルの瓶が並んでいる。調味料なのかお酒なのか……とにかくまともに使用されなくなって長い時を経ているのだけは分かる。スーパーの総菜用のパックとかも散らばっている。……というか、あまり見たくない。電気はまだ通っているようだけど、この家の冷蔵庫は絶対に開けたくない。ダメ、絶対。
「……なんだかんだと自分の食べ物を買いに行くことは出来ていたのかな? それとも娘さんが対応していたのか……まぁその辺りは謎。五年間放置されていたにしてはまだマシな感じ。とりあえずは、横関氏の依頼である、仏壇と骨壺を確認します。……遥ちゃん。どう? ここにナニかはいる?」
一旦カメラを停めて叔父さんが聞いてくる。一応、私の存在が記録に残らないようには配慮してくれているらしい。別に音声だけなら良い気もするんだけど……
「なにも視えない。特に声も聴こえないし……その横関さんっていう人の勘違いとか、幻覚じゃないのかな? あるいは、横関さんは私とはタイプの違う能力を持っているとか?」
「んなわけないでしょ? もしそうなら、わざわざ僕を尋ねては来ないよ。ま、なにもないならそれで終わりでいいんだけどね。……ほら、そっちの引き戸が和室になってて、仏壇を置いているんだ。認知機能の低下があっても、やはり仏壇の置いている部屋に不用品を並べるのは気が引けたのか……和室自体は片付いてるってさ」
そう言いながら撮影再開。リビングからの続きで間仕切りがあり、そこが和室になっているみたい。引き戸を叔父さんが開ける。特に抵抗もなく戸がスライドする。
「ぅッ!!」
デた。
くそ。ちょっと油断してた。心臓がバクバクしてる。
戸が開いた部分からモロに視界に入る。和室の隅にナニかが居る。
対角線上の隅を向いて、ブツブツと呟いている様子。ただ、声は聴こえない。口元が動いているだけ。
私の眼にはソレの全身が映っている。叔父さんの肩を軽くたたき、ソレを指差して示す。叔父さんは無言で頷き、ソレにカメラを向ける。
でも、カメラの画面を見る限りでは映ってはいない。
だろうと思った。何故か私の肉眼で視えるモノは機器には映らないことが多い。逆に、私には視えない、聴こえないのに、機器には影が映りこんでいたり、明らかに撮影時には無かった音声が記録されていたりもする。その辺りの判定がどうなってるのかは謎。分からない。
ソレの見た目は女性。モノクロ。まるで墨汁と毛筆で描いたかのような絵画的な存在。でも、立体的にも視える。普段、私が視るモノとは少し違う系統。
いつもは普通の人と変わらない感じで視える。ただ、私は死んだ当時の状態が視えるみたいで、事故死したらしい霊は……言葉は悪いけど、かなりグロい。
今、目の前にいるソレは、モノクロで分かりにくいけど、たぶん五十代くらいの女性。少し瘦せ気味。スウェットにロングスカートという出で立ち。靴を履いてないから、恐らくは室内で亡くなった方だと思う。
口が動いているけど、私には読唇術の心得なんてないから、なにを言っているのかは分からない。でも、恐らく短い単語をずっと繰り返しているような印象。
「……では、仏壇の方を確認していきます」
「……」
叔父さんは敢えて素知らぬ顔で撮影を続ける。どうしようもないってことを知ってるから。ソレが居たところでやることに変わりはないしね。
和室に入って分かった。女性の霊は仏壇の方を見ている。何らかの関係性はありそうだけど、私には情報がないから知りようもない。家主の方が八十越えって言ってたから、もしかすると娘さんかな。
「横関氏からは仏壇は閉じて家を出たとお聞きしています。その通りに仏壇は閉められていますね。少し失礼して……開けます」
後から聞いたけど、この仏壇は床置型仏壇と言うらしい。ドラマとかで見るしかないから、私には分からない。家に仏壇ないし。
叔父さん曰く、仏壇の下部に引き出しがあり、そこに色々と物を仕舞えるようになっているそうだ。現に叔父さんは遠慮なく漁っている。
私が言うのもアレだけど、部屋に霊が居るって知った上で、よく平然と仏壇を漁れるよね。以前は神社のお社に無断で入って行ったこともあるし……いずれこの人には罰が当たると思う。
「……ありました。横関氏から言われていた骨壺ですね。どこか新しい感じがします。あと、やはり名前などの記載はありません。一応、仏壇の中は全て見ましたが、火葬許可証などの書類もありませんね」
それとなく、女性の霊を気にしていたけど、別に仏壇を漁っても、骨壺が出てきても反応はない。連中の中には引き金となる行動があるのか、突然違う反応を見せることもある。そういう時が一番心臓に悪い。
叔父さんから視線で訴えがあるけど、私は首を振る。特に霊には変わりがないと伝える。
「ええと……一応、仏壇を確認してくれという依頼だったので、以上となるのですが……せっかくなので、家の中を一通り撮影しておくことにします」
レポーター的にそう言いながら、叔父さんは骨壺を元の場所に仕舞い、仏壇を閉める。現状回復ってやつ?
今回は、たぶんソレが引き金だった。
『いやぁぁぁぁッッッッ!!!!!』
「ッ!!」
耳をつんざく絶叫。私にしか聴こえてはいない。
少し俯き加減だったソレが、ギロっという擬音が聞こえそうなほどに仏壇を睨む。いや、叔父さんをか。完全に叔父さんのことを認識した。不味いかも。
『どうして閉めるのッ!? どうして!? どうして閉めるのッ!? どうして!? どうして!? どうして閉めるのッ!?』
あーうるさい!
「……叔父さん。この部屋を出よう」
「え? あ、ああ。分かったよ」
和室を出る。引き戸を閉めるとソレの声は聴こえなくなった。ただ、その場から動きはしなかったけど、叫びながらずっとこっちを睨んでいた。般若の形相っていうのはああいうのを言うんだろうね。普通に怖い。
「遥ちゃん。なにがあったの?」
「……部屋の隅の奴が、叔父さんが仏壇を閉めた時に絶叫して反応したんだ。『どうして閉めるの?』って言ってた。たぶん、ブツブツ言ってたのは、『開けろ』とか『閉めるな』とかじゃないかな?」
「えぇ……? なんかヤバそうだねぇ……」
明らかに仏壇と関係がある霊だけど、意味が分からない。
「見た目的には五十代くらいの女性だったんだけど……家主の娘さんって、もしかしてこの家で亡くなったの?」
「え? ああ。自殺らしいよ。二階の自分の部屋で首を吊っていたみたい。……家主さんは認知症ということもあって、しばらくは誰にも気付かれなかったらしい。週一回の訪問看護……家に来る看護師さんが、娘さんが居ないことを不審に思い、二階へ上がって発見したらしい。死後数日が経過していたらしいよ」
ん? ちょっと待って。それはおかしい。
私は〝死んだ時の状態〟が霊として視える。そういうのが多い。
さっきの女性は首に紐状の物は無かった。首吊りの場合、私には首に巻き付いた物……自殺に使用した物品の一部が視えることがある。どういう判定かは知らないけど、それらも〝衣服〟という扱いなのかも知れない。
もしかして、さっきの女性は娘さんじゃない? 骨壺……遺骨の人物だったり?
「とりあえず、横関氏が感じたという視線だとか寒気っていうのは、仏壇を閉めたことによるその霊の反応からかな? 僕はまったくなにも感じなかったけどさ」
叔父さんの特性。何故か叔父さんは心霊的な現象をまったく感じないし怖がったりもしない。意に介さない。頭の回路が一部壊れている……お父さんはそんなことを笑いながら話していたけど、あながち間違ってない気もする。
私には視えるし、聴こえるけど、実は普通の人だって、ナニかを感じることがあるってことも知ってる。
さっきみたいなのがそう。その横関さんっていう人は、アレの叫び声と睨みつけを感じていたんだと思う。それぐらいに〝強いモノ〟だった。
「はぁ……残りを撮影して帰ろう? 流石にさっきみたいなのは私の心臓に悪いよ」
「いや、ごめんごめん。ちゃちゃっと終わらせるよ」
気を取り直して、撮影再開。
一階で撮影していない場所をまず回る。廊下、トイレ、脱衣場に浴室、リビングとは廊下と階段を挟んで反対側に位置する二つの洋間。
埃が積もっており、ここ最近で人の出入りがないのは明白。相変わらず、どの部屋にも空き箱が多い。生ごみがないのが救いだけど、やはり臭いは酷い。
トイレもかなり汚い状態。認知症の影響? でも、娘さんも利用してたんじゃ?
細々した疑問を抱きつつ二階へ。階段にも埃が積もっている。足跡がくっきりと付く。
「ええ……次は二階です。二階には家主の娘様の部屋と物置として利用していた部屋があるようです。あ、二階にもトイレがあると言ってたかな?」
レポータまがいの説明ありきで撮影しながら階段を上がる。真ん中で折り返す構造。
階段を昇り切ったとき、またデた。
叔父さんをつついて制止する。二階は廊下の左右に部屋が位置している造り。その廊下の突き当りにソレが居た。
五十代くらいの女性。こっちはカラーだ。普段私が見慣れた霊。和室で遭った霊と、たぶん同一人物。
何故二つに分かれているの? こんなのは初めてだ。
ブツブツ言っているのも同じ。声は聴こえない。服装も下の霊と同じ。首元に紐状の物も巻き付いてない。
「……叔父さん。何か嫌な予感がする。下の奴と同じ人だ。二つに分離してる霊なんて今まで視たことがない。ブツブツ言ってるけど、やっぱり声は聴こえない。なにかがまた引き金になるかも……」
廊下の端を指差して示す。あ、こっちを認識してる。ヤバいかも。
「廊下の端? ……やっぱりカメラには映らないか」
「お、叔父さん。コッチを認識してる。メッチャ睨んでる……」
下のモノクロも怖かったけど、カラーも怖い。
あ。
走ってきたッ!?
◆◆◆
『どうしてアンタは分からないんだッ!!』
『何度言ったら分かる! どうしてこんな事をするッ!?』
『二階に上がってくるって言ってるだろッ!?』
『早く死んでよッ!?』
『どうしてどうしてどうしてッ!?』
『私がなにをしたって言うんだッ!?』
般若の形相で走ってきた女性に私は掴まれた。胸倉を掴まれてがくがくされながら喚かれている。
特に害はないと言っても、この至近距離で喚かれると普通に怖い。あ、やば。ちょっと漏れたかも……
「お、お、叔父さんッ!! コイツ、私に
「ッ!? お、おう!」
叔父さんも慣れたモノ。私の手を引いて階段を降りて、開けっ放しにしていた玄関から外へ。
場所に憑いている霊は、主となる場所から少し離れると追いかけてこれない。声も聴こえなくなる。私に掴まっていた彼女も、階段を降りたくらいでその手が離れた。ただ、最後まで睨みつけられた……だから怖いよ。
流石にへたり込んでしまう。今のが外をうろつく奴だったら、付き纏われる可能性だってあった。ストーカーより性質が悪い。壁すら抜けてくるんだから。
ちなみに、普通はどうだか知らないけれど、私の場合は塩とか御札とかは意味がない。効果がないっていうのを多くの事例で実証済みだ。
「はぁはぁ……いや、びっくりしたよ。まさか遥ちゃんに触れられる奴だったとは……ごめんよ……分っていれば連れて来なかった」
「は……はは。お、叔父さんに事前に分かるわけないじゃん。い、いいよ。ほいほいついて来たのは私なんだしさ……でも、久しぶりのことだったから、焦った……」
そう。私に触れられる霊は少ない。というか、ほとんどの霊が物理的に影響を及ぶすなんてことが出来ない。ただ、たまに取り憑く的な事をする霊もいる。私自身は何故か取り憑かれる……ナカに入り込まれるというコトまではないけど、普通に触られたり、後を付いてくるくらいはある。そういうときは、寺社仏閣を境内を突っ切ると振り切れたりする。出来ない時もあるけど。
今回の霊は、たぶん私にじゃなくて、生前の習性みたいなものだと思う。喚いてる内容が全然噛み合ってなかった。たぶん、家主である父親に対して?
「……ねぇ叔父さん。私、すごく嫌なことを考えてるんだけど……話しても良い?」
「遥ちゃんの嫌なことは……本当に嫌なことの場合が多いからな。とりあえず、家の鍵を閉めるよ。帰りの道中のどこかで昼食にしようか?」
「うぇぇ……この埃まみれで外食? とりあえず家に帰りたいよ……ご飯はコンビニとかで良いから。っていうか食欲はないかな」
「それもそうだな。車内でパパッと済ますか。この埋め合わせはまた今度するよ」
とりあえず、心臓のバクバクが収まってきた。この家で何があったのかは知らないし、あの遺骨が誰の物かなんて分からない。でも、たぶん碌なモノじゃなかったんだと思う。ま、後のことは私には関係ないか。
……
…………
………………
帰りの道中、前言通りにコンビニでおにぎりとジュースを買ってもらったけど、食べれなかった。叔父さんはガッツリ大盛系の弁当食べてたけど。……ちょっと太り気味だからセーブしたら?
「……チラッと確認したけど、動画の中にも変な声が入っているみたいだ。影の映りこみもあるし……大きなモニターで確認すると他にも色々ありそうだ」
「声は……『帰らせて』? 仏壇を開けた時に女性の声っぽいのが入っているね」
「だろ? こんなにハッキリと聴こえる奴は久しぶりだ。視聴回数が伸びそう」
「……半分以上趣味みたいなチャンネルなんでしょ?」
叔父さんが動画をアップしているチャンネルは、割とコアなファンが多いらしい。とはいっても、全然収益化するほどじゃないらしいけど。零能力者だけど、叔父さんはそういうのが好きみたい。私には分からない感覚。リアルで視えるから、わざわざ動画で観たいとは思えない。
それに、私に視えない、聴こえない霊というのは、本当にか弱いのが多い。つまり害がない。映像にだけ記録される連中は私には視えないけど、なにもしてこないから安全という認識がある。この動画の音声は、実はあの女性じゃなくて、例の遺骨の声なのかも知れない。でも、私にできることはなにもない。
コンビニの駐車場でわいわい言いながら動画を確認しての食事(私は食べてないけど)。ひと仕事終わった感がある。
叔父さんは胡散臭いけど、こういう時間は嫌いじゃない。本当は同級生とかとこういう風に過ごせたら良いんだろうけど……今はまだ無理かな。
「それで? 一応聞こうか? 遥ちゃんの嫌な話」
「……叔父さんだってもう分かってるクセに。っていうか、初めから勘づいていたんじゃないの?」
「はは。まぁね。こういう嫌な話は僕の仕事では多いから」
私は話す。
まず、娘さんは自殺じゃないかも。少なくともあの家に出た霊は自殺じゃない気がする。娘さんの写真でも見せてもらえればすぐに判断はつくと思う。
あと、遺骨については正直分からないままだけど……
父親の介護で疲れていた。そんな娘さんが自殺。父親は施設へ。
私自身に実感はないけど、叔父さん曰く『介護疲れから鬱気味になって虐待に繋がる』というのは割とよくあるらしい。
あの二階の霊が喚いていたことが、もし生前からの言葉だったら? 対象は認知症の父親に対して?
そんなことをつらつらと叔父さんに話す。
「実は日常的に、娘さんから父親への暴言や暴力があったという疑いがある。娘さんが亡くなる少し前から、父親の福祉関係者……ええと、市の担当者やケアマネジャーっていう人たちが、娘さんからの虐待について関係者間で情報共有を行っていたそうだ。で、そんな矢先に娘さんが死亡。しかも自殺だ。関係者や親類が慌てて、父親を施設へって話」
「……でも、私が視たあの人が娘さんなら、自殺じゃない。自殺の場合は最期に〝自分で〟身に着けていた物が私には視える。あの人は普通に衣類だけだった」
どういうことなんだろうとは思うけど、普通に叔父さんへの依頼をしてきた人が、嘘ついてるんじゃないかな。そして、叔父さんはよく言ってる。『どんな些細なことでも、嘘をつく依頼人は信用しない』って。もしかすると、この仕事自体が流れちゃうかも。
「これは僕の勝手な推測だけどさ。娘さんは父親に殺されたんじゃないかな? しかも自殺に見せかける偽装工作までしてさ。娘さんは精神科への通院歴もある。薬も処方を受けていた。介護疲れでノイローゼ気味。そして、父親への虐待。実際に父親の身体には暴力を受けていたような痕もあったそうだしね。ある日、そんな父親が娘を……とか?」
「えぇぇ? 流石にそこまではないでしょ? 私は単に娘さんの死亡原因が病死とかって思っただけだよ。依頼人の人が叔父さんに嘘ついてるとか、そんな程度のことだったんだけど……?」
まさかね。それに父親の方は認知症だったんでしょ? よく知らないけど、そんな人が殺人なんて。しかも自分の娘を。
あり得ないでしょ?
「はは。遥ちゃん。兄貴には怒られるかも知れないけど課外授業だ。残念ながら、認知症だろうが末期癌だろうが、人殺しをする奴はする。あと、年寄りだからといって全員が聖人君子な訳もない。屑はどこまでいっても屑だ。僕みたいにね。所詮は歳を重ねた屑になるだけ。それに、認知症ってのは脳の萎縮による症状の総称でね。成長と共に一旦獲得した機能・知能が、加齢や疾患の影響による脳の器質的変化で失われることを言う。……脳の前頭葉ってところが萎縮すると、我慢しなくちゃダメことを我慢できなくなる。抑制が効かなくなる。社会的には禁忌とされることを……実行してしまう可能性がある。殺人だってその一つだ。僕はこれまでにもそういう事例を見てきた。被害者側も加害者側もね。介護疲れによる殺人なんてのがニュースで流れるけど……認知症の患者による暴力行為なんてのも山ほどある。虐待事件だって、介護者が反撃に出て……というケースだってあるんだよ。ま、今回は父親が娘の暴力に対して反撃した形になるのかな?」
こういう時の叔父さんは少し怖い。勝手な推測とは言いながらも、叔父さんはそもそも疑ってたんだ。認知症の父親が娘を殺したかもって。もしかして……私を連れてきたのは、娘さんの霊を確認させるため? 自殺じゃないことを証明するため? いやいや、私の目撃情報なんてなんの証拠にもならないし。
「……そういうことがあるのかも知れないけど……でも、父親の方は認知症だったんでしょ? 自殺の偽装工作なんて出来るの?」
「そこだよ。警察が介入し、不審死である以上は死体検案が行われたはず。そこを誤魔化せるほどの偽装が果たして父親に出来たのか? ……っと、まぁそんな感じでサスペンス的なスリルがあるでしょ?」
あぁ、私の嫌いな叔父さんが出てきた。この人は興味本位で首を突っ込む。悪趣味の極み。お父さんが言っていた、頭の回路が壊れた人。
「結局、それを証明できたとしても……意味はないんでしょ? 叔父さんの興味を満たすだけで」
「ははッ! その通り! 僕は別に正義の味方じゃないからね。単に知りたかっただけ。ただ、残された遺骨のこともあるし、依頼人である横関氏と少しそういう話をしようかとは思う」
なんだかな。叔父さんの興味本位に体よく利用された感じがする。いや、いつものことだけどさ。
「なら、娘さんの写真をもらって来てくれたら一発で判別できるよ? ああ、興味というなら、私的には、娘さんが二つに分かれていた意味が分からないけど」
「そうだね。遥ちゃんにも顛末が分かれば伝えるよ。あ、この後日談的なやつは兄貴や義姉さんには内緒ね?」
「はいはい。その分、ちゃんと働いた分のバイト代はもらうからね? 叔父さんの興味本位だろうが、そこは関係ないし」
どっちにしろ。私には関係のないこと。それに、法律のことは分からないけど、施設にいるような認知症のお爺さんを有罪になんて出来ないんじゃないの?
ま、そもそも叔父さんはそんなことに興味はないか。ただ知りたいというだけみたいだし。
今日視たことを叔父さんに伝えて、私はそれで終わりだと思っていたんだ。
◆◆◆
ビル街の一角。昔ながらの半地下構造の喫茶店。薄暗く、趣がある。良く言えばレトロ。そのままに言えば古臭い。
奥まった壁際のテーブル席に二人の男が向かい合っている。
一人は砥堀陽介。もう一人は依頼人である横関。齢五十を超えたかという男性。
「横関さん。とりあえず、こちらが家屋調査のレポートです。映像データはある程度編集はしていますが……概ねはそのままです」
「ありがとうございます。……それで、あの家にはやはりナニかが憑いていましたか?」
横関はレポートなどに目もくれない。口頭でとっとと説明してくれと言わんばかり。もっとも、砥堀もその点は承知の上。依頼人の要望に応えるのは彼の仕事の範疇。
「まぁそう焦らずに……と勿体ぶりたい気もあるのですが、単刀直入に言いましょう。とりあえず二体確認しました。ただ、どちらも同一人物のようです。一体は仏壇のある和室。モノクロでした。もう一体は二階の廊下の端。こっちは何故かカラーでしたね。……五十くらいの女性です。僕は福崎氏の娘様と思うのですが……あぁ、娘様の写真は持ってきて下さいましたか?」
「え、ええ。とりあえず、かなり古い物ですが……彼女が亡くなった際にあの家を少し片づけたのですが、写真などはほとんど出てこなかったので……遺影にも困るほどでした。もっとも、ほぼ直葬となったので必要もありませんでしたけど……」
砥堀の言葉に多少の衝撃を受けつつ、横関はカバンから数枚の写真を出す。色が褪せている古い写真。その写真を受け取るが、当然のことながら砥堀にその判別はつかない。
「かなり若い頃の写真ですね。二十代でしょうか? とりあえず、確認のために一枚お預りしても?」
「ああ、別に構いません。それで、家に居たのは彼女だったんでしょうか?」
「まだ不明瞭な点もあるため、断言は避けますが……〝
「……それは仕方ないでしょう。私どももどうすれば良いのかと頭を抱えているのですが……」
本来の横関の依頼は、仏壇の中に残された遺骨のこと。誰の遺骨かが分からない。何故ここに? という当然の疑問はある。まずは現地を見てからと思い、砥堀は質問を抑えていたが……いまがその疑問をぶつける時。
「そもそもの話なのですが……結局、あの遺骨はどういった経緯であの仏壇に収められることになったのですか? 福崎氏の妻でも娘でもないというのは、本当なのでしょうか?」
「……そうですね。ここまで動いてもらい、なにも話さないのは不義理でしょう。ただ、砥堀さん。当然のことながら他言無用でお願いしますよ?」
「ええ。当然のことですよ。僕はもちろん〝怪異屋〟も口が堅いのが信条でしてね」
さてさて。美味しそうな話であれば……砥堀の内心は舌なめずりをしている。
◆◆◆
あの福崎というお爺さんの家に行ってから一週間が経過した。特に叔父さんからの連絡はない。あ、一度、娘さんの写真がメールで送られてきた。年齢が違い過ぎるけど、たぶんあの家の霊と同一人物だったと思う……という風に返信はした。
それだけ。
その後の進展があれば伝えるとか言ってたけど、叔父さんは飽きっぽい面もある。やる気が失せたら動かない。だから、私も別にあの家のことはそんなに興味津々で情報に飢えていた訳でもない。尻切れトンボで終わっても気にはしない。
……と、思ってたんだけど。
『遥ちゃん。ちょっと出てこれる? 場所は〝渚〟』
叔父さんからのメール。数少ない友達とはアプリでやり取りしてるから、メールはほぼ叔父さん専用となっている。着信ですぐに分かる。ただ、どうしようもなく嫌な気を感じる。私は霊的なモノが視えるけど、別に第六感的なモノはないはずなんだけどな。
『分かった。三十分くらいで行く』
短文でのやり取り。
尻切れトンボで終わっても気にはしない?
嘘だ。嫌な気はもちろんするけど、実のところすごく気になってた。あぁ、こういう所は叔父さんみたいで嫌になる。
どうせ家でダラダラしてるだけだったし。……なんて言い訳を自分にしながら、割とささっと準備して家を出た。くそ。気が逸ってるな。
……
…………
喫茶〝渚〟。
昭和レトロ的な雰囲気で、割と若い子にも人気があるらしい。ただ、私は知っている。この店は昭和レトロじゃなくて、その当時から変わってないだけ。お爺ちゃんが若いころからあるらしいし。
ドアを開けると、カランコロンとこれまたお約束な音。実は嫌いじゃないんだよね。この感じ。
私が店内に入ると、すぐさま叔父さんが軽く手を挙げてくれた。ま、今の時間帯はお客さんも少ないからすぐに分かったけどね。
奥まった壁際のテーブル席。叔父さんのお気に入りの席だそうだ。行きつけの店でお気に入りの席とか……そういう拘りはちょっと年寄り臭いなんて話をしたら、叔父さんじゃなくてお父さんにまでダメージを与えてしまったのは記憶に新しい。この席、お父さんもお気に入りだったようだ。
「やぁ。悪いね急に呼び出して」
「……いいよ。どうせ暇だったし」
逸る気持ちを抑えて、アイスコーヒーを注文する。まだ慌てるような時間じゃない。
「で? 今日は新しい話? それとも前の家の話?」
「はは。前の家の話を聞きたいって顔に出てるよ?」
くっ。見透かされてたか。冷静なつもりだったんだけど。
「……そういうのいいから。とっとと話してよ」
「いやぁ悪いね。あれから依頼人の横関氏と話をして、色々と調べ物をしてたんだよ。残された骨壺のこととかね。ま、結論から言えば遺骨が誰の物かは判明しなかった。流石に無理だったよ」
叔父さんが横関さんから聞いた話と調べた結果。
あの家は福崎さんとその奥さんが長らく二人暮らしをしていたみたい。で、十二年前に奥さんが交通事故で死亡。
夫である福崎さんは茫然自失となり一気に老け込んだんだってさ。それで、遠い親類だけど、比較的近所に在住するという、今回の依頼人の横関さんが福崎さんのことをアレコレと世話を焼いていたと。
ただ、福崎さんは日に日に弱っていき、食事も摂れないような状況が続き、流石にこれは不味いとなり遠方にいる娘さんに連絡。
諸々があって、バツイチで一人暮らしだった娘さんが父親と同居することに。めでたしめでたし。一時的には。
その後、福崎さんは徐々に食欲も戻り、娘さんと二人で外出する様子が見受けられるようになり、近所の方々や横関さんも喜んだんだけど……そんな福崎さんに認知症の症状が出てきたんだって。
「……病院とかには行かなかったの?」
「はは。当然行ったようだよ。ただ、残念だけど、認知症に特効薬はない。予防するとか進行を遅らせたりしかできない。しかも個人差が激しい。人によっては薬の合う合わないもあるしね。で、そんな父親の症状なんだけど、妻が亡くなったことを忘れてしまったようでね。亡き妻を尋ね歩くようになったんだと。時には娘のことを妻だと思い込むこともあったようだね」
「えぇ……? 奥さんが亡くなったことを忘れるなんてあるの?」
信じられない。よく『ご飯食べたかいの?』『お爺さん、さっき食べましたよ』なんてのは聞くけど……病気なのに治療できないの?
「遥ちゃんからすればトンデモない事かも知れないけど……そういう病気なんだよ。現にその症状で、父親は日中・夜間の区別なく外に出て妻を探し歩く日々さ。家の中でも妻が居ない、妻が居ないと大声で叫んだりもしていたそうだ。そのうち『妻が帰ってこないのはアイツの家に入り浸っているからだ』と、近所の無関係の家々に怒鳴り込んでいくこともあったんだと。ま、病気の症状ではあるけど、近所の人からしたら堪ったものじゃないだろうね」
……病気でそんな風になるんだ。怖いな。
「ええと。よく分からないけど、そういうのって精神科とかは?」
「ああ。精神科も含めての受診案件だろうね。はじめは病気だから仕方ないと見守ってくれていた近隣の方々も、度重なる迷惑行為にとうとう警察を呼ぶことになったようでね。そうなってようやく福祉サービスを利用するようになったそうだ。……だからと言って、事態はそれほど好転もしなかったようだけどね」
なんだか聞いていると凄く怖い。
もし、お父さんがそうなったら……お母さんがそうなったら……
「残念なことに、多少の落ち着きはみられたけど、同居する娘さんの疲弊は酷かったようだ。父親の福祉サービスの利用と共に、娘さんにも不眠やわけもなく動悸が激しくなるなどで心療内科に通うことになったそうだ。そして、しばらくすると、何故か父親は妻の死を受け入れた。まぁ思い出したと言うべきかな。それが良いか悪いかは知らないけど、そういうこともあるんだろう」
「え? 思い出したなら良かったんじゃないの? もう外へ飛び出していくこともないでしょ?」
「残念ながらそうはならなかった。今度は『妻の遺骨を手元に置きたい』と激しく訴えるようになったそうだ。その際、父親から娘に対しての激しい暴力もあったようだよ。これまた良い悪いの判断はつかないが、認知症はあるものの父親は大柄で身体は丈夫。小柄な娘さんは七十代後半の父親に力負けしていたようだ」
なにそれ? 自分の世話をしてくれている娘に暴力を?
「じゃあ、あの遺骨って……奥さんの?」
「不正解だよ。遥ちゃんには不愉快かも知れないけど、僕はこの話を聞いて嬉しかった。たとえ悪意が無くても、どうしようもない屑がいるんだと実感できたからね」
あ、もう聞きたくないかも。嫌な叔父さんだ。活き活きしている叔父さん。
「娘さんが、度々父を妻の墓参りに連れて行って宥めすかしていたみたいだけど……当の父親とは何度も同じ問答を繰り返すわけだよ。『遺骨を持って帰る』『だめだよ』『嫌だ持って帰る』ってね。ただでさえ心身が弱っていた娘さんだ。父親の認知症による問題行動、繰り返しの訴え、暴力や暴言……彼女がキレても僕はおかしいとは思わないね」
「……ねぇ叔父さん。この話が絶対にハッピーエンドにならないのは知ってるけど……どこかでなんとかならなかったの?」
胸が苦しくなってくる。どうしてこんなことになったんだろう? もう〝答え〟が出ちゃってるから、どうしようもないんだけど……。
「関わっていた福祉関係者は色々と手を打っていた。守秘義務もあるからなかなかに難しかったけど、当時の関係者……調整役のケアマネジャーさんにも話を聞いてきたよ。親類である横関氏同席の上でね。ただ、父親本人が施設などを激しく拒否していたし、娘もそこまで無理強いはできないと積極的でもなかったようだ。福祉的な観点である、本人の権利擁護とやらで福祉関係者も歯痒い思いがあったそうだ。娘さんは偉いよ。父親の暴力に耐え、問題行動に対処しながら介護をしていた。でも、限界がきた」
あぁ聞きたくない。だけど、最後まで知りたい。私も叔父さんと同じなのかも。ちょっと自己嫌悪だ。
「遺骨だ。父親はやりやがったんだよ。彼は妻の墓の場所も覚えていない。福崎家の墓所がある霊園は少し離れた場所にあってね。いつもは娘さんが車で連れて行っていたそうだ。で、どうしたかと言えば、徒歩圏内の墓所から勝手に骨壺を盗んできた。しかも、仏具屋で真新しい骨壺を購入して移し替えるという偽装までしてね。もちろん、元の骨壺はポイ捨て。はは。まったくアクティブなジジイだ」
「は? え、えっと……ちょっと待ってよ叔父さん。そもそもお墓って勝手に開けれるの?」
「あの辺は関西式の墓も多い。重いのは重いけど、関西式だとカロートって納骨室は女性でも開けられるようになっている。開けた後は手を突っ込んで骨壺を取ることも可能だ。関東式の墓は業者対応ってのが多いかな。ま、地域や墓の大きさによっても差はあるらしい」
い、意味が分からない。いや、奥さんの遺骨を家に置きたいっていうのはなんとなく分からないでもないけど、どうして他人の墓を暴いて持って帰ってきちゃうの?
「そ、それじゃ……あの家にあった遺骨は、まったくの赤の他人の物ってこと?」
「まだ終わりじゃない。実は一回じゃないんだ。ある日、仏壇を掃除していた娘さんが気付く訳だよ。盗んできた遺骨の存在にね」
「……猛烈に嫌な予感がする」
娘さんがまだ健在だったころにそんな事件があったのに、未だに遺骨があの家にある。一回じゃないって……
「娘さんが
……どうしてそんなことに? 遺骨を盗まれた側はただの被害者なのに? そりゃ娘さんも辛かったんだろうとは思うけど……なんだろう。ちょっとフワフワする。
「……ねぇ叔父さん。それって犯罪じゃないの?」
「当然だよ。遺骨は勝手には捨てられない。死体遺棄罪に該当する。もっとも、父親の方もだ。礼拝所不敬罪、墳墓発掘死体損壊等罪……あと、遺骨を勝手に盗む、移し替える、トイレに流すという行為は、遺族感情を鑑みると慰謝料や損害賠償の対象にもなるだろうさ。もっとも、一方は施設入所中の高齢者。一方は既に故人。泣き寝入りになるだろうね。そもそも、その遺骨が何処から盗まれた物かもハッキリしていないという状況で被害者が不明ってわけだ。もしかしたら、被害に遭った方々も気付いていない可能性もある。ちなみに余談だけど、警察に遺失物として届けられる品の中には遺骨や遺灰入りの骨壺なんてのもあるらしいよ」
お墓参りには行くけど、私は家族や親戚のお葬式に参列するような経験はまだない。だけど……自分や親の遺骨がそんな扱いをされたら……絶対に嫌だ。
「それで終わりじゃないってことは、父親はまた盗んできたの?」
「そう。まさかのオカワリだ。父親はまたやった。同じような手口で。認知症という病気がそうさせたってのは分かるが、クソったれな話だ。そのオカワリの骨壺が僕らも確認したアレだよ。もうその頃には娘さんも父親の行動を咎めもしなかったようだ。その代わりに日常的に暴力を振るっていたらしいけど。立場が逆転したんだろうな。ただ、結局、娘さんは精神を病んだようで、ブツブツと『視える視える』と呟くことが多かったそうだ。流石にもうダメだと判断して、福祉関係者や横関氏が介入しようとした矢先に……娘さんは二階で死んでいた」
自殺。いや、自殺じゃないかも知れない。でも誰が? そんな状態の父親が本当に娘さんを殺せる? 偽装工作までして?
「……叔父さんは、まだ娘さんは自殺じゃないって思ってる?」
「曖昧だな。聞くところによると、娘さんが亡くなった頃の父親はかなり認知症の進行もあり無気力状態だったらしい。流石に父親が……っていうのは無いのかもね。単純に殺すことが出来ても、警察や医師の目を搔い潜るほどの偽装工作ができたとは思えない」
一体、あの家でなにがあったんだろう?
あ、ダメだ。興味本位が強くなってる。ダメダメ、これじゃ叔父さんと変わらない。
◆◆◆
あれから二週間が経過した。
結局、モヤモヤとしたまま。
遺骨が誰のものかは分からない。
娘さんが自殺なのか他殺なのかも分からない。
娘さんの霊がカラーとモノクロで別れていた意味も不明。
いや、別に私には関係のないことだし、この世のすべての謎を知りたいなんて思ってもいないけどさ。やっぱり気になるでしょ?
「遥ぁ~ちょっと降りてきて~」
「あ、は~い」
どうしたんだろ? お母さんに呼ばれて部屋から出て一階へ。珍しく平日に休みをとったと言ってたけど……
「どうしたの?」
「あ、遥。ちょっと陽介さんに頼まれちゃってさ。この間、陽介さんと一緒に行った家にあんたを連れて来て欲しいってさ」
「え……? は、はぁ~!? もしかしてお母さん、そのために休み取ったの? なにやってんのよ。叔父さんの言うことなんて放っておけばいいのに!」
なにしてくれてんの? 私はいいけど、お母さんを巻き込むなよ。
「まぁまぁ。陽介さんも遥のことを気にしてのことだから……」
「もう! お母さんは叔父さんに騙されてるって! あの人は私を利用して自分の興味を満たそうとしてるだけだし! 今回のは特にそうなんだから!」
せめてお父さんに頼んでよ。叔父さんへの私の評価がまた悪くなった。というか、あの家の場所なんて私は覚えてないし。
「はぁ……いいよ断っても。どうせ興味本位の話なんだし。それに、場所だって私は覚えてないから」
「ああ、それなら住所も送られてきたから。ナビで行けるわ」
「どうしてお母さんはそんなにノリノリなのよ……?」
うーん……うちのお母さんって、おっとりしてる割には妙にノリがいいというか……頑固とも言えるのかな?
「いいじゃない。遥と二人で出かけるなんて最近なかったし……ドライブなら余計なモノも視ないで済むでしょ?」
「わ、分かったよ。…………ありがと」
確かに続きが気になっていたのはあるけど……あんまりお母さんには関わって欲しくない気もするんだよね。なんだか余計に不安にさせそう。
「それで、叔父さんはなんて言ってたの?」
「ええと、〝だいたい謎が解けた。最後に遥ちゃんに確認して欲しいことがある〟って……」
くそぉ……私が行かないって思ってないな。ああそうだよ。行くよ。行きますよ。
……
…………
………………
「それにしても割と遠いところまで行ってたのねぇ~」
「車で一時間くらいだったかな? あ、ちなみに現地に到着したら、お母さんは中に入っちゃダメだよ?」
「ええ? どうしてそんなこと言うのよ~? …………もしかして、危ないところなの?」
あ、不味い。お母さんの声のトーンが下がった。マジなヤツ。違うから。
「ち、違うよ。単に中が汚いってだけ。私は作業用の恰好だけど、お母さんは違うでしょ?」
「あらそうなの? 言ってくれたら着替えたのに……」
「……というか、まだ中に入るかも分からないけどね」
まぁ確実に中には入ると思う。私に確認してくれってことは、あの娘さんの霊のことだろうし。
実は私も少し考えていた。一人の霊が分裂するなんてこれまでに一度も視たことはない。ただ、以前に連れて行かれた〝本物〟の霊能力者が言ってたのを思い出した。
『同じ人間の霊が一つだけなんていうのはコッチの勝手な思い込みよ』
だってさ。時には生霊のように、数分前だとか、数年前の自分の霊体とかが同時に存在することだってある……みたいなことを言ってたはず。うろ覚えだけど。
もしかしたら、私が視た娘さんの霊は時系列が違うのかも? 死後も一つに結合されなかった生霊の名残みたいな? そうなってくるとなんでもありになっちゃうけど……どうせ考察したところで証明もできないしね。
「ところで、結局今回の件はどんな話なの?」
「ええとね。一応、お父さんとお母さんには内緒って言われてたけど……もういいよね?」
「ふふ。それはそうでしょ? そうじゃないと陽介さんも私にまで頼まないと思う」
「実はさ………………」
あんまり愉快な話じゃないけど、お母さんとこんな風に話すのは久しぶりな気がする。割と部屋に引きこもってるし……はぁ。ダメだな。もうちょっと外に出ようかな?
でも、やっぱり今日もよく視えるんだよね。街中は通り過ぎるだけでも疲れちゃう。
リモートで勉強はしてるけど、いつかはちゃんと学校にも行かないとダメだよな……いつまでもこのままって訳にもいかないだろうし。
あぁ、このままだと叔父さんからの本格的なスカウトが来そう。叔父さんがやってる〝便利屋のトホリ〟で働くのもなぁ……ちょっとなぁ……
トイレ休憩やら買い食いやらしながら、割とドライブを満喫しながら現地に向かう。何故か叔父さんとは一時間だった行程が、お母さんとは二時間掛かった。楽しかったからいいんだけどね。
現地にはいつものミニワゴンの軽四……と、少し大きめのワンボックスカーが並んでる。車いすマーク? もしかして……
「智美義姉さん、すみませんでした。無理を言ってしまって……」
「いえいえ。こちらこそ。久しぶりに遥とドライブデートできたから」
流石の叔父さんも、お母さん相手には米つきバッタみたいにペコペコしてる。それも当然。我が家の全権は母にあり……ってね。
それにしても、このワンボックスカーって、いわゆる福祉車両ってやつ? 車椅子ごと乗り降りできる感じの?
「お。遥ちゃんも気付いた? これ、例の福崎さんを乗せてきている。今は仏壇に挨拶しているよ。……車いすごと中に入るためにかなり片づけることになったけどね」
どうりで叔父さんが小汚い……作業後な感じなわけだ。ということは、施設の人とかも来てるのかな? あんまり人の前でこの能力を明かしたくないんだけど?
「ちなみに、今日付き添いをしているのは全て僕の伝手で頼んだ連中だよ。……つまり、皆〝怪異屋〟のことは知ってる」
「……そのダサいネーミング止めてって言ったでしょ?」
「だからでしょ? とてもその正体が女子高生だとは思わないようなダサダサネームに敢えてしてるんだよ。ま、若干中二病っぽいのは否めないけど……」
恥かしげもなくよく言う。
いつの間にか私は〝怪異屋〟という名で活動していた。知ってたら全力で止めたよ。いや、止めようも無かったけど。
あ~何だか無性に恥ずかしくなってきた。皆知ってるって……こっちは初対面なのに、ニヤニヤしながら『よ、怪異屋!』とか言われると軽く死ねる。帰ろうかな?
「……ちょっと、なに車に戻ろうとしてるの? いやいや帰ろうとしないでくれよ~」
「ええい! 離せ! 私は帰る! お母さん! もう用事は済んだよ! 帰ろう!」
「ふふ。遥は相変わらず陽介さんと仲が良いわねぇ~」
くっ。お母さんのおっとりオーラがッ! 違う! これはフリじゃないから!
……
…………
さて。馬鹿な寸劇は終わり。いや、恥ずかしいのは本気なんだけどさ。ここまで来て帰るのもね。
一応、他の方々にも挨拶だけはしておいた。別にニヤニヤされることはなかったよ。ふぅ。ちょっと自意識過剰だったか。まぁ叔父さんだけがニヤニヤしてただけ。後で覚えてろ。
ちなみに、お母さんは車で待機。片付けたと言ってもやはりまだ汚い。流石に叔父さんの姿をみて察したみたい。
で、私の前には車椅子のお爺さん。この人が
今は仏壇の前に車椅子をセッティングされて、特になにをするわけでもなく、半分目を閉じて静かにしている。自分では移動も出来ないらしい。
実はモノクロの方の娘さんが凄い形相でずっとお爺さんを見つめている。あぁ違う。睨んでいる。恨み骨髄に徹するって感じ? 霊に骨髄とかないけど。
その様子はメッチャ怖いけど、別にその恨みがコッチに向いている訳じゃないから……まぁいいやって感じかな。
「(叔父さん。結局どうしたらいいの?)」
「ん? ああ。遥ちゃん。別にこの人に気を遣う必要はないよ。福崎氏にも聞かせたいと思って呼んだんだ。……どこまで理解しているかは知らないけどね。あ、ちなみに彼が依頼人である横関さんだ」
福崎さんの横に居る中年のおじさん。中年っていうか初老? ま、いいや。とにかく紹介された。
「あ、はじめまして。小咄です」
「え? あ、はい。横関です。 ……もしかして君が怪異屋?」
「いえ。そんなダサい名前じゃないです。忘れて下さい」
スルーだ。怪異屋とかはもう結構。
「……で、叔父さん。改めて私は何をすればいいの? モノクロの娘さんがメチャクチャ睨んでるけど……実は横関さんも少し感じていますよね?」
「え、ええ。この和室に入ってから寒気と視線を感じる。や、やはり君には視えているのか?」
「……はい。部屋の隅です。視線は福崎さんに固定されていますね」
「ひッ!?」
たぶん、この横関さんは一般的には〝霊感がある〟ってタイプなのかも。実生活においては別になんの役にも立たないスキルだけどね。勘が良いってくらいかな。私もその程度だったら……
「遥ちゃん。君に視て欲しいのは、一階のコレと二階廊下のアレじゃなくてさ。二階の娘さんの部屋だ。よく考えたら、二階の部屋はまだ確認してなかっただろ?」
「え? ……あぁ、そういえばそうだね。二階の部屋はまだ視てない。でも、二階はアレが居るしなぁ……」
アイツ、私たちを認識した瞬間に走ってくるから。廊下もそんなに長い訳じゃないからあっという間だし。
「ま、とりあえずもう一回だけチャレンジしてよ。無理そうならそれで良いからさ。実はアレの注意を引くために福崎氏を連れてきてもらったっていうのもあるんだ」
「……えぇ。気付くかな? 連中って割と自分のテリトリーは狭いよ? テリトリーの外のことは我関せずって感じだし……」
そりゃ一階のモノクロの娘さんはメチャクチャ父親に執着しているみたいだけど、二階のカラーの方にも通じるのかな? 車椅子だし、二階に連れて行くのも難しいだろうに。
「とりあえず、福崎氏には階段の下に待機してもらおうかな? 横関さん。よろしいでですか?」
「え? え、えぇ。分かりました。私としては、この部屋を出れるならそれに越したことはないです」
あ、本当に試すんだ。う~ん。叔父さんがこういう妙に確信のあるときは、その通りになることも多いのも事実だ。実は私とは違うナニかが視えてたりするんじゃないかと思うくらいに。
横関さんが車椅子を操作して、仏壇の前から動かそうとした際、一瞬だけ福崎さんが嫌そうな素振りを見せた。結局は特に抵抗もなく和室を出たけど……認知症で意思の疎通も難しいって言うけど、やっぱり本人には分かるものなのかな?
車椅子の通り道の分だけ片付いたリビングを通り抜けて一度玄関へ。そして廊下を突きあたって階段。
もう声が聴こえる。
『二階には上がって来るなって言ってるだろッ!!』
『早く死ねよッ!』
『なんでアンタがのうのうと生きてるんだッ!?』
『オマエが死なないと、私が死ぬんだッ!! 分かれよッ!!』
二階の霊は、階段下に居る父である福崎さんをちゃんと認識している。
二人の関係が父娘と知っているから余計にだけど……正直、聞くに堪えない。
どうなんだろう? 私も、お母さんやお父さんに介護が必要になって、凄く凄く疲れちゃったら……こんな風に言っちゃうのかな? ……嫌だな。でも、ちょっと話を聞いただけでも、娘さんは一所懸命にお父さんを介護していたみたいだし……
「……聴こえるんだね? 遥ちゃん。二階のあのカラーの奴の声が」
「うん。福崎さんを認識しているみたい。たぶん、今なら普通に横を抜けていけそう」
「横関さん。僕と遥ちゃんで二階を見てきます。ここでお待ち下さい」
「あ、あぁ。分かった。ただ、ここに居るとラジオの砂嵐のようなノイズ音が聴こえるんだが……?」
やっぱり勘が良い。この横関さんは霊感ありだね。プチ自慢くらいは出来るのかも。まぁ本人は求めていないみたいだけど。その辺りの心境は私と同じだね。
そんなこんなで、叔父さんを前にして私は階段を昇る。折り返しを過ぎたらすぐ上にカラーの娘さんがデた。デている。
一階のモノクロと同じく、般若の形相で階段下を睨んでいる。それだけじゃなくて、コッチは喚くも追加。ずっと罵詈雑言を繰り返している。
「……叔父さん。階段の一番上に居る。大丈夫だとは思うけど、できるだけ右か左に避けて」
「分かったよ」
とは言っても、どんなに避けたところで身体は霊に触れる。叔父さんは零能力者故なのか、特別に何も感じないらしい。
私は……寒気がする。気持ち悪くなっちゃう。何故かは分からないけど、その霊の想いというかなんと言うか……一番強い願いみたいなモノが流れ込んできたりする。
だから、このカラーの娘さんとは可能な限り触れ合いたくない。前にも感じたけど、この霊には恨みつらみばっかり。怒りと憎しみ。
壁際ギリギリに目を瞑りながらカニ歩きで横を抜ける。少し触れちゃった。
『なんで私ばっかりこんな目にッ!?』
以前とは違う想いが流れてきた。辛い。苦しい。助けて欲しい。
「……あ……」
そうだ。この人はお父さんの介護を一人で頑張ってたんだ。辛いのも苦しいのも当たり前だ。父親が病気になって、他所の墓から遺骨を盗んで来るなんて……気軽に相談なんてできないよね。一人で抱え込んでたんだ。
「遥ちゃん!」
「……え?」
叔父さんに強く手を引かれた。ちょっとバランスを崩してつんのめる。二階の廊下にへたり込んじゃった。
「……大丈夫? 動きが止まってたよ?」
「……え? 私、もしかして今フリーズしてた?」
「ああ。悪いけど、前に言われたように強制的に引っ張って動かしたけど……痛くなかった?」
あぁ。そうか。ちょっと〝共感〟しちゃったんだ。
私は霊に触れた際、その感情に引っ張られることがある。その感情に共感すればするほどそうなるみたい。そうすると、自分では一瞬のつもりなのに、傍からは停止状態。フリーズ。酷い時は、一時間くらい動けないこともあった。私の体感としてはほんの数秒だったのにだ。
いまもちょっとそうなりかけてた。叔父さんが居て助かった。……まぁ、元々は叔父さんの依頼の所為なんだけどさ。
「ううん。大丈夫。ありがと。助かったよ」
「……いつも悪いね。巻き込んでさ」
「……はは。今更だね」
一見、神妙に心配してくれている風だ。でも、私は知っている。この叔父さんにそういう感情はない。
たぶん、この人はサイコパスってやつ。他人の感情に共感できない。だからこそ零能力者なんだと思う。別に世間のイメージ的な殺人鬼って訳でもないし、別に私は気にしていない。叔父さんは今みたいに〝フリ〟は出来るしね。
気を取り直して……娘さんの部屋だ。
◆◆◆
「ここが娘さんの部屋。首を吊って死んでいた場所だ」
あぁ。やっぱりだ。叔父さんは知ってたんだ。確信があった。ここに私に見せるべきモノがあるって分かってたんだ。
少し大きめだけど、その中身はシンプルな部屋。
衣装ダンスとベッド。小さなワークデスクと椅子。後は化粧台。
特別な物はない。
ただ、私には視える。
首に紐が巻き付いたままの女性が窓際に座っている。
恐らく、窓の外……小さなベランダの縁に紐を巻き付けて首を吊ったんだ。てっきり、身体ごとぶら下がるタイプの首吊りかと思ってたけど、座ったままの首吊りだったみたい。当時のまんまの姿なのかも知れない。
一階と二階廊下で視たのと違い、その表情は無。能面のような……という表現は、こういう感じなんだろうと思う。
「……首に紐が巻き付いている。自殺みたい。彼女は自分でその紐を身に付けた上で命を失ったんだと思う」
見たままを叔父さんに説明する。すると反応があった。叔父さんじゃなくて、娘さんの方。その無の顔を私に向ける。
まるで心臓を掴まれたみたいに苦しい。これは怖さじゃない。……悲しみだ。あぁ、涙が出る。
触れてないのに……彼女の感情が流れてきた。
『どうしてだろう?』
『どうしてこんなことになっちゃったんだろう?』
『頑張ったのに……』
『お父さんを傷つけたくなかったのに……』
『あぁ……なんてことをしちゃったんだろう……』
『お父さんは悪くない。でも……これはどうしようもなく悪いことだ』
後悔。懺悔。哀しみ。不甲斐ない自分への怒り。情けなさ。ごちゃ混ぜだ。
「……遥ちゃん。どう? フリーズしそう?」
「……ううん。これはただ単に私が泣いてるだけ。この人の……気持ちに触れたから。娘さんは、お父さんに暴力なんて振るいたくなかったんだ。お父さんが殴ってきても我慢できたんだ。ただ、お父さんが……余所の人に迷惑を掛けた。それももう謝ることも出来ない相手に。それがどうしようもなくやるせなくなった……この人は心がバラバラになっちゃったんだ」
分かった。霊体が三つある理由。私は詳しいことは分からないけど、たぶん、それぞれが別の感情を司ってる気がする。
一階のモノクロは、お父さんに殴られている娘さん。
二階のカラーはお父さんに暴力を振るっている娘さん。
そして、この部屋に居るのは、自身の命を絶つという決断をした娘さん。
それぞれが別々に娘さんの想いを代弁しているんだと思う。
「……叔父さんは知ってたの?」
「たぶん、遥ちゃんが考えているような答えではないけどね。あまり褒められた方法ではないけど、娘さんの主治医にカルテを見せてもらった。当然無許可でね。そして、当時関わっていた関係者からも少し情報を得られた。娘さんは解離性同一性障害の傾向があったようだ。遥ちゃんには多重人格と言った方が分かり易いかな? なかなかに診断が難しいモノだし、病名としてハッキリとカルテに記載されている訳ではなかったけどね。カルテには鬱病とだけ記載があったよ」
多重人格? 映画とか漫画であるやつ? ……それぞれの人格が霊として現れたってこと? そんなことが? いや、私がふと思いついた考えとそう変わりはないのか。その時々の娘さんが居たってこと。
「……叔父さんは……本当は視えてるの?」
「はは。まさか。僕には霊なんて視えないよ。ただ、人間の性質を少し知っているだけ。あと、遥ちゃんよりは人生経験も長いしね。イロイロと事例に触れてきたってだけさ」
以前にもこんなことがあったっていうの? 叔父さんは何故そんな事例を知ってるの?
興味本位? ……たぶんそうなんだろうな。自身の興味を満たす為にイロイロとしてきたんだ。この人は。だって、今回だって平気で法を破っている。冷静に考えたら、医療機関のカルテを盗み見るなんて……明らかにおかしいもん。
「……結局、娘さんは自殺だったんだ。お父さんは関係ない」
「いやいや。関係なくはない。元はと言えば、福崎氏が骨壺を盗んで来たのが発端だ」
「でも、それは病気の所為でしょ? 相手からすると堪ったものじゃないけど……どうしようもないんじゃないの?」
病気だから仕方ない。
そりゃモヤモヤはするけどさ。
「確かにどうしようもない。ただ、僕はソレが正しいとは思えない。病気だろうが正気だろうが、やったことの事実は変わらない。認知症の人は一律無罪? 馬鹿げているね。遥ちゃんが言うように、やられた相手からすれば結果は変わらないんだからさ。ま、実のところ被害者の方を見つけ出すことも難しいんだけどね。既にこの付近の関西式の墓がある霊園などには問い合わせているが確認は取れない。霊園側からも連絡が取れない家族親族も多いようだしね」
ほら。結局はどうしようもないことに変わりはないじゃない。それに、今の本人……福崎さんになにを言っても伝わらないんでしょ?
後味は悪いけど。
「叔父さんはあくまで興味本位でしょ? それなのに……他人には道理を説くの?」
「お! これは手厳しい。一本取られたね。はは。確かに僕がどうこういう言えた立場じゃないか」
叔父さんの言い分はある意味では正しいと思うけど、それを言う叔父さん自身が普通に罰を受ける側の人間だからね。
なんていうか、説得力がない。
「……この家には他に霊的なモノは居ないみたい。あの遺骨の持ち主、返す場所も分からないね」
「最終的に横関さんがお寺に事情を説明して供養してもらうと言っていたけど……それもどうなんだろうね。本来、埋葬許可証が無い遺骨の処理は違法だ。ま、彼もずっと放置してきた問題にようやく向き合うことにしたそうだ。娘さんが亡くなりもう五年が経過している。その間、この家はほぼ手付かずだったらしい。もう少し早く動いていれば、また違ったのかもね」
叔父さんは何様なんだろう? 結果が出たことに対して、あの時あーすればよかった、こーすればよいとか……他人が口出すことじゃないよ。
しかも叔父さんはそれを〝分かった上〟で言ってる。なんか、試されてるようでムカつく。
「叔父さん……そんなことを言うものじゃないよ……って、私に言わせようとしてる? 子供には変わりないけど、そこまでガキじゃないから」
「はは。遥ちゃんには容易い問題だったか。でも大事なことだよ。君は視えないモノが視える。その分、僕みたいになっちゃうと危うい。興味本位で物事に首を突っ込まないように……ね?」
「……なにそれ。いつから叔父さんは私の教育係になったの?」
「ずっと前から。あくまで反面教師の方だけどね」
もしかして、こういうのもお父さんに頼まれてる? お母さんにチクってやろうか?
私たちは後悔と懺悔の娘さんを残して、部屋を出る。
少し心は痛むけど、私には彼女を除霊するとかできない。安らかな成仏へ導くなんて無理。
念のためにもう一つの部屋を視たけど、そっちにはなにもなかった。視えない、聴こえない。やはり遺骨の手掛かりはない。
未だに鬼の形相で罵詈雑言を吐く階段の霊を避けて、階下に降りる。少し触れたけど、もう彼女には共感しない。あくまで娘さんの一部の感情なんだ。これがすべてじゃない。そう思うと、すんなりと通り抜けられた。
階段下で待つ車椅子の福崎さんと介添えの横関さん。
「福崎さん。一応お伝えします。娘さんは未だに後悔と懺悔の日々をこの家で過ごしています。亡くなった後もずっとこの家に縛られてる」
「? んなぁ? 娘? ……はぁ?」
叔父さんは残酷だ。わざわざ福崎さんに伝えるなんてね。ま、伝わってないみたいだけど。
「……砥堀さん。娘さんは……」
「どうしようもありません。彼女はずっとここに居るんでしょう。遺骨については手掛かりは見つかりませんでした」
「……は、はぁ。後は役所やお寺の方と相談します……」
「あぁ、勿論お手伝いしますよ。あと、家の片付けに関しては業者に話をして見積もりは取りましたから……」
後は叔父さんの仕事。私が出る幕はない。
ただ、これは私の気の所為だけど……
福崎さんの視線はずっと仏壇の部屋を向いてる。あと、娘さんの罵詈雑言に反応してる素振りがある。もしかするとこの人は……?
ま、だからと言ってどうしようもない。
色々と思うことはある。でも、私はいま娘さんの心情に立ってる。
この福崎さんだって、娘さんに暴力を振るわれていたわけだし……どちらが絶対に正しいとかはないんだと思う。
なるほど。ここで私が出しゃばると叔父さんみたいになるってことか。流石の反面教師だ。
◆◆◆
……
…………
………………
「やぁ。遥ちゃん」
「……久しぶりだね。叔父さん。今日はどうしたの? 新しい話?」
お母さんとのドライブデートから一ヶ月。
また叔父さんに呼び出された。喫茶〝渚〟。
分かってる。新しい話なら、この人は家に来る。今回は福崎さんの続きだ。
「はは。最後の報告だよ。とりあえず家の片付けと遺骨の処理が終わった」
「……そうなんだ」
私の中ではもう終わったことだし、あまり興味を出すのも何処かで罪悪感がある。叔父さんみたいにはなりたくない。なりたくてもなれないと言うべきかも。
「課外授業が堪えた? 感心だね。ま、これで終わりさ」
叔父さん曰く。
残されていた骨壷……遺骨は、役所の方に相談してもどうにもならなかったそうだ。
まず、それが盗まれたものかどうかも分からない。被害届が出ているなら警察へ行けと言われたらしい。
警察に相談しても、あまり真剣に相手はしてもらえなかったみたい。まぁ、処理を警察に押し付けようと思われたのかもって。あと、特に該当する被害届なんかも出ていなかったそうだ。
結局、近隣のお寺に相談して合同供養をしてもらったってさ。かなり渋られたみたいだけど……やっぱり本当は駄目なことらしい。その辺りは詳しくは教えてくれなかった。
「家も解体処理が始まった。もっとも、福崎氏にそんなに潤沢に金があったわけじゃないから……横関さんがかなり自腹を切ったらしい」
「……結局、福崎さんのやったもの勝ちみたい。叔父さんじゃないけど……病気だからといって、何をやっても許されるっていうのはオカシイ気はする」
駄目なことだけど、本音が漏れる。
福崎さんも辛いも思いをしたんだろうけど……でも……ってね。
「はは。確かにね。ま、仕方ないさ。まだ横関さんが金を出してくれただけでも恵まれている。あのままずっと放置ということだってあるからね。むしろそっちの方が普通かも」
「……なんだかスッキリはしないね。まぁ別に私がスッキリするために世の中があるわけじゃないけどさ」
なんだかな。モヤモヤは残る。
たぶん、叔父さんはこのモヤモヤが嫌で色んな事に首を突っ込むんだろう。
私はそうはならない。なるとしても、自分で責任を負えるようになってからだ。
「……ってことで。福崎氏の話はこれで終わりだ。今回は特に成果も無かったし、横関さんも金をかなり使ったからね。僕への報酬は少ない。サービス価格で処理したよ。悪いけど……遥ちゃんにも渡せる金額はいつもよりはかなり少ない」
「別にいいよ。その辺りはお父さんと話をしてくれたらいい」
終わり……か。
今回は依頼人の方に対してはほとんど役に立ってなかった。叔父さんの興味を満たす係に過ぎなかったからそれはいい。
「ねぇ叔父さん。遺骨を供養してくれたお寺を教えてくれる?」
せめて、あの何処の誰ともしれない遺骨に花でも添えよう。
あと、娘さんのお墓にも参ろうかな?
◆◆◆
怪異のコバナシ なるのるな @natumouhimari
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