6 王都の最新ファッション……?
「?????」
ますます意味が分からない。
スカイ様は、首を傾げている俺の前を通り過ぎ、俺の家の入口に立つと、その杭を入口にぶっ刺したのだ。
「……へっ??」
その深さは中々のモノで、騎士でもない農夫には絶対に抜けない事は分かるくらい。
非常に邪魔な位置に打ち込まれた杭をみて、流石に物申したかったが……先ほど広場に作られていた首吊台を思い出し、お口チェックした。
「こんなモノか。よし、これで……こうして~ああして~……。 」
そしてスカイ様は、手に持っている鎖をその杭にグルグル巻き……ニヤッ!と満足気に微笑む。
「これなら逃げられないだろう。全く……まさか領主就任した途端に、こんな危険人物になっているとは……。
お前の処遇は、これから決める!とりあえずそこで待機しろ!いいな?」
ビシッ!と俺を指差すスカイ様。
俺は入口にぶっ刺さった杭に巻かれた鎖に繋がれ……その姿は犬小屋に繋がれている犬と同じ!
流石にあんまりだ!とその場で塞ぎ込んでシクシク泣くが、スカイ様はまるでゴミを見るかの様な目で俺を見下ろし、さっさといなくなってしまった。
「な……なんなんだよぉ~ぅ……。俺……俺……なんにもしてないのにぃ~……。」
ヒンヒン泣いたが、誰も追いかけては来ない。
多分今頃、スカイ様を出迎える宴の準備に皆忙しいからだと思われる。
「……ご馳走……。」
スカイ様の歓迎会ともいえる宴には、きっと貴重な乾燥モンスター肉などのレア素材も出てくるはずだと、ワクワクして待っていたのに、この始末……。
戦闘能力皆無な俺達村民にとって、肉は宴の時に少しだけ食べれる最高級のレア素材で、恐らく今回も出るだろうと予想していた。
だから本当に本当に楽しみにしていたのに!
「……うぅ~…………。」
俺はグイグイと鎖を引っ張ったが、杭はびくともしない。
このまま俺は、犬の様に鎖で繋がれたまま放置される様だ。
そのままシクシクと泣いて過ごしていると、突然人の気配がしてそちらを振り返った。
するとそこには不自然に視線を逸らしている騎士の男性が二人立っていて、その手にはスイカ3つ分くらいの大きさの箱がある。
「……スカイ様より、お届け物です。」
不自然に視線を逸らされながら渡された箱。
一体中身はなんだろう?と不思議に思いながら騎士の男たちを見上げると、二人は困った様に見つめ合い、俺に説明を始めた。
「……中身は分からんが、今日の宴の時に着るようにって、言ってたぜ。」
「ちゃんと泥も落として綺麗にって言ってたから、多分お前の格好が気になったんじゃないか?でも、普段あんな言い方している所、見たことないけど……。」
二人は『なぁ~?』とお互い頷き合いながら、そう言って今度は水が入った桶を一つとタオルを一枚持ってくる。
そして、それを俺に渡して可哀想なモノを見るかの様な目で見下ろしてきた。
「スカイ様は公爵家の人間ながら、偉ぶる事もなく素晴らしい方なんだ。
だから……すまんが、お前の何かが気になって怒っているなら、俺達は何も言えない。」
「騎士団の奴らは全員スカイ様を心から崇拝している奴らばかりだからな……。
特に相棒の副団長<アース>様に至っては、スカイ様の邪魔になるモノは全排除しようとするからさ、お前も災難だったがどうか頑張ってスカイ様が気にならないモノになってくれよ。ごめんな。」
シュンと項垂れながら帰っていく騎士たちを見送り、俺は桶に映る自分の顔を見つめ……またボロボロと泣く。
俺が汚かったから気に入らなかったのかな?
泥で少し黒くなっている肌を見下ろし、ズピー!と鼻を啜った。
じゃあ、綺麗にしよう!そして、スカイ様の不快なモノを失くすんだ!そうしないと……?
────ガタン!!
…………ギィ……ギィ……。
自分が首吊台に吊られた場面を想像し、真っ青になりながら慌てて渡されたタオルを水に入った桶の中に浸す。
そしてすぐにそれでゴシゴシと体を拭き始めたが、さっき散々チョメチョメされた乳首が痛くて顔を歪めた。
ジンジンと染みる乳首を見下ろし優しく拭くと、桶の水が黒い水になる頃には、俺の体はすっかり綺麗になる。
サッパリすると気持ちにも余裕が出てきて、黒ずんだ水を木の杭の根本に捨てた。
「確かに泥だらけのまま挨拶に来たら、気分を害するか……。
ただでさえ高貴なお方なら尚更だろうし、俺が悪い悪い。
……いや、でも俺だけじゃなくね?農夫は皆こんな感じなのにさ、なんで俺だけ??」
新たな疑問が浮かんだが、たまたま俺に目が行っちゃったんだろうと、答えを出すのは諦める。
そして視線は、渡された謎の箱へ。
「……何が入っているんだろう?────あ、もしかして新しい服かな!?ちゃんときれいな服を着ろ的な!?」
貧乏農夫にとって、洋服は貴重。
なんといっても、すぐに泥まみれになって消費が早いので、商人達に足元を見られて高値をつけられるからだ。
「うわぁ~ありがたやありがたや~。服なら何でもラッキーだぞ!ズボンだと嬉しいな。ちょうど穴が空いてたから!」
自分の膝辺りを見ると、大きな穴からこんにちは!している膝とご対面。
ちょうど次に商人が来たら交渉しようとしていたので、ウキウキしながら箱を開き────……固まった。
中に入っていたのは、洋服だと思う。
しかし、俺が知っている洋服とはかなり形が違うモノであり、動揺を隠せなかった。
「…………。」
無言でそれを持ち上げると、紐で繋がっているハートの形の布が2枚ペロペロと旗の様に風で揺れる。
多分このハートの布がもっと大きくて普通の丸い形なら、女性のブラジャーというモノに似ていると思うが……これでは何に使うのかすら分からなかった。
「……えっ、何だ?これ??もしかして家に飾る系のヤツ??」
ドアとかに吊るすとちょっとお洒落なのかもしれない。
ちょっと貧乏農夫の俺には、レベルが高すぎるが……。
ハテナを飛ばしながら、続けて箱に入っている残りの服(?)を見下ろすと、紐に近いパンツっぽいヤツとか、キラキラ黄金色に輝くネックレスとか……とにかくよく分からないアクセサリーっぽいのがごっちゃり入っていた。
「????」
もう目が点!
何がなんだか……と途方に暮れていると、箱の奥に一枚の手紙の様なモノが入っていたので、それを開いて目を通す。
そこにはしっかりとイラスト付きで、その洋服の着方が書かれていた。
「……えっ、女性の下着……にしても露出が……。??殆ど裸なのに正装とか書かれているけど……??」
全体的な形としては、多分ビキニ。
ただ、そのビキニは上は乳首がやっと隠れるくらいの大きさのハート型の布地だし、下はお尻丸見えのTバック型、かつお象さんが隠れる部分にハートに羽が生えたアップリケ?がついていて不気味なデザインになっている。
そして首には何重にも巻くタイプのゴツい黄金ネックレスに、極めつけが網タイツと高いヒールががついた黒い靴ときた。
「…………。」
ペロ~ン!と網タイツを広げて、顔は思わず無表情に。
王都のファッションについて全く分からないからなんとも言えないが……これは確実に正装ではないと思うのだが??
困り果てて網タイツを箱に戻そうとしたが、やはり頭を過るのは首吊台の存在。
多分これを着ろというスカイ様のご命令なら、従う他なしということだ。
「……もしかして王都の最新ファッションかもしれないな。
農夫には理解できない格好だが……確かに夏は暑いから裸になって水やりしたりもするし、最終的に裸が人間の正装っていうのは、ありかも……?」
畑の水やりついでに、自分も水浴びできる~♬と、ココらへんの農夫達は結構裸になって働いていたりするから、誰かが『裸が俺達の正装だよな!』って言ってたし……。
「────よしっ!ここは完璧にコレを着こなして、スカイ様に怒りを沈めて貰おう!
えっと……これは……こうで……?」
カチャカチャ……。
イラストを見ながら、なんとかその洋服を着た俺は、正座して宴の時間まで過ごした。
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