第8話 シルヴィアの謎。
バロンズとの決闘を終えて、ディアンナが決闘の祝勝会をしようと言い出して僕らは酒場に来ていた。
まあ十中八九ディアンナは人間の食べ物をたらふく食べたいだけなのだろう。
こっちはあまり食欲はないんだけど。
「それにしてもケイン、お前意外とやるじゃねぇか〜。格上相手に無傷とはなぁ」
「……相手が僕のよく知っている
「とはいえ見事に一方的だったな。ケインの
「正直わたしは、ケインが負けると……思っていました。ごめんなさい」
シルヴィアの言うことももっともだ。
僕自身、決闘の直前まで勝てるとは思っていなかった。
バロンズのことが怖かったし、こんなことは初めてだったから。
「バロンズは昔からガキ大将で、僕はいつもバロンズに守られてきた。孤児院にいた頃は僕は浮いていたし、スラムも近かったから大変だった。でもいつもバロンズが守ってくれてたんだ。ケンカっ早いけど、頼りになる人だった。だからあんな目で見られるのは、怖かった」
バロンズは色んな人とケンカをよくしていたけど、僕はバロンズとケンカをしたことは1度もなかった。
僕からしたら、血の繋がった家族なんかよりも家族で、実の兄のように思っていた。
そんな人から向けられた憎悪の瞳は、もう脳裏にはっきりと焼き付いてしまった。
「そんなしんみりした顔をオスがするんじゃねぇよケイン。あいつに勝ったんだ。誇っていいと思うぜ? なんならオレ様がお前の子を孕んでもいいくらいだぜ〜」
「……ディアンナのお肉は没収しますね」
「あっ?! おいシルヴィア?! これはオレ様のだぞ?! ぶっ殺されてぇか?!」
「そもそもディアンナ、貴様は人間の子を孕めるのか? 獣なのに?」
「おう、孕めるらしいぞ。魔物が一定の知性? を獲得すると人間に近付いていくらしい。黒いやつが言ってた」
「黒いやつって?」
「知らねぇ」
黒いやつ、というのが実に不穏だが、ディアンナの話を深堀りすると亜人や獣人と言った種族は元々魔物だったらしい。
だがディアンナのような上位個体が人型にまで進化し、そして人間と交わったことで亜人や獣人といった種族が繁栄したらしい。
エルフはまた別らしいが、エルフと人間のハーフエルフもいることから、なんらかの繋がりはあるのだろうと言われているようだ。
「まあそもそも、人間なんていう弱い生き物が今んとこ1番繁栄してるのは知性ってやつのお陰なんだろうし、黒いやつが言ってただけだからどこまで事実かは知らねぇけどな」
「ディアンナ、その黒いやつというのは、こう名乗ってはいませんでしたか?」
先ほどまではディアンナに対して怒っていたシルヴィアが真剣な顔で見つめていた。
「大罪教界と」
「ああ……そういやそう名乗ってた気もするなぁ」
「……やはり、そうですか……」
納得したのかシルヴィアは小さくそう呟いた。
そしてシルヴィアは話し始めた。
「わたしは大罪教会についての情報を集める為に冒険者をしているんです。他にも何か情報はありませんか?」
「オレ様が知ってることはそれだけだな」
「私もないな。そもそも大罪教会って名前自体初めて聞いた」
「お前はオレ様の同胞をひたすら殺しまくってただけだろうが? 頭ん中まで筋肉でできてんのかぁ?!」
「黙れ獣が。お前こそ食事の席でやれ孕むだなんだと卑猥なことを言っていただろうが? 発情期か貴様?」
「オレ様の発情期は満月の夜だけだがぁ?」
……街外れの酒場でよかった。
酒場には悪いが、客入りが少ないのでこんな話をしていても問題はないだろう。
まあ、街外れの酒場をわざわざ選んでいるのはバロンズたちと顔を合わせたくないという僕の気持ちをシルヴィアが汲んでくれているからなので、どちらにしてもシルヴィアに感謝である。
その後は終始ディアンナとルーナさんの口喧嘩をシルヴィアが収めるという繰り返しで聞きたい話を聞くことができずに祝勝会は終わった。
……無論、金を持っていないディアンナはタダメシ喰らいであった。
「シルヴィア、この後少し時間いい?」
「え? はい。大丈夫ですよ」
「じゃあ僕の部屋に来てもらってもいいかな?」
「へっ?! ……わ、わかりました。でもさすがに身を清めてからでも、い、いいですか?」
「ん? ああ。まあいいけど。お酒も飲んでたし、お風呂に入りたいよね。その後でもぜんぜん大丈夫」
「わ、わかりました」
シルヴィアには聞きたいことがある。
なぜシルヴィアは僕のところに来たのか。
シルヴィアは大罪教会についての情報を集めていると言った。
大罪教会とはそもそもなんなのかも聞きたいし、その組織が一般には知られていないことも気になる。
そしてそんな謎の組織についての情報を集めたいのに、どうしてSランクパーティとなった『紅蓮の風』を抜けたのか。
高ランクの『紅蓮の風』ならばそう言った一般には出回らない情報を集めることもできたはずである。
というかそもそも、なんでシルヴィアは冒険者をしていられるのか自体気になる。
本人は落ちこぼれだとは言っていたが、それだとしても仮にも第3王女だ。
その身に流れる血の価値は僕以上にシルヴィアはわかっているはずである。
なのになんで、シルヴィアには護衛がいない?
もしも影から護衛が常に監視していた、とかだったとしても、ディアンナとの戦闘時は明らかに危機的状況だった。
ならば護衛はシルヴィアを助けて僕は殺すべきだったはずだ。
なのに僕は未だに生きている。
僕が護衛の存在を認識できていないだけかもしれないが、少なくともシルヴィアとの長い付き合いの中で護衛の存在は僕は確認できていない。
シルヴィアとは一体なんなのか?
大罪教会とどんな繋がりがある?
わからないことが、多すぎる。
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