島のコンビニ

詣り猫(まいりねこ)

島のコンビニ

 元々酒屋だったのだろうなと想像が容易いコンビニ。


 照明は少し薄暗く、床は石張り。大きな四角い柱が鏡でコーティングしてある。


 店内には、レジカウンター内の若い男性店員と、その前に四十代ほどの男性客が一人だけ。 


 もう五分以上も、彼は店員を詰めていた。


 店員の名札には名前表記がなかった。それはこういった大変な客とのトラブルを避けるためだ。


 本部にクレームが行くだけならまだしも、ネットが発達したこの時代、「◯◯店の鈴木の態度がゴミ」だとか、すぐ評価サイトに書き込む輩もいる。過剰攻撃されてしまうのだ。  


 客が声を落としながら言った。 


「だから何で、届けちゃったの?」


「何度も言いますように、それはお客様の貴重品ですので……」


「分かるよ。分かるけどさ、この店、島に一軒しかないコンビニだよ」


「はい。そうですね」


 店員の投げやりなその返しが気に入らなかったのか、客の怒りがぶり返した。


「あのよお!! 何で俺のスマホ、本土にあんの! 嫁の携帯で調べてもらったら、そこが赤く光ってたよ!」


「そうなんですか?」


「君ね〜 交番に届けたらそうなるでしょ。日を跨いだら、すぐ拾得物は別の警察署に行くんだよ!」


「あの……何で僕はそんなに怒られているんですか?」


「怒るだろ! 近くにあるはずの俺のスマホが何十キロも先にあるんだからさ!」


「でも、すみません。そもそもお客様が落とされたんですよね……?」


 店員の表情もさすがに曇る。


「そうだよ、そんな時もあるだろうが!」


 客は"痛いところを突かれた"という顔をするかと思いきや、「自分は正しいだろ?」と言わんばかりに熱を増してきた。


「じゃあ怒るのおかしくないですか……? こちらは親切心で拾い、交番にんですから」


「……けど、君は気が利かないんだよ! 普通さ、店で保管しとかない?」


「普通って何ですか? 店でずっとスマホをお預かりするのも、防犯的にどうかと思いますし」


「それが気が利かないって言ってんだよ! 最近の若い奴は、想像力が足りないんだよ」


「最近の若い奴と言われましても、色々な性格の方が居ますので、一括りにするのは良くないかと……」


 客は自分の頭を掻きむしった。


「ああ言えばこう言うね、君は! もう話になんねー! 店長呼んで!」


「無理です」


 店員は毅然とした態度で言った。


「何でだよ。家に居てもいいから呼べよ! フェリー乗って取りに行かせるんだよ!」


「だから無理です」


「良いから呼べ!」


「呼びようがないんです。店長は5年に1回ぐらいしか顔を出さないし、どこに居るかもちょっと」


「なに? 店長は流星群かなんかかよ!? じゃあオーナーは?」


「無理です」


「何で全員無理なんだよ!」


 客はレジ台を、バンと叩いた。


「この前、村の神様に生け贄にされたばっかりですし」


 店員は、不気味な表情を浮かべそう言った。


「……嘘つけ! どんな理由だよ!」


「知らなかったんですか? ここそういうところですよ」


「知らないよ。最近越してきたんだよ。もう良い! じゃあお前がフェリーに乗って取りに行ってこい!」


 途端に、店員の目が輝いた。


「え……良いんですか!」


「な……何で断らないんだよ……」


「それは、やっとここから出れるからですよ〜!」


「大げさだな! 毎日家と往復してんだろ?」


「いえ……」


 店員の顔が暗くなる。


「嘘言うんじゃないよ……」


「言ったじゃないですか、ここはそういうところだって」


 店員は「ククク……」と小刻みに肩を震わせ笑い出す。


「お前!……あんま、ふざけてると警察呼ぶぞ……」


 店員がパチリと指を弾いた。


 するとレジ奥の戸がバッと開いて、顔を隠した黒子がゾロゾロと出てくる。


 黒子の手には、釘付きのバット、ノコギリ、縄、スタンガン……。物騒な武器がチラついている。


「な……なんだよ! お前ら! 何をする気だ!」


 客は震える声で、黒子たちに訴える。「やっと、代わりが見つかりましたよ……」


 店員は制服を脱ぎながら呟いた。


 店外にまで客の叫び声が聴こえたが、それを聞いた島民は「馬鹿な奴だ」と鼻で笑って、道の先に歩いていった。



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