第18話『ゲームをする佐藤さん 前編』
そして迎えた日曜日。
朝の10時を過ぎた頃、
「二人とも、いらっしゃい」
玄関で彼女たちを出迎えた時、あることに気づく。
「あれ、
今日は彼も来る予定なのだけど……姿が見えない。
先日話をしたところ、ゲームは得意だと言っていたのに。
「んー、なんかね、
雨芽がなんともいえない顔で言う。
部室での様子を見た限り、一誠は深月さん相手(特にお嬢様モードの)だと、緊張してしまうんだろう。
「そ、そうなんだ……それなら仕方ないよね」
一誠はああ見えて、年上の……大人っぽい女性に耐性がないらしい。
……まぁ、ゲーマーモードの深月さんと一度でも話せば、その認識も変わりそうだけど。
「そういえば、その深月さんは一緒じゃないの?」
「少し遅れるって言ってたよ。ピアノのレッスンが長引いてるって」
誰ともなく尋ねると、七海さんがそう教えてくれた。
「日曜日の朝から習い事かぁ……私には絶対無理」
心底嫌そうな顔で、雨芽が言う。気持ちはわからなくもない。
「とりあえず上がってよ。お茶入れるから」
いつまでも立ち話するのも悪いと、二人を部屋へ招き入れる。
先日雨芽と一緒に掃除したおかげで、部屋は片付いていた。
「おじゃましまーす」
その雨芽は乱暴に靴を脱いで上がり込むと、さっさとベッドに腰を落ち着ける。
勝手知ったるなんとやらだけど、いくらなんでも慣れすぎている。
「あ、飲み物は用意してきたから、よかったら飲んで」
そんな妹に遅れて部屋に足を踏み入れた七海さんは、その手にスーパーの袋を持っていた。
中から数本のペットボトル飲料が顔を覗かせている。
「あ、わざわざありがとう」
「あと、お昼ごはんも用意してきたから。よかったら食べて」
その袋を受け取った直後、七海さんは三段重ねになった重箱を差し出してくる。
「え、もしかして作ってきてくれたの?」
「う、うん……おいしくなかったらごめんね」
七海さんは自信なさげだったけど、彼女の腕前は先日のチャーハンで証明されている。不安はまったくなかった。
「おにい、最近幸せすぎですなぁ」
……その時、背後に近づいてきた雨芽が何か言っていた。
「あ、お弁当作ろうって提案したのは私なんで。そこんところヨロシク」
何がどうヨロシクなのかわからないけど、ここは妹に感謝だった。
……それからしばらくして、『佐藤まみれ』のグループに深月さんから連絡がきた。
『(深月) ようやくレッスン終わりました。今から向かいます』
それを確認したあと、俺は彼女に個別メッセージを送る。
『(翔) 深月さん、今日はどっちのモードで来るんです?』
『(深月) んー、ゲームやる日だし、ゲーマーモードかなー』
一応確認してみると、そんなメッセージが返ってきた。
予想はしていたけど……あの深月さんの変わりようを見たら、雨芽と七海さんもきっと驚くはずだ。
『(深月) 二人には、ちゃんと説明しといてねー。びっくりすると思うし』
次にそんなメッセージが飛んできたけど、俺は既読スルーしておく。
ここはあえて、雨芽たちには事前情報を伝えずにいよう。
「大変お待たせしましたー。皆、遅くなってゴメンねぇ」
それから待つことしばし。深月さんが家にやってきた。
「深月さん、いらっしゃい」
「えっ……」
俺が平然と迎え入れる中、雨芽と七海さんは完全に固まっていた。
「いやー、まさかピアノのレッスンがあそこまで長引くとは。先生、気合い入れすぎ。日曜なんだから、もっとまったりやってほしいよ」
深月さんはぶーたれながら、空いていたクッションにどっかりと腰を落ち着けた。
「えっと、深月、先輩……?」
「そうだよー。雨芽ちゃん、遅くなってゴメン」
にへらと笑い、ひらひらと手を振る。そこに、いつものお嬢様らしさは微塵もない。
「えっと……本当に深月さん、なんですよね……? 双子のお姉さんとかじゃなく……?」
「あれ? もしかして疑ってる? はい、これ学生証」
続いて七海さんが困惑顔をしていると、深月さんは自分の学生証を取り出して見せる。
「ほ、本当だ……ずいぶん、雰囲気違いません……?」
学生証に載っているのは、お嬢様然とした深月さんの写真だ。
一方で目の前にいるのは、その髪をサイドポニーにまとめ、表情豊かな少女。写真のそれとは、似ても似つかない。
どっちも予想以上の反応で、俺は内心ニヤニヤが止まらなかった。
「……
そこにきて、深月さんもようやく気づいたらしい。頬を膨らませて、ジト目で俺を見てくる。
……なんだろう。すごくかわいい。
「すみません。妹たちがどんな反応をするのか気になって」
「おにい、知ってたの?」
続いて妹に睨まれるも、俺は改めて深月さんの置かれた状況を説明した。
「……なるほど。そんな事情があったんですね」
「うん。私なりに考えて、掃除部の皆になら話してもいいかなって思ったんだ」
雨芽と七海さんをまっすぐに見つめ、深月さんは言う。
「だから二人とも、ここで見たことはナイショにしておいてくれると嬉しいな」
「も、もちろんです」
「言ったところで、誰も信じないですよ」
七海さんと雨芽は一様に頷く。この二人のことだし、口外はしないだろう。
「ありがとー。それじゃ、さっそくゲームしよう! あ、これお土産」
ぱあっと笑顔の花を咲かせたあと、深月さんは持っていた袋を差し出してくる。
中にはスナック菓子が大量に詰め込まれていた。
◇
その後、四人でゲームを始める。
最初に選んだのは、カラフルなインクをぶちまけて陣地を広げていく陣取りゲームだ。
それぞれがチュートリアルを受けて操作方法を覚えたあと、二人ずつのチームに分かれてゲームが開始される。
「よーし、佐藤兄妹の実力! 見せてくれる!」
隣に座る雨芽が、意気揚々と画面内のキャラクターを操作していた。
ちなみに俺と雨芽、深月さんと七海さんがそれぞれ同じチームだ。
「ななみん先輩、お覚悟!」
「えっ……わあっ!?」
試合が始まってすぐ、妹はインクの海に潜みながら、ものすごい速さで七海さんのキャラに近づく。
そして背後からインク攻撃を叩き込み、速攻で倒してしまった。
「おにい、今のうちに陣地広げて!」
「わ、わかった」
俺は妹の指示を受けて、ちまちまとインクを撒いていく。
……実は雨芽、先日このゲームをかなりやり込んでいた。
つまり、完全初心者の七海さんたちに対して、俺たちのチームは圧倒的有利な状況にある。
俺も妹に付き合って一緒にプレイしたので、それなりに操作に慣れてはいるが……完全初心者の七海さんたち相手に本気を出すなんて、俺にはできない。絶妙に手を抜いていた。
「今度は遠距離から! てりゃー!」
「なるほどぉ。あんな戦術もあるのかぁ。ふむふむ」
妹のプレイを見ながら、深月さんが何度も頷いていた。
「ななみん、次やる時は、こんな感じに……」
「あ、それいいですね」
その直後、何やらメモを手に七海さんと相談していた。
二人は学年トップクラスの秀才だし、すごい早さで戦術を学習している気がする。
……なんだか嫌な予感がする。
「雨芽ちゃん、スキあり! えい!」
「ぎゃーー! ななみん先輩、いつの間にーー!?」
……その予感は的中し、一時間も経つ頃には俺たち兄妹は二人に圧倒されていた。
「おにい、後は任せた……って、おにいもやられてるーー!?」
「すまん……深月さんと真っ向勝負して負けた」
「やったー! また勝ったーー! いえーいっ!」
見事に三連勝を達成した深月さんは、七海さんとハイタッチを交わしていた。
「むむ……深月先輩、次は私とチーム組みましょう!」
「いいよー。翔クンをボコボコにしよう!」
……なんか俺の討伐作戦が立案されていた。
俺は苦笑したあと、部屋の中を見渡す。
二週間ほど前まで、俺は一人で黙々とゲームをしていたはずなのに。
それが今や、女子三人と一緒にパーティーゲームに興じている。
今の関係があるのは、佐藤の呪いのおかげだ。それはわかっている。
いまだ違和感が拭えないことも多いけど、こうやって一緒にゲームができる友達ができたことは、素直に嬉しかった。
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