第15話 纏着ッ!!
「――風よ、刃となれ! 〈ウィンドカッター〉!」
カレンが魔法を放った。青白い風の刃が、周囲のE級を次々と切り裂いていく。E級が爆発し、金属片が飛び散った。
「さすがですね、カレン様!」
シルビアが剣を振るう。V級の胴体に剣が突き刺さり、真っ二つになった。V級までならシルビアの剣が通用する。
鎧がカチャカチャと音を立てながら、次の敵に向かっていく。
だがR級ルーラーには効かない。カレンの魔法もシルビアの剣も、R級の装甲に弾かれる。硬すぎる。
俺のレーザーブレードでも、傷をつけるのがやっとだ。
「このままじゃ勝てない……!」
俺は歯を食いしばった。周囲にはE級とV級が次々と増援に現れる。きりがない。
R級ルーラーがゆっくりとこちらに歩いてくる。
ドシン、ドシン、ドシン。
圧倒的な存在感。三つの赤い目がこちらを見下ろしている。
その時だった。
R級ルーラーが剣を振り上げた。狙いは、カレン。
「カレン様、危ない!」
シルビアが叫んだ。だが間に合わない。ルーラーの剣が振り下ろされる。カレンが魔法の詠唱中で動けない。
「カレン!」
俺は駆け出した。カレンの前に滑り込む。レーザーブレードを横に構えた。
ガギィィィンッ!!
R級の剣とレーザーブレードがぶつかり合う。衝撃で足が地面にめり込んだ。重い。腕が軋む。
「くっ……!」
押される。ルーラーの剣が、じわじわと俺を押し込んでくる。レーザーブレードが軋んだ音を立てる。膝が折れそうだ。このままじゃ、潰される。
「ヒロシさん!」
カレンが叫んだ。
その時、アンテナからZの声が響いた。
『マスター! 纏着を!』
「纏着……?」
『コンバットスーツです! マスターの身体能力を飛躍的に向上させます!』
「やってくれ、Z!」
『了解! コンバットスーツ、転送準備!』
俺は深く息を吸った。そして叫んだ。
「纏着ッ!!」
『了解! コンバットスーツ、転送シマス!』
なぜか急に機械音声になったZに疑問を感じたが――次の瞬間、青い光が俺を包み込んだ。
0.05秒。
人間の瞬きよりも速い。周囲にいるカレンとシルビアには、俺が光に包まれたようにしか見えなかっただろう。
だが、その0.05秒の間に、Zの車載コンピュータから特殊粒子が転送された。
粒子が俺の周囲で装甲を形成する。
足元から順番に。ブーツ。キィィンッ! レッグアーマー。ガシャンッ! ボディアーマー。カチャカチャッ! アームガード。シュゥゥンッ! ショルダーアーマー。ガキンッ! そして、ヘルメット。カシャァァンッ!
視界にHUDが展開される。
0.05秒が経過。青い光が弾けた。
全身が黒のメタル調のコンバットスーツに包まれている。胸部と肩に青いラインが走り、ヘルメットのバイザーが青白く光っていた。
「これが……コンバットスーツ……!」
身体が軽い。力が溢れてくる。レーザーブレードを握る手に、圧倒的な力が宿った。
その時、どこからか聞いたことがあるような、勇壮なBGMが流れ始めた。
ジャジャジャーン!
「……音楽?」
カレンが不思議そうに呟いた。
「どこから聞こえてくるんだ……?」
シルビアも首を傾げている。
どこから……?
アンテナだ! またZが音楽を流している。
『変身シーンには音楽が必要です、マスター』
今度は機械音声じゃない、普通のZの声だった。
(今、そういう場合じゃないだろ……!)
「くっ……押し返すぞ!」
俺はレーザーブレードを押し上げた。ルーラーの剣が、きしんだ音を立てる。
グググググッ!
押し返す。力が違う。コンバットスーツの出力が、俺の筋力を何倍にも増幅している。
「うおおおお!」
俺は全力で押した。剣が跳ね上げられ、ルーラーが怯む。
バランスを崩した。
今だ。俺はカレンを抱えて横に転がった。ルーラーの剣が、さっきまで俺たちがいた場所の地面を叩き割る。
「大丈夫か、カレン!」
俺はカレンを見た。緑の瞳が驚きで大きく見開かれている。金色の髪が乱れている。呼吸が荒い。
豊かな胸が、激しく上下揺れていた。俺の腕に感じる柔らかい感触。
俺は、思わず見てしまった。じっと。数秒間。
「ヒ、ヒロシさん……」
カレンの声で、我に返った。
「あ、ああ! すまん!」
俺は慌ててカレンを離した。顔が熱い。まずい、見すぎた。
「ヒロシ! カレン様をたのんだぞ!」
シルビアが叫んだ。ルーラーが再び剣を振り上げている。
「分かった!」
俺は立ち上がった。レーザーブレードを構える。カレンを背中に庇った。
◇
ルーラーが剣を振り下ろし、俺はレーザーブレードで受け止める。
今度は違う。衝撃を受け流せる力がある。
「行くぞ!」
俺はレーザーブレードを振るった。青白い刃がルーラーの装甲を斬りつける。
火花が散り傷が入った。
効いている。コンバットスーツの出力増幅で、レーザーブレードの威力も上がっている。
ルーラーが両腕を振り回した。
俺は跳んで回避する。コンバットスーツの出力でビルの二階ほどの高さまで跳躍できた。
空中で一回転。着地と同時にルーラーの足元に斬りかかる。
ザシュッ!
関節部に刃が食い込んだ。ルーラーが片膝をつく。
「カレン様、今です!」
シルビアが叫んだ。
「風よ、刃となれ! 〈ウィンドカッター〉!」
カレンの魔法が、ルーラーの装甲の隙間に吸い込まれていく。内部で爆発が起きルーラーが怯む。
「シルビア!」
俺は叫んだ。
「任せろ!」
シルビアが剣を振るい、ルーラーの腕が切断された。
剣とシールドが地面に転がる。
「トドメだ!」
俺はレーザーブレードを振り上げ全力で振り下ろした。
シュゥゥゥゥゥンッ!!
青白い光の軌跡が、ルーラーの胴体を真っ二つに斬り裂いた。
ドゴォォォンッ!!
大爆発しルーラーが炎に包まれて崩れ落ちた。
◇
俺はヘルメットを外した。コンバットスーツが青い光に包まれ、粒子となって消えていく。元の姿に戻った。
「はぁ……はぁ……勝ったぞ……」
俺は膝に手をついた。全身から力が抜ける。コンバットスーツは身体能力を増幅するが、その分、使用後の疲労も大きい。疲労感が押し寄せてきた。
「ヒロシさん! 大丈夫ですか!?」
カレンが駆け寄ってきた。
「ああ……何とか……」
俺は笑った。シルビアも剣を鞘に収めて近づいてくる。
「見事だったぞ、ヒロシ」
「あのスーツ、すごかったですぅ!」
『お疲れ様です、マスター』
アンテナからコルトとZの声が響いた。
◇
俺たちは施設の中を確認した。人々は無事だった。サウナ、温泉、休憩所。食堂まである。マシンデウスが作った避難民の保護施設だったのだ。
「ここ、快適なんですよね」
村人の一人が言った。中年の男性で、満足そうな笑顔を浮かべている。
「食事も三食出るし、温泉も入り放題」
「夜はちゃんと布団で寝られるんです」
「村に戻るより、ここに残ります」
「外に出ようとしなければ襲ってこないしな!」
他の村人たちも口々に頷いている。サウナ上がりでリラックスした表情。温泉に浸かって気持ちよさそうな人々。食堂で談笑する家族連れ。
カレンは複雑な表情をしていた。
「そ、そう……ですか……」
声が震えている。エルフの耳が小刻みに震えていた。
「カレン様……」
シルビアがカレンの肩に手を置いた。
「村の人たちは……連れ去られたんじゃなくて……保護されてた……?」
カレンが呟いた。緑の瞳が困惑で揺れている。
「マシンデウスは……敵じゃないんですか……?」
俺は答えられなかった。確かに、マシンデウスは俺たちを攻撃してきた。だが、この施設を見る限り、人々を害する意図は感じられない。むしろ、快適に過ごせるように配慮している。
「分からない……」
俺は正直に答えた。
「でも、少なくともここの人たちは無事だ。それは確かだ」
「でも……私の村は……焼かれて……」
カレンの声が小さくなった。拳を握り締めている。
「なぜ、私の村は襲われて……この人たちは保護されて……」
答えは出ない。マシンデウスの真意。それが見えてこない。
シルビアが静かに言った。
「マシンデウスの行動には、何か基準があるのかもしれません」
「基準……?」
「はい。どこかを襲い、どこかを保護する。その判断基準が……」
俺は施設を見回した。綺麗に整備された建物。規則正しく配置されたコンテナ。まるで計画的に作られたような施設。
「この施設、最近作られたものじゃないな……」
コルトがゴーグルを下ろして壁を調べている。
「建築から少なくとも半年は経ってるですぅ」
「半年……」
つまり、マシンデウスは計画的にこの施設を作り、人々を集めていた。ただの襲撃ではない。何か、目的がある。
「一体、何が目的なんだ……」
俺は呟いた。カレンが俺を見た。不安そうな表情。
「ヒロシさん……」
「大丈夫だ。必ず、真相を突き止める」
俺はカレンの頭にそっと手を置いた。
「お前の村のことも……必ず」
カレンが小さく頷いた。だが、その瞳にはまだ戸惑いが残っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます