カス探偵・粕谷のハツラツ
伊藤テル
【01 粕谷という女性】
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・【01 粕谷という女性】
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「若者はけしからん!」
という老害の声に体がビクついてしまいつつも、私はまだ若者の範疇か? と自問自答。
まあ別に私に言ったわけじゃないことは分かっているんだけどもな。
世の中はカスで溢れている。
無論私もカスの一味として日々を謳歌して、SNSでは批評の範囲で悪口を書かせて頂いておるわけだが、おるわけだけども、こうやってオフラインで行動に起こしちゃダメだろとは思っている。
商店街のいたるところにチーズハットグの食べかけが散乱していて、若干チーズクサい。チーズはカスの口臭と混ざり合って、複合臭になり、我々の鼻孔を突くわけだけども、それがまあ本当に不愉快で。
鼻孔を竹刀で突いてくるなよ、大学生以上の試合でしか突きは有効じゃないんだぞ、いやさすがに私は大学生以上だけども。二十四歳だけども。
でも仕事を一切していない、フリーターの二十四歳だからな! と、胸張って生きている。こうやって日中でも当然ヅラして商店街を練り歩いている。
まっ、一応この商店街のフリーアイドルって感じぃ? 私めっちゃ可愛いし。商店街のマスコット的存在というか。あと揉め事めっちゃ解決するし。
この商店街はまあ割と活気があるほうだと思う。あんまシャッターは無い。多分みんな偏屈だからだ。大型ショッピングモールなんてクソ喰らえというような、もはやあんま良くないと思われる侍魂がある。
そのせいで魚屋も八百屋も全然潰れていないし、元気にデカい声出して、活気ヅラしている。耳が壊れそうだよ、全く、帰れ帰れ。
私の近くに立っていたおばさんがこっちを向きながら、こう言った。
「粕谷ちゃん、また解決してくれないかな?」
また解決、そう、私はこういう揉め事というかコージーミステリーを解決してきた実績があるのだ。
とは言え、こんなチーズハットグを投げ捨てるなんて、若者を全員背負い投げしていくしかなくね?
元は美しい食べ物だったチーズハットグ、ぁ、ぅそ、ゴメン、そもそもチーズハットグのこと美しいと思ったことねぇわ。
こちとら老害女子なので、全然韓流好きじゃないんだわ、普通にピアノゾンビのほうが好き。
何あのデカいだけの食べ物、チーズ出てきて何なんだよ、チーズ出てきたからって何なんだよ、そんなチーズが偉いのかよ、偉人のチーズハウスかよ。
そんなことを思っていると、落ちているチーズハットグに今まさにツンツンしそうな勢いで顔を近付けるヤツがいた。
女子中学生がホットパンツでしゃがむんじゃないよ、面白いほどに脚が細いな、ほねっこ噛め、ほねっこ。
その女子中学生がこちらを見ながら、
「粕谷姉さん! 事件です!」
とおばさんの焼き回しみたいなことを言った。というかおばさんの台詞聞こえていただろ。あえて粒立てて「事件です」じゃぁないんだよ。
というか渚は立ち上がりながら、
「粕谷姉さん、チーズハットグ事件の犯人は誰ですかね?」
「いやまあ捨ててるのは普通に若者だろ」
「検挙できますかね!」
「できないだろ、有象無象のカスなんだから。一人一人全員違うヤツが捨ててるんだよ」
すると渚は目を見開きながら、
「えっ! こういう事件って全員同じ人が犯人なんじゃないんですか!」
と声を荒らげた。
私は冷静というか、いつも通りの感じで、
「こういうのは犯人全員違うもんだろ、チーズハットグなんて映え目的でしか買わないんだから、一回買ったら終わりだよ。二度と食すことはないわ」
「そんな……美味しくないんですか?」
「最初の一口だけ雰囲気と相まってイケてるかも? と思う程度のヤツだよ、全然ヤマザキパンの蒸しパンのほうが美味しい」
「マーラカオ、最高ですもんね」
と頷いた渚に私は一気にマーラカオの口になってしまった。
マーラカオのあの、妙にオイリーなところ何なんだ、旨過ぎるだろ。甘さも全然控える気無くてさ、今日絶対マーラカオ買って食おうっと。
いやマーラカオ旨過ぎ事件はどうでも良くて。そんなことを考えていた私におばさんのほうが、
「なんとかならないかねぇ」
と頬に手を当てて言ってきて、さすがにムーヴがおばさん過ぎると思った。
そんなおばさん然としなくていいだろ、おばさんが身に染み過ぎて二度とお姉さんには戻れなくなった怪物を見ているようだった。
私はそのおばさんからは軽く背を向けて、渚とだけ会話しているような身の傾き方をしながら、
「まあこういうのは現行犯でしかどうにか言えないし、現行犯で話し掛けるほど元気じゃないし、この事件は保留だ」
「はい!」
と渚はキノピオ隊長ばりのデカい声で返事した。それか、野球部の一年生か、でも私は部活とは無縁だったので、やっぱりキノピオ隊長だと思ってしまう。
あのニンテンドーがやっていた宣伝番組、私好きだったな、キノピオ隊長のデカいだけの返事とリンクの「でぇやぁ!」という相槌、毎回笑ってたわ。
いやそんな自分から染み出したことばかりで終始する、脳内マーラカオ現象はどうでも良くて。いらん脳内反芻だった。
そんなことを思いながら、私はまた適当に商店街をぶらりとしていると、普通に渚がついてくるので、
「もう何も無いぞ」
と言っておくと、渚が少し頬を赤らめながら、
「すみませんっ、つい粕谷姉さんと一緒にいたくてっ、迷惑ですよねっ」
と言い出して、めっちゃ可愛くて、というか何でこんな中学生が私に懐いているんだよ、頭の頂点だけ何か一本結んでいるセミロングの髪型は本当にバカみたいだが、それが可愛いと言えば可愛いし、中学生とは思えない、小五フェイスで、いやまあ中一だから、ほぼ小五だからそうでも合ってるんだろうけども。んでもってとにかく華奢、メシ食ってんのか、そうだ、
「じゃあまあ今日は土曜日で暇だろ? 一緒にマーラカオ買って食おうぜ」
「えっ! おごりですか! 有難うございます!」
「中一にたからないだろ、あれ一人で食うとカロリーすごいから二人で新鮮なうちに食ってしまおうぜ」
「はい! ピチピチのマーラカオ頂きます!」
鮮魚みたいに言うな、と思いつつ、私と渚の足はコンビニのほうへ向くと、何か縁石の近くにいるガラの悪い若者が絶望溜息をついていて、ウザかった。
かなりデカい声で「何かケツがベタベタしてんな」とか言っていて、そいつの周りをつい見てしまうと、近くに和菓子屋があって、じゃあ和菓子が爆発して縁石に欠片が乗ったところで、オマエがそこに座ったんだろ、とか思った。
すると渚が小声で、
「誰かチーズハットグを縁石に置いたんですかね?」
と言ったので、あぁ渚も同じようなこと考えたんだな、今のウザい声聞いて、と思いながら、
「チーズハットグが置いてあったら、さすがにそこに座らないだろ。爆発したチーズハットグの欠片ならありえるけどな」
「えっ! チーズハットグって爆発するんですか!」
「万物なんでも爆発するぞ」
「えー! アタシも爆発しないようにしなきゃ!」
と困惑した表情をした渚。可愛過ぎる。バカはやっぱり可愛い。さすがに本人には言わないけども。
二人でコンビニで一番新鮮なマーラカオを選び、すぐに食べるのに手前取りせずしっかり奥のマーラカオを選び、二人で一個ずつ外で立って食べ始めた。
すると渚が、
「縁石に座りますか?」
「そういうのはカスのすることだから、道端に座ったらカス、立っていたらビジネスマンだ」
「なるほど! 勉強になります!」
本当かよ、と思いつつも、渚の言葉には裏表が無いことは知っているので、気分が良い。
やっぱりバカに適当なことを教えて感心されるヤツ、めっちゃ楽しー。
そう、私は全然立っていてもカスなのだ。
その後、私は渚の家へ行って、スイッチ2のマリオカートワールドを渚の部屋でやった。
渚の両親は完全に私に慣れているので、二十四歳のフリーターが家の中に入ってきても「いつも遊んでくれてありがとね」みたいな感じで、追い出されることは無い。
私が同じ立場なら全然追い出すけどな、と思っているけども、それが渚の性格を形成しているんだなとも思える。
渚の部屋はTHE無機質って感じで、ニンテンドースイッチ2があるだけで、あとはもう本当に何も無い。女子の部屋でも男子の部屋でもない。
カーテンも水色と白のチェック柄でただただ爽やかなだけだ。置き物も無いし、枕元に少しデカめのゆるキャラのぬいぐるみがあるだけだ。
話によると、ゆゆっちゃんというぬいぐるみらしい。福島県へ行った時に一目惚れしたとか言っていた。手足細細の女の子の妖精だ。
んでもって、枕元というか、枕も白くて清潔感があるだけだし、マジでどっちの性別でもない感じがする。そこが私の気に入っているところ。私の部屋に近いから。
そんな渚と遊ぶマリオカートワールドはもう何回やっても飽きない、というか走るところもめっちゃ多いし、二人でネットの海に入り込んでもいいし。
いつの間にやら夕方になったので、私は渚とはバイバイして、また商店街へ戻っていった。
渚の家はほんの少しだけ商店街から離れた場所にあるので、商店街とは近いくせに静かでめっちゃ良い、商店街って基本うるさいから。
私は商店街の真ん中に住んでいる。下はうちの商店街唯一くらいのシャッターで、その二階に住んでいる。
若夫婦が両親のために、IHにしたらしいんだけども、その両親はすぐに施設に入ることになって、空いていた家に私が引っ越す形で住むことになった。
めっちゃ綺麗にリノベしていて、私は嬉しいし、向こうも私のこと高校生から知っているので、安心って言ってくれて、破格の値段で、ほぼタダで住んでいる。
私がフリーターでもその若夫婦は全然驚かないし、むしろ「好きに生きなよ、粕谷ちゃんだもん」と言ってくれて、マジ感謝している。
私は午後七時近くまで、商店街の中をうろうろすることが日課だ。上にはアーケードがあるので、雨の日でも安心してぶらつける。たまに雨漏りはしているけども。七時近くまでぶらつく理由は一つ、もう捨てるしかない、廃棄食品をみんな私にくれるからだ。
基本的に私はこれで生き延びている、あとはまあ平日に軽く商店街内のバイトをすることもあるが、まあ衣食住あれば人間って生きていけるから。
老後のためにため込むなんてクソ喰らえ、そんなんは政府の仕事だろ、私は政府を舐めない、絶対政府がちゃんとしてくれるはずだから。
そんな気持ちでお肉屋の前を歩けば、
「粕谷ちゃん! 今日はこのコロッケ食べて! 一昨日揚げたヤツ!」
「OK、OK」
と私は若干偉そうに返事してしまったな、と思いつつも、コロッケの入ったやっすいビニール袋を受け取った。
一昨日揚げたヤツは残り過ぎだろと思いつつも、食えるんだから食うに決まっている。
「粕谷ちゃん! このしなびた大根どうっ?」
「めっちゃもらいます」
私は普通に自炊はできるので、素材も全然有難い。
でも今日はもらえる食べ物が少なくて、まだ無いか、まだ無いかと商店街内を粘って歩いていると、キッチンカーを見つけて、こういうのってどうかな? と思っていると、なんとチーズハットグのキッチンカーで内心「げっ」と思ってしまった。ぁ、ゴメン、口に出していたわ。
「げぇっ」
しかもちょっとゲップっぽく口から漏れ出ていたわ。
そんな私を怪訝そうに見てくるキッチンカーの男性。どうやら商店街慣れしていないらしく、私が何だか分かっていないようだ。はーぁ、こういうヤツは面倒だなぁ。
商店街のフリーアイドル・粕谷未優ちゃんだぞ、何かくれよ、とは言わないけども、一応近くをうろうろしてみたんだけども、普通にキッチンカーの片付けをするだけで、コイツ使えねぇって感じ。
結局ソイツは私が目の前にいるのにも関わらず、キッチンカーの蓋という蓋を全部閉めて、塩対応過ぎると思ってしまった。
まあチーズハットグなんて食いたくないし、と思いながら、私は家路に着くことにした。
うちの商店街は午後七時くらいになると、居酒屋以外は店が閉まるわけだけども、街灯は割とあるほうで、夜道が暗いってことは無い。まあ夜でも明るいというわけで、寝る時は厚手のカーテン必須だけども。
うちは二つある公園からはどちらとも遠いからいいけども、あっちの、広いほうの、通称・オトナ公園は若者のたまり場になっていて、何か結構苦情騒動らしい。
相対的に近くにある遊具が多くて狭い、子供公園はそんなこと無いらしいけども。
まあ公園の反芻なんてどうでも良くて。自分の家に戻ってきて、さて、今日はもう揚げられた記憶を喪失している、しなしなのコロッケと、しなび過ぎて仲間内から陰口を叩かれているような大根か。
じゃあそのしなしなをそのままに、コロッケはレンチンしておいて、大根おろしでも軽く作って、コロッケに大根おろしをかけてめんつゆで食べるヤツするか。
残りの大根は軽くスライスして、焼いて醤油で食ってもまいうーだし、明日のために、大根を煮ておくかな。
そんな感じで食を堪能して、今日という日は終わった。
「日曜日!」
と脳内で叫んだ声で起きてしまった。私、アホ過ぎるかもしれない。
カーテンを開けると、もう日差しが入ってきていた。午前八時ってとこかな。アナログ時計も見たし、間違いない。
四月は生活しやすいな、と思いつつ、今日も適当に商店街を歩くかと思って、軽く昨日煮た大根を温めながら、日焼け止めだけは念入りに塗っておく。
IHは焦げ付き防止機能がついているので、ちょっとくらい放置していても大丈夫、むしろIHは焦げ付き防止機能の反応が良過ぎるので、全然まだ大丈夫でも勝手に止まっていることがよくある。
まあそこも愛してるぜ、って感じだ。慎重なヤツは嫌いじゃない。勿論大胆なバカも見ていて飽きないけども。つまり人間全員愛している。私は博愛主義者なのだ。特に食べ物くれる人間最高。くれないキッチンカーのカスは原因不明の腹痛でたまの休日だけ無駄にしろ。
顔や首は厚めに、腕はそれなりに日焼け止めを塗ったところで、手にも既に塗ってしまい、どうせこの後、メシ(大根)食って、食器を洗う際にまた流してしまうことに気付き、じゃあもう仕方ないわ、と思って、菜箸で直接鍋の大根をとって、そのまま食器ナシで食うことにした。
大根をめんつゆと醤油とみりんで煮ただけだから、菜箸も蛇口の水を当てるだけで綺麗になるだろ。油が入っていなければ、別にって感じだ。
つゆを垂らしても大丈夫のように、鍋の上で食べて、まあ何かちょっと自分のヨダレが垂れたかもしんないけども、私しか食べないし、また煮沸してから夜食べるし。一人暮らしなんてこんなもんだろという気概で、腹を満たしたところで、私は外に出掛けた。
階段をおりて、玄関の他にも、もう一枚ある商店街に出るためのドアを開けると、なんとそこには渚が立っていて、開口一番こう言った。
「おはようございます! 粕谷姉さん! チーズハットグについて! お金が出るらしいです!」
おっ、チーズハットグのキッチンカーが爆発して、金品を飛び散らかせたのか? と思ったけども、どうやら違うらしい。
「チーズハットグを捨てる人がいなくなる施策ができたら、商店街の方々がお金くれるらしいです!」
あー、美観の話ね、この商店街の組合連中、ジジイやババアばっかのくせに、綺麗にしていたいって思うんだよな、別にどうでもいいと思うけども。
まあ老害こそ綺麗にしたいとか言い出すしなぁ、まっ、お金もらえるなら何らかの施策を考えてやるかぁ。お金って聞くと腕が鳴るぜ。
ところで、
「渚はいつからいたんだ?」
「いや適当に粕谷姉さんの家の前に立ったり、正面の本屋で立ち読みしたりしていたので、暇じゃなかったです! あっ! 質問ですね! 一時間前です!」
「別に渚は可愛いから連絡してもいいんだぞ」
「でも粕谷姉さんはスマホへの連絡あんま好きじゃないじゃないですか!」
「渚は良いって言ってんだよ」
すると渚は照れ笑いを浮かべながら、
「アタシばっかり特別視されちゃダメですよ!」
と言って、別に全然良いだろ、仲良いヤツは特別視するだろ、と思った。
渚はちょっとズレているんだよなぁ、そこが可愛いんだけども。
渚は柏手一発叩いてから、
「で! チーズハットグを捨てさせない施策! やっぱり若者は全駆逐ですかね! そういう韓流好きの駆逐ですか!」
「そんな戦争の第一歩みたいなことはやらないよ、私はまあ一個とりま作戦あるからさ。でも多分午前十時くらいにならないと無理っぽいから、とりま渚の家でマリオカートワールドしようぜ」
「時間制限のある施策! たまらないですね!」
「まあな」
正直全然意味の分からない相槌だったが、そこを深掘りしても何もならないことは今までのやり取りで分かっているので、ここはオトナのたっぷりさを見せつけるだけにした。
そのまま渚の家へ行って、マリオカートワールドやって、サバイバルでめっちゃ一喜一憂して、私と渚のワンツーフィニッシュして、激アツだった。
午前十時になったところで、そのタイミングで渚の母親がオレンジジュースを出してくれたので、それはしっかり飲んでから、外に出た。渚の家のオレンジジュース旨っ、水で薄めないジュースってアリなのかよ、ファミレスのドリンクバーってよく見ると同時に水出てるけども、やっぱ家庭って違うんだな。
渚が私へ、
「で、どこに行くんですか?」
「キッチンカーに行くんだよ」
「爆発させるってことですね!」
「要はなっ」
と私が答えると、渚はビックリした顔をしながら、
「火薬! 火薬屋さんって商店街にありましたか!」
「いやそんなマジのソレじゃないから、爆発は嘘、マンキンの嘘」
と私は首を横に振った。渚は私のどうでもいい一言もハイテンションのリアクションをしてくれるから、マジで楽しい。
渚は頬を膨らませながら、
「もう! 本当に爆発させると思ったのに!」
「そんなはずないだろ、というか逆、爆発一切させないくらいだよ」
「そんな! 真逆のことを言うなんて! 粕谷姉さん、変幻自在過ぎます!」
よく分からんがとにかく褒めてくれるので私の胸は躍るってもんだ。
こんな妹いたら良かったのに、否、舎弟みたいなもんで一番有難い。
家違うと、遊びに行けるし、養う必要も無いし、姉の威厳見せなくてもいいし、気軽に接すことができて最高だ。この関係は至福。
さて、キッチンカーが間借りしている駐車場に着くと、買ったのだろう若者がチーズハットグを持って写真を撮っていた。
そうだよな、チーズハットグって食べるモノじゃなくて、写真を撮るためだけのモノなんだよな、だから、
「おい、キッチンカー、最近商店街にチーズハットグ捨てる若者が多いからさ、もっと小さいサイズのヤツ作って売れよ」
キッチンカーの兄ちゃん(というか半ジジイ)は、ニヤニヤしながら、
「いやいや、デカくないと映えないからさ、このサイズしか作れないんだよね」
とこっちのことを舐めているみたいな態度をとってきたので、私も負けじとニヤニヤしながら、
「捨てられる前提で作っているということか? 食べ物を」
「結果的に捨てるヤツがいるだけだから、こっちは作るだけだよ」
「いや捨てられるような食べ物作るほうがダメだろ」
とニヤニヤ大戦をしていると、遠くから若者の叫び声が聞こえてきた。
「何かベタベタだぞ! ここ!」
渚がその声に反応して、そっちの声がしたほうを軽く見に行ってから、すぐに戻ってきて、
「縁石に座っていました! 縁石がベタベタだったみたいです!」
と報告してきた。
私はさらに言葉を付け足す。
「おい、チーズハットグがベタベタで汚いせいで、縁石が汚れているぞ」
「それは知らないなぁ」
「景観も汚すし、縁石も汚すし、最悪だな、チーズハットグは」
「でもそれは捨てるヤツのせいだろ? それも少数の」
「少数ではないわ」
「いやいやだって見たことないからなぁ」
そう不遜に鼻の穴を膨らますキッチンカーの半ジジイ。
私は少し声をダミらせながら、
「そりゃキッチンカーの目の前で捨てるヤツはいねぇだろうがぁ」
「そう言われてもなぁ、こっちは好きにやってるだけだからさ」
こりゃ埒があかねぇな、と思って、私は渚の肩を軽く触れて、その場を去ることにした。
渚は少し苛立っているような声で、
「何ですかあのジジイ! ジジイが韓流の食べ物なんて売るんですね!」
「いやジジイであることはこの際別にいいんだが、何か態度が気に食わないな。よしっ、別の作戦に映るぞ、渚」
「さすが粕谷姉さん! まだまだやることはあるんですね!」
「当然だ」
私は商店街の組合連中からデカいゴミ袋と長いトングをもらってきた。
渚はそれを見て、
「それでキッチンカーのジジイを襲って、上からゴミ袋をかぶせて、ボコボコにするんですね!」
「だとしたら黒い、透明じゃないゴミ袋を使うだろ。こういう半透明というか透明な袋は普通にゴミを拾うんだよ」
「もしかすると! 捨てられたチーズハットグを見つけ次第、拾うということですか!」
「大正解だ。渚、ここから二手に分かれて、捨てられたチーズハットグ全部拾うぞ。拾い終えたらまたそのチーズハットグが入ったゴミ袋持って集合な。スマホで連絡していいから」
「すごい! 人海美化作戦ですね!」
と渚が手を叩いて喜んだところで、その渚の手にもゴミ袋と長いトングを持たせた。
渚はピシッと立ってから、
「では! 渚隊員はチーズハットグを拾ってきます!」
と敬礼しそうな勢いで(実際は手が埋まっていてできない)言うと、ダッシュしていなくなった。別にダッシュはしなくていいけども。
さて、私もやるだけやるかと思いつつも、即座に薬局に入って、涼むことにした。四月も昼間になってくると、熱くなってくるもんで。本屋はクーラー掛かってないけども、薬局は掛かってるもんだから。
まっ、まず軽く涼んでからでいいだろ、どうせ渚が張り切って、いっぱい拾ってくるだろうし。
うちの商店街は美観美観うるさいくせに、ゴミ拾いを積極的にするわけじゃないので、きっと昨日の分も落ちているだろ。
昨日は土曜日で今日は日曜日、カスな若者がわらわらと出現しているだろうから、きっと大量に落ちていると思う。
とりま、ちょっとくらいは拾っていないとおかしいので、私も動き出すことにした一時間後。
よくよく考えたら、先に動いてから、どんどん熱くなる午後二時にクーラーで涼んで……いやそうだ、そういうことだった、やっぱ先に休まないとさすがに迷惑だろうな、迷惑だって話なんだから。
落ちていないか見渡しながら歩いている時に、ふと縁石を見ると、まるで雨上がりのように光っているような雫を感じた。昨日も今日も雨なんて降っていなかったのに。
なるほど、まあそういうことかもな、と思いつつ、歩いていると、縁石に座ってチーズハットグを食べている若者がいて、確かにこういう縁石に座る若者を嫌がる老害ムーヴもあるもんな、と思った。
まあ私が近くに立っていたら、多分捨てないので、一旦その場を離れることにした。商店街の裏道に入って、日陰を満喫していると、またしても若者の声で、
「何かベタベタしてる!」
という声が聞こえてきた。ということはそういうことだろな、と思いつつ、その場に行くと、チーズハットグが捨てられていて、若者の後ろ姿だけ私からは見えていた。
その若者のお尻が何か光っているような感じで、なんというか、まあ思った通り、チーズハットグのチーズやトマトソースの色というわけではなかった。
まっ、チーズハットグを拾って、ゴミ袋に入れて、適当にふらふら歩くわけだけども、まあチーズハットグは至るところに落ちていて。
やっぱりあのキッチンカーの衛星上に捨てられているというか、衛生上最悪といった感じだ。
場合によっては虫がたかっている時もあるし、猫が食っている時もあって、マジで邪魔くさいし、単純にクサいし。
渚からスマホの連絡があったので、最初の場所で落ち合うと、渚はデカいゴミ袋パンパンにチーズハットグを持っていて、何かヘトヘトって感じの顔だった。
それは重いモノを持っているからというよりも、クサいモノと落ちている環境により精神がやられたって感じだった。
中学生にはちょっと酷だったなと反省しつつも、
「じゃあ渚、キッチンカーへ行くぞ」
と声を掛けると、
「分かりました! キッチンカーのジジイに全部食べさせるんですね!」
と言い出して、それもアリだなとは思った。いやさすがに無理だけども。
キッチンカーの前に着いたところで、私はそのゴミ袋をそのキッチンカーの前に置いて、アスファルトにそのままお尻をついて座った。
渚も座ろうとしたけども、それは制止して、ゴミ袋だけ私の近くに置くように指示をした。
するとキッチンカーの半ジジイが明らかに不快そうな顔をしながら、
「ちょっと、何だよそれ」
と言ってきたので、
「これが捨てられていたチーズハットグ。拾って美化活動だよ」
キッチンカーの半ジジイは戸惑っているのか、どもりながら、
「そ、それは、分かったけども、そんなところに置くな、置くなよ」
「いやアンタも言ってたじゃん。そう言われてもなぁ、こっちは好きにやってるだけだからさ、ってな」
と言いながらゴミ袋をキッチンカーに向けながら、少し開けて、匂いが向こうへ行くように手で仰ぐと、苦虫を噛み潰したような顔をしたキッチンカーの半ジジイ。
勿論本当に匂いが飛んだわけじゃないだろうけども、こうもしっかり目視してしまうと、ゲンナリするみたいことだと思う。
私はもう一度言うことにした。
「なぁ、小さいサイズ作れよ。こんなに捨てられてんだぞ、というか毎日これやるからな。私一人でも」
まあ目の前で捨てられたチーズハットグの袋を広げられていたら誰も買うヤツがいなくなるだろうな。
その後、案の定キッチンカーの半ジジイは観念したみたいで、小さいチーズハットグを作るようになり、捨てられることはほとんど無くなった。
とは言え、縁石に座って食うカスの若者は減らないし、相も変わらず「何かベタベタすんじゃん!」とか言うヤツは減らないし。
まっ、私としてはそのままでもいいんだけども、だからってそこまで毛嫌いし続けるのも何かな、と思って一応言ってやることにした。
私は平日の昼、人が少なくなる時間帯にこの店の中へ入っていって、言うことにした。
「おい、ばあさん、アンタ、縁石に砂糖水垂らしてるだろ」
和菓子屋のばあさんは体をビクつかせてから、俯いた。
「縁石に雫のようなモノが光っているのを見てな、あれは多分砂糖水だろ。余った砂糖で砂糖水作って近くの縁石に垂らして歩いているだろ」
ばあさんは声を震わせて、
「ああいったところに座る若者が好きじゃなくてねぇ……何か我が物顔で腹立つんだよねぇ……」
それに対して私はハッキリ言ってやるしかない。
「ミートゥー、私もだ。だから全然続けていい。応援してるぜ」
そう言ってサムアップした私に和菓子屋のばあさんはパァッと顔を明るくさせて、
「分かってくれるかい!」
「勿論だよ」
「あぁ! もうさすが粕谷ちゃんだねぇ! あっ! ほらこれ! ちょっと古いお菓子だけども、まだ半額とかにして売ってるけども、全部持ってっていいよぉ!」
ばあさんは満面の笑みでそう言ってくれた。人間は鏡だ。相手と同じ顔になるに決まっている。
私はその和菓子をたっぷり受け取って、スキップで家へ戻った。
人間は鏡。そうカスばあさんにはカスの粕谷ちゃんが合うんだよ。
別に私は正義を気取りたいわけじゃない、得をしたいだけなんだよ、私は自分がカスだと自覚している。何なら自負している。
それでいい、いやこれがいい。
私が商店街のコージーミステリーを解いて解いて解きまくり、得をしていく、カス探偵・粕谷のハツラツだ!
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