第9話

 帰ってきて店に入ろうとすると、「ダメ! ストップ!」

 ハルさんの大声が飛んできた。


 外でそのまま立ち止まった私の体めがけて、ハルさんが塩をシャッシャっといてくる。

「後ろ向いて」

 はい。

 手のひらで覆った顔、裏面、もちろん頭も、くまなく。


 塩をバサバサ払い落としてから客席に座り、彼女が淹れてくれた甘いココアを飲みながら、いろんな話をした。


 今回、恐怖ももちろんあるが、実はなんていうか、申し訳なさのほうが大きいんだ、とハルさんに打ち明ける。


 道に落ちていたからといって、勝手に持ってきてしまった私は、結果的に泥棒で誘拐犯で。

 無知じゃ許されない、考えなしの恥ずべき行為だったと、猛反省していると。


 それを聞いたハルさんは、

「そんなことない! あの壺がユカちゃんに拾うように持ちかけたんだから」

とキッパリ言い放った。


 そっか……子供の霊が私と一緒に散歩したかったのね、気晴らしになったのなら、私もう気に病むのやめる、的なこと言うと。


「ユカちゃんが気に病む必要はゼロってのは正しい。でも他は違う。

よく考えて。あんなに大事にしてたスケッチブックや色鉛筆を、ユカちゃんに捨てさせようとしたんだよ。自分を優先させるために。

あの場所は見晴らしが良くて遠くまで見渡せる。迷うようなとこじゃないってこと、トモくんともう一度行ったとき思ったでしょう?

アレが、甘えと執着でユカちゃんにしがみついて、支配したせいだよ」


 た、確かに。

 あのときなぜか壺を捨てるという選択をしなかったし、疲れて朦朧としてからはより一層、そんな思いはちっとも湧かなかった気がする。

 むしろ絶対に持ち帰らねばって、なんか使命に燃えるというか、決意してた気がする。


 車内で聞かされたハルさんの勘について話を振った。


「ああ、最初にトモくんにそばに付いてあげてって言ったことね。

トモくんて無神経で、ガサツで、人の話聞いてるようで聞いてないとこあって。行動力とリーダーシップがあって、合理的に即決する。ああいうタイプは霊たちは嫌いだから寄り付かないのよ」


 なるほど。

 トモくんが壺を躊躇ちゅうちょなく放り投げて、「帰ろ」ってトラックにパッと連れ戻ったのを思い返した。

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