プラネットミュージックを傍で聴いている

鏑木レイジ

第1話ラブ&プラネット

 僕の今を、走っていく。

 疾走するなら、僕は失速するかもしれない。

 あのガソリンスタンドの横を自転車で駆け抜けていく。

 プラネットラブ。

 そんな僕らのパラレルが、傘を差した午後の、雨が上がった空の下、囁いている。

 ミクヤと過ごした放課後を、僕は、諦め半分で、嫌気がさした。

 あいつはぶしつけで、しょうがないやつだ。

 高校の門をくぐって、帰宅するまで、しばらく、ミクヤが言った言葉の意味を考えていた。

「俺たちは、きっと惑星に憧れている」

 とミクヤが言った。

 制服の第二ボタンまではずし、俳優気取りの面立ちが、一種、高校生を思わせない大人びた視線のジレンマと相まって、相対的な美貌が、高校のムードと反対称なんだ。

 リュックを降ろした。

 ミクヤは言った。

「お前はどうする? もし、輝く星が、お前を殺そうとしたら」

「どうって、意味不明なことをよく言うやつだな」

 と僕が言うと、ミクヤは、夕方の校舎の窓を一気に開けた。

 ミクヤは空に向かって、小さな声で、何か言った。

 聞き取れない。

「なんて言ったと思う、メイ」

メイとは僕の名前だ。

「さあ」

「物事は、知りすぎると、よくないね」

「お前が勝手に聞いたんだろ」

 僕は興味を失って、手を振って、去ろうとする。

「メイ、もしプラトニックなラブがあったら、後悔するよな」

「そうかよ、そんなこと考えたこともないな」

 この星は、今夜輝くか。

 ガソリンスタンドの横を通過して、僕は、独りきりで、夜空の中を飛んでいく流星を想像した。流星はすぐに消える。明滅もわからないまま。

 瞼を強く閉じた。

 この時間が、過ぎていく。

 一瞬でも、失いたくない僕の空白を、埋めるような気持ちで、ミクヤが家出したと聞いたのは、次の日の朝のことだった。

 ミクヤは、プラトニックなラブを探すと言った。

 僕はそれをプラネットラブと聞き違えた。

 でも、そんなことは耳の錯覚に過ぎない。

「ねえ、聞いた? ミクヤ君のこと」

「ああ、聞いたよ」

「どうしちゃったんだろうね?」

「知らないよ」

「メイ君、仲良しだったでしょ」

「勝手に仲良しにしないでくれ」

「みんな、女子達が泣き叫んでいるのよ」

「そうかよ、知らねえよ」

 僕は空疎な会話を切って、席に着いた。

 女子の一人はしつこく僕に寄ってきて、前の席に座って、椅子をガタッとひいた。

「しかしねえ」

 と噂をする男子生徒の会話が聞こえてくる。

「あいつ、失恋したっていうぞ」

 僕は、前にいる女子に顎でサインを送り、ほらっあいつに訊けよと言うポーズをとった。

「あんた、ミクヤ君の親友でしょ?」

「どうしてそうなるんだよ」

「だって、ミクヤ君といつも一緒にいるじゃない」

 話にならないほどしつこいなこの女と言うそぶりで、会話を終わらせるためにこう言った。

「ミクヤはな。プラネットラブを探すって言ったよ」

「え?」

「これでいいか? 片山」

「なによそれ」

「きっとすぐに帰ってくると思う。星々の中から本当の愛を掴んだら」

「ん?」

「あはは、じゃ、そういうこって。ほら、授業が始まるぞ、ていうかお前、俺に興味あるんじゃねえの」

「図星」

「ん?」

 僕はカッと頬が赤くなったかもしれない。

「そう、プラネットラブね」

「純粋な愛、か」

「プラトニックラブでしょ」

「そういうことだよ」

 僕は、引き出しから教科書を取り出し始めた。

 片山は、席を去って、「聞きだしたよ」とご満悦な顔をして、女子たちの輪に戻っていった。

「宇宙は広い」

 とミクヤの言葉を想い出した。

「宇宙は広い」

 と二度言ったことも。

 あいつのことだから、きっと宇宙空間へにでも行って、女の穴を追っかけてるだろ。

 僕は窓の外に目を移した。

 それよりも、片山サナリ、胸でかかったなとプッと笑って、ノートの片隅に、落書きした。

 それを横の女子が覗き込んだ気がして、僕は、急いで消しゴムでサナリのブラジャーの絵を消した。

「宇宙は広い」 

 うっせーよ、ミクヤ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る