第十一話 全て話すNPCがいなければ物語は進まない……そう思いませんか?
昨日も酷い目にあった……体がゴリゴリに擦られたようで蘇生にクソ時間がかかり、東棟の修理もままならぬまま眠りについた……でも、前いた世界よりも飽きないし充実してるのも事実だ……。
「おはよー!」
「……ん?」
睡眠時間的にはまだ3時間ぐらい……体が鈍く感じる。
「起きてー!!」
子供の朝は早い……決まった時間に起き、何故か見たいアニメに間に合う現象があったのを思い出す……約束通りマオとナショルと寝ていたが、この子達の寝相……顔に蹴りが簡単に入り寝付けることもままならなかった……。
「ワイバーへーんしん!!」
「だああああああああああ!!」
ナショルナが変なポーズをし始めたのでベッドから起き上がる。
「おはようお兄ちゃん!!」
今日の朝はいつもより慌ただしい……この後の行動だってエナをどうやって救い出すか……魔剣を浄化しても彼女達が囚われているのなら意味はないからな……。
起きて直ぐ右腕にマオと左手にナショルナを抱え東棟に連れて行く……『今日までにはなんとかします……。』とミトラスが苦い顔をしていた……建物が大きく破損したのだ、時間はかかるだろう……。
扉を開け、教会内を見ると……まだ半壊状態……どうすんだこれ……。
「おはようございます……ご主人様。」
「ああ、おはよう……。」
ミトラスが出てくると目の下が真っ黒だ……寝てないだろ。
「万が一があります……プリマとアシスには修復作業の参加を外しました……ただ、例の魔剣を浄化するにはかなり時間がかかると見えます。」
前程の神聖さはない……一刻も早くサリアに浄化させてもらわなければ……。
子供達をミトラスに任せて教会を出る……次にエナだ……ていうか男爵にどう話せばいいか……。
会議室なる部屋に入ると、オウバンは雑魚寝レナード男爵椅子に座りながら寝ていた……。
「えぇ……。」
忙しいとはいえ……せめて、客室まで案内しろよ……。
「おかえりなさいませ、ご主人様……。」
お前も寝てないのか……ミトラス同様にセンシアの目の下にクマができてる。
「昨日は災難でしたね……寝られましたか?因みに私は寝ていません……。」
「でしょうね。」
「ん……いかんいかん……。」
するとレナード男爵が目を覚ます……どう話せば良いのか……。
同時にオウバンも目を覚ましたので、昨日起こった事を伝える。
「そうか……どちらにせよ、エナは連れて行かれる約束だった……それが早まっただけと思えば……。」
レナード男爵は少し暗い顔をする、マジですまん。
「今現在、サリア様は気を失っているので客室で休ませてもらっています。」
あ、まだ目を覚ましてなかったのか……。
「無理やり起こすのは失礼に当たるだろう……だが、早めに起きて欲しいものだ……。」
男爵は右足を揺する……相当焦っているのが分かる……。
「マルクレイブ卿の目的は一体何なのだ……多額の金を何に使うのか……それにしたってエナ達を催眠に落とすのと何が関係する?戦力か?」
「男爵……どちらにせよ、そんな答え宛になんねぇ……分かったところで、オレ達に利益なんてねぇよ。」
オウバンは至極真っ当な事を提示する。
「とりあえず、ハルマ様にはエナ様が連れて行かれたであろう、マルクレイブ卿のいる城郭都市にまで行きブックマークが必要でしょう。」
「ああ、そうだな。」
「サリア様には目を覚まし次第、剣の浄化を教会で行わせます。レナード男爵、オウバン様はそれぞれの出来る行動を……」
こういう時に限ってセンシアはリーダーシップを発揮する……掴めない存在だが、頼りになるメイドだ。
レナード男爵は自分の屋敷へオウバンはウガタ村へ帰るようだ、そして城郭都市だが、『メルトケーレ』というらしく、ダン伯爵の屋敷近くの村……エナと泊まった所だ……ワープしそこを目指す。幸い遠くなくとても近いようで時間がかからないそうだ……どういった街なのか調べる必要もある。
「さて、私はそろそろ眠ります。おやすみ。」
言いたい事を全て吐いたら、その場に倒れ大の字で雑魚寝をかます……さすがだよ……。
彼女を抱えカリス・ピスティソスの寮まで運ぶ……僕への扱いは雑だけどしっかりと尽くしてくれる素晴らしいメイドだ……せめて彼女の寝る寮までは運ばせてほしい。
「入るぞー。」
寮の扉は叩かず中へ入る。
「あ、おはようございます。ご主人様。」
居たのは『アウストラ・シュタット』……プリマ、ロンガと続く獣人でイナテール……彼女は姉妹の三女であり職業はメイドと『屋敷管理者』としての役割を与えている。
「私も手伝いますね。」
「ああ、ありがとう。今は休憩かい?」
「はい、私のステータス……何故かとても低いので……スタミナも直ぐに切れちゃうし……定期的に休まないとだめなんです……。」
確か、彼女の性格は『頑張り屋』……ステータスの伸びが今ひとつだが、経験値は他より多く貰える……だから、レベルの上がりが早いので周りのレベルが上がる前に優位性を確保できるものだが、この性格を好んで使うプレイヤーはまずいない……最終的なレベルカンストでは一番下の値になるからだ。
だとしても……アウストラのステータスは大袈裟な程成長しないのだ……それがとても不思議で僕も原因が分からない……運営に報告しても『よく分からないプログラムがどうこう……』なので、キャラクリに必要なアイテムやら通貨を返えしてもらった、そのためゲームプレイ時には彼女をよく連れたりはしなかった……これが原因でバグが起きるのが怖かったのもある……。
「私のお姉ちゃん達はみんな強くて……ロンガお姉ちゃんはノクターンズで上忍で術と物理攻撃技の使い手……ヴェスターズのプリマお姉ちゃんは巫女で神聖魔法を多用できる……それに比べて私は特徴もないし、良いスキルも持ってない……できる事はこの屋敷の家事とそして屋敷管理者として設備点検ぐらい……。」
結構気にしてるみたいだな……。メイドの数が多いとはいえ彼女の声に耳を傾けなかったのは僕の最大の失態だ。
センシアをベッドに下ろすとアイテムを出す。
「これは?」
「気休めかもしれないけど、アウストラは何もない訳じゃない。」
「良いんですよ、実際に私はゲームをプレイしていたご主人に何の役にも立ちませんでした、毎回私が死んで、蘇生しての繰り返し……使えないと分かってパーティから外されるのだって……。」
今さらだけど、意外と自責型でネガティブな感じだな……。
「良いかよく聞け?僕はこの屋敷にいるメイド29人を作ったんだ、誰一人として特徴が被らないようにした……FOOのキャラクリ時点で何万通り以上の個性が生まれる……その中の29人でアウストラに特徴が無いとは思わないし、僕にも僕なりの考えがあって君を作った。」
「これは?」
彼女の左指に指輪をはめる……もちろん薬指じゃない。
「スタミナが尽きない装備……。」
この装備はレアで中々手に入らない……スタミナを消費して発動するスキルもあるので僕は使わなかった、使わないならあげちゃった方がいい。
「いいんですか……私みたいな……。」
「別に良いよ、頑張ってるんだし……それに毎回休憩入って周りに迷惑かけたくないんだろ?まぁ、入るに越した事ないけどさ……。」
「ご主人から初めてレアアイテムを貰いました……。このまま私の存在を忘れるのかなって……。」
アウストラが涙を流す……相当気にしてたんだな……君を作って少し使ってから屋敷で待機させたままだったからな……今にして思えば作ったにも関わらず使わないとか……最低な事をしたと思う。
「ごめんな?でも、僕は君を絶対に忘れないし大切にする。ずっとだ。」
涙を拭って優しく抱擁する……泣かせるとか最低だな……僕……。
「あ……ありがとう……ございます……。」
彼女は僕の胸の中で泣く……今後はこういう事を無くさなければ。
その時、パシャリと音がする。センシアのベッドの方だが……。
「スキャンダルゲキシャ……チーズ……なんちゃって……。」
「は?」
気づいた時には彼女のベッドごと外へぶん投げてた、つまらん冗談で場を凍りつかせやがって……頼りにもなるが、時々そのテンションが玉に瑕だ……。
ちなみに彼女の手に持っていたカメラはゲーム内の写真を撮る時に使うアイテムであり、いわゆるスクリーンショットだ。
気を取り直し僕はヤミコと共に城廓都市メルトケーレに行くためミトラスにエナと一緒に泊まった村までワープしてもらった。
ワープを潜り抜けると村に人だかりができていた。
「この村の管理そして統治者であるダン伯爵が死亡!平凡な旅人に殺された!これは許されない!」
公示人って奴か……。
「平凡ってご主人のことじゃん。」
「よく分かったな……。」
もう何も突っ込むまい……。
「明日の夜、ダン伯爵の葬儀を行う!遺体を燃やし、聖王国の神『ダイナモウス』の元に召されるだろう!」
ちょっと待てえええええええ!!それって骨残るのか!!
「ん?どうしたのご主人?」
やばい……ミトラスの蘇生は体の一部分が残っていないと蘇生出来ない……この世界の処理方法は知らんが、何も残ってなかったら……?
少なくとも僕のいた世界では火葬後でも骨は残った……ここではどうなんだろう……。
「ダン伯爵は敬虔な信徒!体の一切を神聖なる業火によって全て神に捧げる!一片たりともだ!これが、彼に捧げる労いであり感謝である!」
終わったああああああああ!!確実じゃねぇかああああああ!!
「急ぐぞ、ヤミコオオオオオオオオ!!」
「お、おう……。」
急ぎ城壁都市へ向かってみると人が城前にごった返していた。
「税を下げろオオオオオ!!」
「国の未来とか考えての行動なのか?!」
「取り分が多いだろ?!取り分がよおおおお!!」
など、皆マルクレイブ卿にデモを起こしているのが分かる。
「静かにせよ!!これ以上の反抗……国家転覆と見なし処刑する!」
女性だ、甲冑を着ており国民を威圧している。
「旅人や……ここは危ない……早く元の国へ帰れ……見たところ異国人と見える……都市に近づくに連れ異種族と異邦人に厳しくなるからのう……。」
すると、老婆が助言をくれる。
「あの、騎士はダン伯爵の娘でアリスという……昔はあんな人間ではなかったのに……どうして……。」
なるほど、あれがアリス本人か……。
「ヒィ……やめてくれ!」
「マルクレイブ卿に反する下民め!」
アリスが剣を振り落とした瞬間、前に出て剣を受け止める。
「なんだ貴様!!平凡な旅人風情が!よその邪魔をするもんじゃない!」
「ヤミコ、下水溝から中を。」
「ん……了解。」
ヤミコは気にしながらも中へ入って行く。
アリスは剣を引きもう一度振るおうとする。
「抵抗できない人を殺して良いのか?」
「黙れ!」
アリスの剣は遅い……正直女の子を痛ぶる趣味はないし……アリスが疲れて住民に怪我させないようにするか。
彼女の剣をかわしながら凝視しステータスを開く。
「ん……催眠……。ここは変わらないか……。」
そろそろアリスのスタミナが半分……早く終わらないかな……。
「はぁ……はぁ……貴様……何者だ?」
「山崎ファミリアでぇす。」
「何だ……そのふざけた名前は?!」
「僕もそう思います。」
「人を馬鹿にしやがってえええええ!!」
「待った!」
アリスが剣を振ろうとした瞬間声が響く……誰?
建物の屋根から男が飛び降りこちらに近づく。
「おいおい、今日の夜襲撃だろ?こんな旅人相手に疲れてちゃあ備えないぜ。」
「うるさい!ガルバルド!貴様のような帝国から来た傭兵の出る幕じゃない!」
こいつがガルバルド傭兵部隊の一人か?
「はいはい、その威勢が夜まで続くと良いな?」
アリスは剣を鞘に納めこちらをギンっと睨む。
「お前は運がいい……私の剣のサビにならずに済んだのだからな!」
アリスは城へ戻って行った。
「それにしても旅の方……いい反射神経してるぜ!俺の部隊に入らないか?こう見えて俺たちは帝国じゃ名が売れた傭兵部隊だ、ギルド上がりだが……こう見えて裏依頼を集中的にやって来たパーティだ。」
「裏依頼?」
「ああ、異国の方だから分からないか?特別に教えてやるぜ……裏依頼ってのはな、人殺しを専門にする依頼が主だ……大抵はお国やら貴族の依頼だが……やはりその分儲けが良い……より高い報酬を求めて俺達はギルドをやめて傭兵になった……今はマルクレイブ卿に雇われててな……今夜は数日前に突然現れた屋敷を奇襲するらしい……俺たちはマルクレイブ卿の私兵である盗賊と共に屋敷へ奇襲……なんでも取り返したい物があるとか……俺達の仕事が終わると帝国の航空戦団が来て爆撃……全てケシカスにする気だ……マルクレイブ卿は慎重な人間だ……自分の保身のためなら迷わず金を払う……儲けがいいの何のって……」
はい、バカ確定です……こいつ全部喋りやがった……。
「因みに、何処に奇襲する予定ですか?僕も行こっかなー。」
「お、食いついてきたな?何でも、ここから南のウガタ村に近いとこらしい、豪勢な屋敷だから分かりやすいとのことだ。」
「へー。」
「じゃあ、今日の夜ウガタ村で待ってるぜ!」
ガルバルドは手を振り何処かへ行ってしまった。
排水溝からヤミコが出てくる。
「大変だ!今日の夜に敵襲が!」
「うん、知ってる。」
「え?!」
だが、知らない事もあった……ヤミコの話では屋敷以外にも近くの街や村も攻めるというのだ……マルクレイブ卿にとってあの剣は何があっても奪い返したい物であると改めて分かった。
ワープゲートを通り屋敷に戻ると大広間のドアが開き盗賊団のボスであるダリアーが姿を表す。
「大変だ!今日の夜に敵襲が!」
「うん、知ってる。」
「え?!」
そんな具合で、情報戦は勝ったも同然……やはり情報戦は大事だ、そして何より全てのゲームに出てくる全部喋っちゃうNPCに感謝しなければ……彼らがその文化を作らなければ僕達は見えぬ敵にやられていたかもしれないから……。
第十二話へ続く……。
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