第10話
帰り道、俺と氷織は歩幅をあわせて歩く。
「綿矢さん、結構協力的だったね」
「ああ、あれならうまくやっていけるだろうな」
「でも、楓はちょっと鼻の下伸びてた」
「そんなことないだろ」
あの氷織が嫉妬をしている。今まででは信じられないことだ。マル秘ノートによれば、氷織は意外と嫉妬深いらしい。独占欲も強いと書いてあった。半信半疑だったが、今の氷織を見ているとあながち嘘ではないのだと思えてくる。
「制服のアイディアいいと思うぞ」
「うん。ありがとう。ずっと考えてた。生徒会になったら何をするか」
「実際中学の時制服で高校決めてるやついたしな」
「絶対に影響はあると思う。でもこれは長期的なプラン。短期的に結果を出すプランがほしい」
「確かにな。制服の変更は学校側を納得させるには来年度の生徒の受験数を増やす必要があるな」
「そう。目下急ぎなのは校則。うちは厳しすぎる。今の時代に合ってない」
「まあな」
染髪なんてのは当然禁止だし、髪の長さも定められている。その他にも学校にマンガなんて持ってこようものなら即没収だし、制服のスカートの長さも明確に決まっている。その校則を破った生徒にはもれなく罰則がついてくる。氷織の言うように今の時代にはそぐわない厳しさだ。
「まあでも校則をそう簡単に変えられるとは思えないけどな」
「うちの先生たち頭固そう」
「だよな。でも、話し合いに持っていくことはできるだろ」
うちの学校の校則は守ろうと思えば守れる。だが、外に向けて校則が厳しいと広まっている以上、この噂をどうにかしないといけない。校則が緩すぎると逆に頭の緩い生徒が入ってくる可能性がある。教師陣が危惧するとしたらここだろう。
「なにかアピールする必要があるな」
「そうだね。でも何をアピールすれば」
「それはこれから考えればいい。焦ってもいい案は出ない」
まだオープンキャンバスもあるし、そこで挽回できる可能性もある。生徒会としてはこのオープンキャンバスを絶対に成功させなければならない。魅力的な学校だとアピールするチャンスだからな。
「まあ今はその話はおいておいて、もっと楽しい話をしようぜ」
「楽しい話?」
「そ。たとえば、デートの話とか」
「無理。忙しい」
まだダメか。ノートに寄れば氷織がデートを拒否するのは極度の緊張かららしいが、まだ俺といると緊張するのだろうか。
俺は試しに氷織の手を握ってみる。
「っ⁉」
咄嗟に氷織が手を振り払った。
「あ、ごめん」
氷織がすぐさま謝ってくる。あのノートがなければ今の反応をされたら拒絶されたと感じてかなりショックを受けていただろう。
「いきなりに握って悪かった。その手を繋ぎたかったんだ」
「うん。びっくりしただけ。私もその……繋ぎたい」
遠慮気味に氷織が手を差し出してくる。俺はその手をそっと握ると感触を確かめる。
「氷織の手、小さいな」
「楓の手はおっきい」
「まあ一応男子ですから」
「ごめん。あんまり長くは繋げないかも」
「どうして?」
「手汗が恥ずかしい」
氷織の手から大量の手汗が滲み出てくる。この反応は確かに俺相手に相当緊張しているのだと思えるな。
「わかった。じゃあ今日はこんだけ」
「いいの?」
「氷織が恥ずかしい想いをするぐらいなら、繋がない方がいい。でも、また繋いでもいいか?」
「……うん。事前に言ってくれれば。いきなりだとその、びっくりしちゃうから」
「わかった。約束する」
氷織との距離は一歩ずつ詰めていかなければならない。そのことがわかっただけでも収穫だ。ノートにも面倒くさがらずに一歩ずつって書いてあったしな。
不意に氷織が足を止める。
「あのね、私も楓と手を繋げて嬉しかった。すっごくドキドキしたけど、嬉しかった」
「俺も嬉しかったよ。初めて氷織に触れることができた。少しずつでもいいんだ。俺は氷織と関係を進めていきたい」
「うん。少しずつ、なら」
氷織は普段クールだから、こんなに緊張するタイプには見えない。だが、氷織にとって俺が初めての彼氏なのだから、恋愛のかってがわからなくても当然だ。
俺も氷織が初めての彼女だ。つまり俺たちは恋愛初心者なのだ。初心者なのだから急ぎすぎるのは良くないと思う。
「そういえば校則で絶対に変えなきゃいけないのがあるな」
「うん。不純異性交遊の禁止」
「何をもって不純異性交遊と言うかだよな。普通に話すのは禁止されていないし」
「でもこの校則がある限り、外の生徒にとっては恋愛禁止と思われてもしかたないと思う」
「ここは変えていきたいな」
俺たちがこれから付き合っていくうえでも、この校則は目の上のたんこぶだ。改正できるならしておきたい。
俺は学生のうちに恋愛をしておくべきだと思っている。大人になってからでは恋愛する余裕が無さそうだ。学生のうちに経験しておかないと、大人になってから困ると思う。
無論、俺は氷織と長く関係を続けていきたい。高校生恋愛の七割は破局すると言われているが、俺は残りの三割になりたい。
まあ、別れようとしていたのだけど。
「それじゃ氷織、また明日」
「うん、また」
氷織を家まで送り届けた俺は踵を返して、元来た道を歩く。
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