第30話 未来か過去か

第30話 未来か過去か

(Dove il Futuro Incontra il Passato)

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 波の音が遠くで聞こえる。

引いては寄せてを繰り返してる。


 意識は気まぐれに浮いたり沈んだり。

砂が付いた少年の頬を冷たい海の風が

〈しっかりせいやっ!〉と叩く。


 砂漠で感じたのとは違う、白くて柔らかい砂の感触だけが、自分の存在を認めてくれた。


 そしてーーー


 急に真っ暗な空から真っ逆さまに落ちる感覚

がしてーー


 『うあああーーー!!!』

『ノエマーー!!フィリムーーー!!』



 ザアア………サアァ………ザアアア………



 「あ?」


 「なんだよ……………」


 「どこだ!?…………ここは……」


 少年ーー


 アルテナは見たこともない場所で一人。

目を覚ましそしてその光景を疑った。


 目の前には眩しい光を照らし続けるホログラムの海が一面に広がっていて。


 宇宙から世界中にラメをぶちまけたように、

海はキラキラと眩しく輝いていた。


 海岸の砂地に座るアルテナの視界には、

雲一つない青空が遠慮なしに飛び込んで来る。


 「うっ………」


 海が反射させた太陽の光ーー


 その日差しが目に突き刺さる。

 アルテナが立ち上がると、しだいにバラバラになっていた記憶が繋がっていく。


 『そうだ……おれは、あの時……!』


 アルテナは突然意識が遠くなる気がして、

グラッとまた砂地に倒れこんだ。


 体は問題ない。記憶もちゃんとある。


 だが、いつも心の真ん中にいる

 そこに存るべき『 二人 』の姿は、

 どこにも見当たらなかった。



 「ノエマ…………


 ………フィリム。」


 そう小さく呟いた瞬間にーー


 胸の奥で大切な何かが、

暗闇の底へと沈んでいく気がした。


 『あの二人はあれから……

どこにいっちまったんだ?』


 するとその時、背中で誰かの知らない声がして

少年の意識を逸らした。


 「おう!そこのチビ助!生きてっか?」


 太陽光でよく見えない。だが、その声は落ち着いていて低く、なんかだんだん近付いて来る。


 そして、まばゆい光の中から

こっちへゆっくりと歩いて向かってきたのはーー


 『 深い青色の髪を尖らせ、鋭い目つきをした、

ちょっと年上の兄ちゃんだった。』



 「ああん?あんただれ……」


 「おっ……おいおい。初対面なのにやたら生意気なチビ助だな。俺、お前よりぜったい年上だし、もっと年上にたいして敬意をだな。」


 「………」


 「ところでお前!この辺じゃ見かけない顔だが、どっから来たんだ?」


 「まさか!?海から流れて来た

なんていうなよっ……?!」

「って、んなこと後だ。立てっか?

まずはここで休めチビ助。お前今ーー



 「めちゃくちゃひどい顔してるぞ。」


 『え?』


 そう聞かれても、口が重くて思うように開かない。アルテナは鼻から目一杯空気を吸い込んだ後で答えようとしたが、途中で何かが喉に詰っかえたように言葉が出なかった。


 『それになんか……

また気が遠くなる気がする……』


 『あれ?おれ……まじで

どうしちゃったんだろ?』


 しばらくしてやっと、掠れた声で

彼に答えることが出来た。



 「ノエマと……フィリムが

どこにもいねぇんだよ……」


 そして、アルテナはのっそりとその場に立ち上がり、潰れた声で話を始めた。


 「おれは……砂漠にいたんだ。最初はじめは。」


 「で……そこで会った女の子と大福にツノが生えたみてーなやつと三人で、ジャングルのなかにある遺跡まで行って……」


 「んーそれから……あれ?

なんだっけ……」


 ドク…ドク…ドク…


 「……ああ、そんでそこでさ……おれたちがなくした記憶を探してたら、急に敵が襲ってきてよ。みんなで、そいつらをやっつけたんだけど。」


 「その夜に目ぇ覚ましたら……あの白い太陽の中に浮かんでるやつがあんだろ?……それがこう、いきなりブワアーって目の前まで来て」


 「……それで気付いたら……こんなワケのわかんねー所にいた。」


 その少年のたどたどしい説明には、己の無力さと絶望感が濃く滲んでいて。潰れた声と悲痛な表情は、到底年相応には見えず痛々しかった。


 「………。」


 「まじかよ……色々と大変……だったんだなお前……なんかわるかったな。」


 「俺の名前は、


 『 ジャーベス・アルギロホース 』


 ジャーベスって呼んでくれ!年は……こないだ

16になったばっかだ。お前、名前は?」


 「おれ?おれは……アルテナ。

アルテナ・フォッティーゾだ。

年?はわかんねえ!」


 「けど兄ちゃん、よろしくな。」


 ちなみにこの時の少年アルテナは10才に

なっていた。本人は知る術もないが。


 「ははっ!そうこなきゃな。男の名が泣くってもんだぜ。アルテナ、さっそくちょっと着いて来い。」


 「あ?」


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 元気を失くしたアルテナの手を引いて、ジャーベスは海辺をぐんぐん離れていく。しばらく歩くと二人は海沿いの街道に行き着いた。


 「ヒヒーーーン!ブルブルブル。」


 「なっ!?おい……なんだっ?!……

この全身真っ黒の生き物は……」


 「こいつの名は『 シルヴァリオン 』ってんだ。どうだ?カッケェだろ。俺がまだガキだった頃からずっと一緒にいてくれた、俺の唯一の家族だ。」


 「ちなみに、シルヴァリオンはな。」

「夜になると……蒼く輝くんだぜ。」


 「家族……か。」

「え?待って光んの?」


 「いや……まじで、

シルヴァリオン超カッケェな。」


 「あはははっ!だろ?アルテナ、

やっぱお前も分かるやつだと思ってたぜ。」


 「おっとシルヴァリオン、

蹴んなよ?危ねえから。」


「蹴んの?おれ、だいじょぶかな?」


 と、ジャーベスは漆黒に輝く愛馬=

シルヴァリオンの立て髪を少年らしい笑みを浮かべながら嬉しそうに撫でていた。


 アルテナの顔にもちょびっとだけ、

いつもの元気がもどっていた。


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 ある夜。


 二人と一匹を突然飲み込んだ『 闇色の海 』は、アルテナたちを一体何処に飛ばしたのか?


 そこは同じ世界なのか。はたまた未来か過去か。

それは……今はまだ、誰にも分からない。


 しかし、アルテナは持ち前のユーモアと少年らしい素直さで、明日も明後日も生きていくのだ。

 そこできっと彼は新しい仲間たちと出会い、

また成長していくことになるだろう。


 光は影がないと生まれないように、影もまた光を失くしたままでは存在出来ない。


 アルテナが新たにジャーベスやシルヴァリオンと出会ったように。やさしい人同志がこうして、なにか私たちには想像もつかないような、大いなるものの力によって引き合わされるのだ。


 私たちは今はただ、それをことしか出来ない。


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 【 突然、目の前から消えたノエマと、

フィリムにもう一度会うまでは 】


 【 そして、失った記憶をこの手で

すべて取り返すまでは 】


 【 この物語はぜってぇー終わらせねえ。】


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