第26話 『いつかきっと、それを伝えて』
第26話 『いつかきっと、それを伝えて』
(Someday, I Know You’ll Carry This Forward)
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[汝、その光の祭壇へと進むがよい]
[そしてその
[汝の
偉大なる全知の龍がノエマにそう語りかける。龍の言葉は風を切り裂くようで、プルーデンスは耳なりがした。
「お父さん……いっしょにいこう?」
「ノエマ……ああ。一緒に行こう。」
「っと、その前にこれを君に。」
「……? お父さん、これって……」
「ああ。アル……じゃなくて、お母さんがさっき渡してくれた大切な物だ。ノエマ、これは君が持っていなさい。」
「ん。……わかった。」
二人が白紫色に輝く光の柱のなかへと足を踏み込むとーー
バチッ!!とプルーデンスだけが光の柱から弾き出された。
「お父さん!?」
「……ってて……ノエマ?!
大丈夫だよ。今いくから……」
[影を背負う者よ。]
[碧き光を持つ『 観測者 』の影なる者よ]
[おまえはここに留まれ。]
プルーデンスの身には、『 闇色の影 』が触れた痕がまだほんの僅かに残っていた。
「「……!!?」」
「スキエンティア!おねがい!
お父さんも、いっしょに………」
『ノエマ、きこえる?ぼくはスキエンティアだよ。『 真の観測者 』である君の心には、『 龍の言葉 』ぼくの声が聞こえているはずだ。』
『……ざんねんだけど。君のお父さんを君と一緒に連れてはいけないんだ。今の幼い君に伝えるのはむずかしいんだけど……』
『ごめんね。そういうふうに、きめられているんだ。』
「なぜだ?!どういうことか
教えてくれ!!スキエンティア!」
「お父さん……スキエンティアは、ごめんね。っていってる……。」
「わたし、お父さんといっしょには……いけないみたい。」
「なっ、なぜだ?!君は……そう!君は偉大なる全知の龍じゃなかったか?!それなのに……どうして……」
プルーデンスの体はしだいに
碧く光り始めていた。
[プルーデンス……君は、今や
[最後に……ノエマと話したらどうだい。]
龍の谷の祭壇で、
父と娘は互いに見つめ合っていた。
プルーデンスはこれまで三人で暮らして来た穏やかで幸せな日々、毎日めまぐるしく成長していく娘ノエマのこと。アルテイシアの笑った顔を思い返し、それらの想い出が心をいっぱいに満たしていく。
「スキエンティア、さっきはその……」
「取り乱してすまなかったね。うん。……君の話はある程度は、理解したよ。」
「僕は、これから何が起きようともずっと、ノエマを護って生きるよ。」
「アルテイシアと………そう、約束したんだ。」
「お父さん……」
ノエマは白紫光の中で、父の言葉を待っている。胸の上で母から託されたペンダントを、ぎゅっと握りしめながら。
プルーデンスはしゃがんだまま、
二人は掌を合わせた。
「ノエマ、いいかい。」
「お父さんが必ず、ノエマがどんなに遠い宇宙の果てにいたって……」
「未来のずっと先にいたって。きっといつか君を見つけだして」
「そして君をずっと護るから……。お父さんもお母さんもずっと、君を見守っている。どこにいたってね。」
「ノエマ」
「お父さんとお母さんは、
君の一番の味方だからね。」
「さあ、こわがらないで。
気をつけて……行って来なさい。」
父は最後に娘に笑ってみせた。
その笑顔はいつもノエマがみていた、目にシワを寄せ、どこか寂しそうに笑う父の大好きな顔だった。
『ノエマ……じゃあ、君の
偉大なる全知の龍=スキエンティアが
『 真の観測者 』ノエマに伝える。
「お父さん……わたしもわすれないよ。」
「どこにいても、こわくないよ。」
「お父さんだらしないし、いつもぼーっとしちゃうし……」
「もう!とろいんだからもっとしゃんとして、ちゃんとわたしをまもってね!」
「ああ……ああ。ははは……」
プルーデンスは微笑みを浮かべたまま涙を流しながら何度も頷いた。
「ノエマ、お父さんちゃんとするよ。なんだかますます……アルテイシアそっくりになっていくね。」
次の瞬間ーー
すでにプルーデンスの前には白紫光も愛娘の姿もなかった。ただ
ふうーーーっ
と、龍の息吹を真似て、長いため息をついた後で
目を閉じた彼は、再び微笑んだ。
偉大なる全知の龍は、
『ノエマ……また、会えるといいな。』
そんなふうにまだ幼いノエマのことを
考えていた。
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しばらく時間が経ってから。
プルーデンスは、偉大なる全知の龍に聞いた。
「ところでスキエンティア……
ノエマの望みとは一体なんだったんだい?」
「……僕もしなないとはいえ、時間は掛かってもいずれ必ずあの子と再会したいと思っているからね。」
[ん?そうだなあ〜ノエマの
[だいたいだけどノエマは
『 100万年後の地球 』にいったんじゃないかな?]
「??!」
[ぼくが分かるのは『 だいたいの数字 』と、『ノエマが未来でちゃんと生きてる 』ってことだけだよ。プルーデンス。]
[あくまでぼくは『 観測者 』に導かれて、彼女たちの意思にただ従っているだけなのさ。]
「そ……そうかあ。……はは……困ったなぁ。これから『 100万年間も待つ 』って……僕には想像も出来ないよ。」
[それじゃあ、プルーデンス。ふあああ……ぼくはまた眠るから。おやすみなさ〜〜〜い。]
バオンッッッ
と白銀の翼をはためかせ、偉大なる全知の龍=
スキエンティアは谷底に降りて行ってしまった。
「……さて!再会するには途方もなく長い時間だけど。……僕も、ひと眠りするとしようか………
な ブツッ
急に電源が落ちたように、プルーデンスはそのまま龍の谷の神殿の前にうつ伏せで倒れたのであった。
--- 僕は夢の中で
アルテイシアと手を繋いで歩いていた。
光の先で、小さな子どもが僕らの方に向かって
手を振っている。
ふと気が付くと、となりにはもう
アルテイシアの姿はなく
そのとなりには君が居て。
僕の方を見て笑っている。
でもこれで、もうしばらくお別れだ。
「それじゃあノエマ」
「未来で待ってる。」
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