『 生きる意味を失った俺を生かしたのは異星人の少女だった。』 〜記憶と未来を受け継ぐ物語〜

霧饅じゅう

第一章 バーストハート・オブ・ジ・ガール!

第1話 異星の美少女

第1話 異星の美少女

(The Girl from Another Star)

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 ---その惑星ほしの記憶が一度、

真っさらな白紙になった---


 ただ一つだけ

 消えなかったものがある。

 それはーー


『 強い願い 』だけだった。


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 幾億の恒星がその瞬間

 同じ夢を見た。


 母が娘に伝える料理のレシピのように。

 味付けも、火加減も、失敗も全部。


 記録が記憶に。

 そうして新たな生命いのちへと、

 その形を変えていく。


 やがて世界はまた

 夢を始める。


 その時---


『 観測の鎖 』は切れたのではなく、

 確かに次へと『 渡された 』のだった。


 ある夜。

 一つの夢はある惑星に落ちていった。


 太陽が二度昇る時代ーーー


 やがて『 闇色の海 』に沈み行く運命にある


 青い惑星=地球アーズへと。



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 星が落ちてきそうな

 そんな夜だったーー



 地平の彼方まで果てしなく続く砂漠地帯。


 そこでは生き延びることなど誰一人として到底許されない、そんな冷酷で無慈悲な環境が一帯に広がっている。


 そこは、本当に何もない場所にあった。


 朽ち果て砂に埋もれた小さな聖堂の片隅で、

一人の少女が静かに目を覚ます。



 ---『 おぼえていてね。ノエマ。』---



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 崩れ落ちて穴が空いた天蓋の隙間からは、『 幻環 アニュラス』の白紫光はくしこうが差し込んでいる。肌が淡く光っているのは、その光を反射させているから。


 真夜中、一人の少女が聖堂の古びたベンチの上で目を覚ました。


 その瞳は翡翠色で、髪はプラチナに輝き、まるで生まれたばかりの星の光を宿しているようであった。その輝きはどこか儚さを帯びている。



 「……ここ……どこ?」



 「……………」


 返ってくる声はない。



「………おかあさん!!


 ………


 おとう………さん………!


 ………って………


 なに………?」ーー


 口をついて出たその言葉に、

感情だけが先に反応して揺れる。

理由も、意味も、なにも思い出せないまま。


 

 そして少女は古びたベンチから立ち上がろう

としてーー


 力がうまく入らずに ぽてっと、

そのまま床に倒れ込んでしまった。


 さらさらとして冷たい地べたとほっぺがくっ付いて、倒れた時に舞った小さい砂粒が目に刺さった。


 そのままの姿勢で視線だけを動かしてみると、壁には『 ひび割れたステンドグラス 』、床にはきらきらと『 淡く光る砂 』の吹き溜まりだけが見えた。


 そして仰向けになって天井を見上げると、天井には大きな穴が空いていて。そこからはなんだか不思議な色の明かりが、少女のどこか不安気な表情を照らし出していた。


 しばらくその景色を見てから、自分の胸元がぼんやりと光っているのに気付いた。


 地面にすわり直して。少女が胸に手を当てると、そこには『 ペンダント 』があった。


 それを手にしてそっと開くと、中には

『 古い写真 』が一枚だけ収まっていた。


 写真には若い女の人が映っていた。その人は、

なぜか自分に微笑みかけているようにも見える。


 そしてその瞳の奥には、見たこともないほどの深い静けさと、人間離れした美しさがあった。写真によく目を凝らすと、下にはすり減った文字でこう書かれていた。



 『 おぼえていてね-ノエマ 』


 『To the one who remembers - Noema』




 「ノエマ……?」


 少女がその言葉を口にしたとたんーー


 頭の奥で何かの炸裂音が響いて

直後に鋭い痛みが走った。


「ッ!んっ………。」


 両手で耳をふさぎ、息をひそめてしばらくじっとしていたが、次の瞬間にはペンダントから燃え盛るような紅い光が溢れ出していた。


 「あ……」


 少女は反射的に目を閉じた。


 まぶたの裏が赤く光って脈打ってる。冷やされた砂漠のにおい。夜風にサラサラと舞う砂の音。崩れた建物の壁に砂粒が当たっているのがその時、ちゃんと分かった。


 ペンダントが放つ紅い輝きはなおも止まない。


 悲しくないのに。

なぜだか涙があふれ出して。


 それが『 哀しみ 』だとは

彼女まだ知らなかった。



 ーーーそして、少女は思い出した。



「……ノエマ……それが……わたしのなまえ?」



 星が落ちてきそうな夜に。

 少女ノエマは初めて『 一つ目の記憶 』を

 取り戻したのだった。


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