第0話 プロローグ 幻環神話

第0話 プロローグ

幻環神話ミュートロギア

(Mythologia)



『 幻環が天高く昇るとき


龍の心臓を抱く創造主が


黒き雷とともに現れ


闇色の海はやがて


世界の根本を


すべて覆すだろう 』



それは、地球に残された

『 人類が最期に残した神話 』だった。



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 「あれは、ある穏やかな夜のことじゃった。」


 空には月も、星々の光さえなくただ深い闇だけが静かに、まるでその時を待つかのように沈黙しておった。……」



 「じゃが突然、空に白銀色に輝くひとつのが現れたんじゃ。」


 「そして、その光の環より放たれし黒き稲妻は、荒れ狂う海を穿ち、たちまちその姿を変え大洪水を引き起こして……」


「街を、この世界をあっという間に呑み込んでいった。」


「風は嵐を呼び。大地は裂け、木々は泣き叫んでおった。」


 「…………」


 「……そうしてやがて、

 ……闇色だけが辺りを支配した。」


「すべてが闇色の海に飲まれた後、地上の全ての生命は初期化デリートされ、記憶集合体オムニアレドゥトスへと還ったんじゃ。」


「……それから、太陽は二度、昇るようになったという。」


『 一度 』は『 の太陽 』

『 二度 』は『 の太陽 』=『 幻環アニュラス


「それからは……お前さんもよく知っての通り……白紫色はくしいろに輝く巨大な環が空へと浮かび」


「その中心には、この世の闇をいっぺん残らず封じたような『 闇色の球体 』が沈黙していたんじゃ。」


「今まで、そう。ずっとな。」



「……それが、我ら人類の祖先が最期に残したと言われる予言の書。幻環神話ミュートロギアと呼ばれる神話の……真の姿なんじゃよ。」




「………。」


老人は焚き火の火を見つめながら、何かを愛おしむように青年にそう話した。


今はまだ、誰も知らない。

あの夜、本当は何が起きていたのかを。



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 ーーー金属のような音が、光を引き裂いた。


 宇宙空間で、白紫色の光が爆ぜる。

惑星フィデリスの遙か上空、それはノマド星団の航路だった。


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 タッタッタッ……!キュッ!!


どってーんっ!………ごちん!


「あ痛たたた………」


「……ったー……」


『 わたしは警備隊の厳重な監視網をかいぐぐって、目的地までやっと辿り着いた。』



「シュッッッ ピ………ピピッ!」


シュンッ


「ふんッ案外、たいしたことなかったじゃんね。」


 彼女は見栄っ張りだった。偽造IDをスワイプさせると重厚なドアーがいとも簡単に開く。


 透明なクリスタルのトンネルを抜けた先にあった場所。そこが、彼女の目的地だった。


 部屋の中に入ると、白紫色に眩しく光る広いフロア全体が丸い円錐形になっている。


 そして、その中心に彼女は立っていた。



 わたしの名前は、


『 アルテイシア=ノエシス・リュクシエル 』


 叛逆の観測者。

そして故郷の裏切り者と呼ばれた者。


 彼女の胸元では、龍を模したペンダントが淡く紅色べにいろの光を放っていた。


 それは『 惑星フィデリスの秘宝 』の一つ。


 ペンダントの中心に埋め込まれた結晶には、リュクシエル族やフィデリスの民が今まで厳重に保管してきた『 ある物 』が宿っていた。


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    〈 その世界の終わりを見た。〉


 『……このままじゃ地球アーズの超新生爆発はもう誰にも止められない。そして、観測の目が断たれれば、宇宙は盲目になる。』


 「だから、行かなきゃ。」


『地球へ。未来を引き継ぐために。』


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 「さて、この次は。」


「……もー!いそがなきゃなのに。」

「? あっコレだコレ。みーっけ。」


「………ポチッ!」


 それっぽいスイッチを押すと床面から小型の宇宙船が姿を現した。


 不安定な重力のなかで、白銀の髪が星屑を散らすように揺れ、彼女の瞳の中には数億の恒星の光が瞬いていた。


「はい!これで……パーフェクトっと!」


 とたんに背後で警告音が鳴り響くーー


 ビービービービー

  《 侵入者発見。ただちに通報します 》


 遙か上空を巡航していた宇宙監視艦が、侵入者の座標を捉え青白いビームが宇宙空間をぶち抜いて、彼女がいる発着場を眩しく照らしつけた。


 ーーチッ「もう見つかっちゃったか。」


 深い息を吐く。しかしそれは恐怖などではなかった。それは、『 覚悟と決意 』を表明した吐息だった。


「いいや!これでいい。この『 秘宝 』は、必ず次の観測者へ届けるんだから。」


 そして彼女は指輪をした左手をかざす。


 とたんに指先から光の環が現れてパアッと輝く。すると空間が弾け、窓の外に見える星々が液体のように流れ始めた。


 「光転航路起動!」


 その時、ふいに入り口のドアーが開きとっさに振り返った。まさか、追手が……もう?


 「待ってくれアルテイシア!!!」


「俺はッ…まだお前のことを…アッッ!!」


 なにも無いはずなのにつまずいて、彼は勢いよくその場に転がると、意図としてではなく彼女の意表を突いた。


 「カリオ?!……あんた、まさかこんなとこまでついてきちゃったの?!」


「バカなの?ほら、はやく帰らなきゃ捕まって…」


「あーもう!!!行かなきゃなのに。ったく………もう。」


「みんな……元気にしててよね。」


 と、アルテイシアは最後に悪戯っぽく笑った。


 そして彼女は小さな船体に乗り込むと、虹色の光の中に吸いこまれていった。


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