お金が有り余りすぎた国
ちびまるフォイ
裕福な人の極限のツアー
「ツアーの依頼……ないなぁ」
「ですねぇ」
「定時まで退屈だなぁ」
「ですねぇ……」
ツアー会社の従業員は暇を持て余していた。
サティシアン国は世界でぶっちぎり裕福な国。
誰もがお金もちで、お金に一切困らない。
食事も好きなものを好きなだけ食べられる。
欲しいものはなんだって手に入る。
お金ありすぎて投資すら使い道がなくなるほど。
時間も買ってるし、人の心も買ってるし、寿命も買える。
裕福になりすぎた結果、ツアーなんてもう誰も利用しない。
旅行なんてとっくに行き尽くしたオワコンだ。
「別に仕事がなくってもお金があるから、
ぜんぜん困らないっちゃ困らないけど……」
「こう暇だとやってらんないっすよね」
「だよなぁ。せっかく日常の暇つぶしに仕事してるのに
その仕事すら暇だってなると困るな」
「なにかあたらしいツアー考えます?」
「いまどき、旅行行ってくれるかなぁ……」
「世界遺産とか、B級スポットとかは?」
「ダメダメ。とっくに行き尽くしてるよ。
それに行ってなかったとしても仮想空間で体験できちゃうし」
「それじゃ異世界ツアーとかにします?」
「そんなのとっくに廃れてるよ。
没入ゲームが出てきたあたりで飽きられてる」
「八方塞がりですね……。
裕福すぎる人たちに刺さるツアーなんて無さそう……」
「……いや待てよ。思いついた!」
「どんなツアーですか?」
「貧困を体験するツアーだよ!
この国の人たちは生まれてから一度も貧しさを体験してない。
こんな唯一無二の体験ツアー、他にないぞ!!」
お金ありあまる国の政府なので、国民への補助も手厚い。
生まれた瞬間に土地とタワマンを与えられる。
そんな状態なので逆に貧しさをあじわった人はだれもいない。
ツアーの人気というのは、極論そこでどれだけ得難い体験があるかどうか。
貧困なんてまさにぴったりだった。
ツアーが開始されると応募者殺到となる。
「ツアー参加者のみなさん、こんにちは!
これからみなさんには貧困体験をしてもらいます」
「おお楽しみだ!」
「本でしか読んだことない!」
「早く貧困させてくれ!」
「ではお金は没収し、こちらのきったない服に着替えて
パッサパサのパンを食べて、労働に明け暮れてください」
「「「 こんな経験はじめてだ!! 」」」
参加者は大いに喜んで貧困を受け入れた。
木の板しかない二段ベットに寝かされ、
すきま風に吹かれてこごえる体験をおおいに喜んだ。
「ツアーはまだこれからですよ。
次は蟹釣り漁船にのって過酷な労働体験です!」
「「 最高じゃないか!! 」」
客たちはここでしか味わえない貧困を楽しんだ。
ツアー終了後にはみんなしっかり体重を落として満足した。
「いやあ、最高の貧困だった」
「はやくもとの生活に戻りたい」
「自分がどれだけ恵まれているかわかったよ」
「満足していただけてよかったです。
貧困を体験すると、もとの生活の良さに気づく。
これが貧困ツアーの醍醐味ですから!」
貧困体験ツアーは大反響となった。
もとの裕福な日常に戻るときが一番楽しいという。
我慢と努力を知らない国民がハマるツアーとなった。
一大ムーブメントとなった貧困ブームは、
他のツアー会社もこぞって取り入れるようになる。
貧困体験が群雄割拠する時代になると、
最初に取り入れたツアー会社の人気は徐々に落ちていった。
「ツアーの依頼……ないなぁ」
「ですねぇ」
「定時まで退屈だなぁ」
「ですねぇ……」
「前はあんなに貧困ツアーで人気だったのに……」
「前はうちしか選択肢なかったですから……。
今はどこも貧困、貧困でこっち客取られちゃってます」
「なにが違うんだろ?」
「貧困VIPマイレージじゃないですかね」
「なにそれ」
「他社だと、貧困体験をするごとにマイレージ溜まるんです」
「貯めると、商品かなにかもらえるの?
こんだけ有り余る金があるのに欲しいものなんてないだろ」
「いえ、マイレージ溜まると会員ランクあがります」
「……それだけ?」
「それだけです。それだけで十分なんです。
貧困会員ランクがあがると、他人より優れてると思えますから。
お金でなんでも買えちゃうから、自分を特別視できる要素は需要あります」
「うーーん。うちも取り入れる?」
「もう遅いでしょ」
「だよなぁ……」
二人はすっかり閑古鳥が鳴くオフィスで時間潰し。
「なあ、貧困ツアーのさきがけがうちなんだし
いっそ最も限界貧困ツアーを提案してみないか?」
「それもう他社がやってますよ。
貧困ブームで、貧困インフレになっちゃってます。
スラム街での無一文生活が人気ですし」
「そっか、そうだよなぁ……。
それだけインフレしたら、生半可な貧困じゃ満足できないよな」
「そうですね。いかに"無"を体験できるかにかかってます」
「あ」
「なんです?」
「それだよ!! ひらめいた!!」
「貧困ツアーですか? 言ったはずです、もう出し尽くしたと」
「いいや極限の状態がまだ残ってるじゃないか!」
数日後。会社はまた新たなツアーを提供した。
その新規性あふれるツアーはまたたくまに大人気。
貧困の次を担う大ブームのツアーとなった。
暇を持て余していたオフィスはすっかり忙しくなり、
人生の時間を使い潰すにはちょうどいい職場になった。
「こないだのツアー、大成功してよかったですね!」
「ああ。客も大喜びで応募が耐えないよ!」
「ちょっと新ツアーのポスター貼ってきます」
「頼んだ。目立つところに貼ってくれよ!」
新しいツアーポスターは会社の外のガラスに大きく貼り出された。
ポスターは大きく煽り文が書かれている。
『 誰の手助けも得られない場所で
開拓の楽しみを体験しませんか!?
"無人の惑星で植民地開拓ツアー"
- 極限の体験があなたの人生を輝かせる - 』
そのポスターを見た人は、誰もがその足でツアーの申込みへと殺到した。
お金が有り余りすぎた国 ちびまるフォイ @firestorage
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