嗚呼、在りにくしこの世界!

病夢歌音

第1話 転生モノじゃないけど第1話で死にます

 輝希満かがやきみちるはギャルであった。誰にでも優しい、みんなの憧れになるような、そんなギャルであった――いや、そうだったら、良かったのだが。

 実際、みちるは優しかったが……空気が読めなかった。ついつい思った事を全て正直に言ってしまうような性格であった。

 高校デビューでギャルとして、陽キャとして、みちるは生活していくつもりだった。だが、みなみちるを避けた。最初の内こそみんな明るく話してくれた。ただ、やはり空気が読めないのは致命的で、知らず知らずのうちに、みちるはひとりぼっちになった。誰もみちるに話しかけようとしなくなった。

 どれだけ無視されようと、みちるは明るいギャルを演じ続けた。心配されたくなかったから? 自分の心を守りたかったから? ……いや、ただ単に、今更後戻りできなくなったから。ただ、それだけだった。


▫︎☆▫︎ ▫︎☆▫︎ ▫︎☆▫︎


「うー……ん?」


 なんだか、とても深い夢を見ていた気がする。輝希満かがやきみちるは、冷たい床の上に寝っ転がっていた。

 目が覚めた後だというのに、まぶたはすんなり、ぱっちり開く。全く眠くない。初めての感覚だ。

「うぉぅい……しょっと」

 腕をぶんっと振り上げ、勢いと腹筋の力で立ち上がる。そして、そのままあたりをきょろきょろと見回してみる。


 マンガとかアニメとかでよくみるような、デスゲーム会場みたいな、そんな部屋に居るようだった。壁一面灰色コンクリートどころか、床まで灰色コンクリート。正四角形くらいの部屋の四角さ。少しほこりっぽく、まあまあな狭さ。そして目の前の壁の中央には少し小さな黒フレームのモニター。絶対来たことなんて無いのに、すごくすごく、見たことのある景色だ。


 そして、少し前のみちると同じく、冷たい床の上に倒れている少女が何人かいた。1人、2人、……と数えてみたところ、どうやら満を含め7人いる模様。

 気持ちよさそうに寝息を立てている少女、少し苦しそうにうめいている少女、うつ伏せで果たして息ができているのか分からないような少女など、様々だ。

 そして、何故か全員髪色が少し奇抜だった。桃、黄緑、白、赤、黒、青……。


 何をどうすればいいのか、そもそもどういった状況なのかも分からず、みちるはその場にぺたりと座った。

 と、その時だった。


「はいはーい、オマエら、早く起きるです」

 コンクリートをすり抜けて、謎の少女が部屋へと入ってきた。黒っぽい紫色の四つ編みの髪で、スーツを着ており、手には紙とペンが挟まれた艶っぽいボード。

 流石のみちるも動揺を隠せず、何も言葉を発せなかった。何よりも、少女が壁をすり抜けてきたのが驚きすぎて。

 数秒後、みちるは手をついて立ち上がった。


「うう……」

 紫髪の少女の呼びかけで続々と、倒れていた少女達が起き上がってくる。


「寝起きで悪いけど、こっちも忙しいからすぐ説明させてもらうです」

 まだ何も理解できていない少女達を見回し、ふぅ、とため息をつく紫髪の少女。

「私はここの管理者です。名前は無いから……まあ適当に『管理者』と呼べです」

 敬語のようなタメ口のような、特徴的な喋り方で、管理者は説明を続ける。

「オマエらには、これからとあるミッションをクリアしてもらうです」


 それを聞いてみちるはすぐ、バッと手を挙げた。

「そのミッションって、何ですか!」


 ……一瞬、沈黙が流れた。

 みちるの目には一切の曇りが無かった。目を星のようにきらきらと輝かせている。

「……それを今から話すところだったです。オマエは話を最後まで聞けです」

 しまった、と思った。もうこれで何回目だろうか。人の話を最後まで聞かずに質問をしてしまうのは。

 大体自身の失態を気付けないみちるだが、これだけは何回も注意された事で自覚を得ている。


 真っ赤な顔で黙ってしまったみちるに向かって、1人の少女が話しかけてきた。

「うんうん、気になっちゃうよね……。分かるよ、その気持ち」

 話しかけてきたのは黄緑髪(黄緑というよりかはエメラルドグリーンに近いが)の少女だった。にこやかな顔で、年下の女の子をなだめるような口ぶりで。実際年上なのであろう。みちるよりも背が高かった。


 管理者はまた一つため息をついた後、ボードに挟まれた紙を見ながら説明を続けた。

「ま、気をとりなおして…。オマエらにはこれから、ここ日本で暴れてる生霊いきりょう達を沈めてもらうです。ちなみに拒否権なんぞねーです」

 ざわざわ、と否定的なざわめきが広がる。といってもその場には8人しかいないのだが。


「ここまでで質問あるです?」

「いや意味分かんねえし……」

 管理者の言葉に対し、ヤンキー風の赤髪の少女が呟く。

「いきなり変なトコに連れてこられて、デスゲームでもすんのかと思ったら…これから仕事? 自分ら未成年だし、そもそも生霊ってなんだよ?」

 全員の思っている事を代弁する赤髪の少女。


 管理者は顎に手をあて、うーん、と唸る。

「言うと思ったです」

 管理者はまた沈黙し、少し考えた後、また言った。

「マニュアルに書いてないから、自分の言葉で言わなきゃいけないです? めんど……。ちゃんと書いとけです、上のやつら……」

 腕を組み、めんどくさそうな顔をする管理者。


「知らないなら聞けばいいんじゃん……」

 青髪の少女が呟く。口を尖らせ、誰にでも聞こえる大きな声で。

「いや、あー……分かったです。全部こまかーく説明してやるです。オマエらでも分かるように。ノンストップでするからよく聞けです」

 若干見下したような態度で、管理者は説明を始めた。


「まずオマエらは死んでるです」

「え?」

「は?」

 みちると赤髪の少女が思わず声を上げた。

「それからオマエらは生きてる時に人を殺したです」

「うん?」

「へ?」

 今度は黄緑髪の少女と青髪の少女の声がハモる。

「本当は地獄行きだけど、同時期に日本で謎の現象が起こり始めたです。本来幽霊に人は呪えないはずなのに、突然人が呪われ始め、呪い殺されるような事態まで起こり始めたです。調査によるとそれは何らかの原因によって感情が暴れ出した生霊の仕業だと分かったです」

「うん……。」

 何とか理解しようとする黄緑髪の少女。

「そこでオマエらの出番ってわけです。地獄行きの奴らの中で情状酌量の余地があって、かつ重い罪で天国行きにするわけにはいかないオマエらが、この事態を解決するのが得策であって、オマエらにとっても悪い話じゃ無いはずです」

 管理者はボードに書き込みをした後、少女達の方を向いて言った。

「あらためて、なんか質問あるです?」


 死亡、殺人、幽霊、生霊、地獄、天国……満みちるだけでは無い、もう、全員の頭がこんがらがっていた。

 これが第三者視点で、文章になっていれば、ある程度分かりやすいのかもしれない。しかし少女達は当事者であり、いきなり「おまえはもう死んでいる」などと言われている。すぐに飲み込めるはずが無い。


「えっと、……私に、人を、その……殺めてしまった覚えは、無いのですが……」

 黄緑髪の少女が恐る恐る手を挙げながら言った。困り眉で、目はぐるぐるで、心なしか頭の上に星が回っている様に見える。

 みちるも、自分が人を殺めた記憶なんて無い。他の少女達も同様であると言う様に、汗だくでうんうんと頷いている。

「オマエらが変な事しないように、上手い様に殺人の記憶は上のやつらが消してあるです。上のやつらが知ってるのは経緯だけで、オマエらの性格までは知らんし、オマエらが記憶のせいで突然暴れ出したりしたらこっちも上のやつらも面倒です」

 言っている意味は分かるのに理解できない。これが文法的に間違っているのは分かっているが、そう表現するしか無い。

「これで口頭での説明は終わり、ミッション遂行に関しての説明は後でやり方メモを配布するです。あとはまあ2・3人くらいのグループに分かれてもらって、それぞれ別々で行動してもらうです」

 管理者はぱちん、と手を合わせ、「また後ほど」とだけ言ってメモのコピーを取りに行った。少女達の間には、しばし沈黙が流れていた。


 みちるは思考を巡らせていた。いつもであれば、こんな時こそギャルを発揮し、みんなの指揮をとるのに。

 自分は死んだ――。まだ、やり直せると思っていたのに。まだ、クラスのみんなと仲良くなれると思っていたのに。それに、自分が人を殺しただなんて。

 だめだ、思考がおかしくなっている。少し頬をつねって、大丈夫、自分は大丈夫だと無理矢理言い聞かせる。こんな考え方するなんて自分らしく無いと、顔をぶんぶんと振る。


 これからどうなってしまうのだろうか。その問いは、胸の中にもやもやと残ったまま。不安と戦いながら、満達は、少女達は、前へ進まなければならなかった。

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嗚呼、在りにくしこの世界! 病夢歌音 @UtaneYamiyume1336

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