北の国から青春を!! Boys and Girls Be Ambitious!!

のらりくるり

一年生編

プロット1 北の国について

 北海道――森林面積70%。政令指定都市とされている札幌ですら、15分ほど車を走らせれば、広大な緑とそれに群がるエゾシカを見ることができる。


 周りは海に囲まれ、同じ日本にいるにもかかわらず、入出国にはパスポートが必要だと言われる。道外に出る、という行為はそれだけ難易度が高いということだ。


『今年の夏休み東京行く予定でさ〜』


 なんて話そうものなら、ある者からは英雄のように扱われ、またある者からは都会に染まってしまうと本気で危惧される。そしてみんなから、一度はテレビで見たことがあるようなお土産をリクエストされる。


 冬には大量の雪が降り、都市部でも成人男性くらいの高さが降り積もる。朝起きて家の扉が開かないなんてことはざらだ。学生たちは毎朝雪道を開拓し、膝までびちゃびちゃになりながら学校へ向かう。


 誇張でもなんでもなく、文字のまま“試される大地”。それが私たちの故郷、北海道。


 別に不満があるわけじゃない。風は気持いいし、ご飯も美味しい。札駅から離れれば明かりもまばらになり、比較的都市部でもきれいな星空を見ることもできる。


 景色がきれいと言えば世界遺産の知床だってあるし、函館山も藻岩山も日本三大夜景としてもてはやされている。見たことはないけど。


 たくさん降る雪だって、ちょっと冷たいだけの天然クッションのようなものだし、2月には巨大な雪像の一部になる。雪の中を散歩するペンギンだって見れるし、氷で遊ぶホッキョクグマだって見れる。


 観光地に行きたい都道府県ランキング堂々の一位。ここに来れば食も、観光も、なんでもある。なんだってできる。それが私の暮らす自慢の街、北海道。


「なんで!? 去年までは来てたのに!!」


 まぁ、あえて不満を上げるのであれば、“本州では開催されている大半のイベントを、道民が楽しむことは難しい”という点だろうか。


 私――白石雪菜は悲鳴のような落胆の声を上げ、スマホをベットの上に放り投げる。あまりにも無慈悲な見出しから目を背けたかった。


『3大ドームツアー 開催決定!!』


 お気に入りの羊のぬいぐるみに顔をうずめる。こんなふてくされ方、高校生にもなってどうかと思う自分もいるが、そんなこと気にしている余裕なんてなかった。


「絶対……絶対にこんなとこから出てってやるんだからー!!」


 普通に暮らしていく上では別に不満ってわけじゃない。ただ、私のような人オタクが生きていくには、ほんの少しだけ、生きづらい場所なのかもしれない。

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