第2話【転魂の儀式】
「…なんという美しさ…。生前は、美貌と実力を兼ね備えた完璧な冒険者だったでしょうね。」
物言わぬ美女を挟んで、無骨な冒険者と対峙している。
「で、ミクロさん。この後、どうするんですか?」
「実は、新しい器を探している人が居てですね。…不服ですが、順当にいったらその人の器になりますね。」
「…残念。俺も転魂するなら、こんな器にしようかと思ってたんですけどね。」
「ん。ちょっとその話詳しく…。…おや。」
その時、鉄の扉からコンコンコンと素早く音が鳴り、小さく籠った、しかし緊張が伝わる「助けてくれー!」という声が聞こえ、二人の会話は中断された。
私とゴロウは一瞬顔を見合わせ、扉に意識を向ける。
「はい、今開けますよー!」
向こうに聞こえるかは分からないが、精一杯の声を出しつつ扉に向かい、扉の鍵を開けた。
そのまま急いで扉を開けた瞬間…。
(どさあっ!)
老人が一人、傾れ込むように入ってきてそのまま倒れた。
彼はゴホゴホと咳をし続けていて、顔色は薄らと青ざめている。
ボロボロになった低層の冒険用の装備を着けていて、その苦し気な印象に拍車を掛けていた。
そんな彼の名前は…。
「ホラルドさん!?また、ですか…。」
彼はこくりと頷いて肯定した。目の焦点が定かでは無い。
「この間、魔物の毒にやられて…ゴホ、対処を、誤ってしまったんだ。それで、毒を拗らせてしまって…。この器は、もう長く無い。」
少し声を出しただけで苦しそうだ。
「ミクロさん。助けてあげましょうよ。…”転魂の巫女”、なんですから。」
ゴロウは、この状況に似合わない楽しそうな声色で言った。
「仕方がないですね。見せてあげましょうか…。私にしかできない秘術。『転魂の儀式』を。」
突貫で、儀式の準備をすることにした。
やはりこの時が一番、転魂の巫女としての血が沸き立つ。
「まずは、ホラルドさんを転魂の装置に運搬します。ゴロウ。そこに運んでください。」
私は部屋の奥の二つの大きなカプセル型の装置を指さした。
カプセルとカプセルの間はいくつもの配線で繋がっており、その科学的な雰囲気はこの部屋に似つかわしくないものである。
「…ええと、どちらに入れたら良いのでしたっけ?」
「左の青いカプセルです。開けるので放り込んじゃってください。」
私はレバーを操作し、カプセルの扉を開ける。
コックピットのような内部が露になった。
それは今から始まる儀式の神聖さに比べて酷く無機質であった。
「よい…しょ。」
ゴロウは流石に雑に放るようなことはせず、座席に丁寧にホラルドを座らせた。
先ほどよりかなり顔色が悪く、息も絶え絶えだ。
「ホラルドさん、あとちょっとの我慢ですからね。」
老人は頷くのもやっとのようであった。私は扉を閉じ、小窓からその器が動く最後の姿を見届けた。
「よし。次に、新しい器の準備です。…さて、どうしたものやら。」
ホラルドさんは非常に貧乏だ。
下手に良い器を与えても、代金が返ってくるとは限らない。
「ミクロさん。これはどうですか。」
逡巡しているうち、巨体の冒険者が、片腕で軽々と棺を担いできた。
その姿はさながら地獄の死神のような威圧感があった。
「そ、それは…。確かに…。」
白のマークをつけてある棺には、黒い文字で雑に『D級』と書きなぐってある。
まさか、この器の出番があるとは。
私は心の中で、在庫処分が出来ると少し喜ぶ気持ちがあった。
「…空けても?」「どうぞ。」短く言葉を交わす。
ゴロウが神妙に棺を空けると、そこには…。
「ジジイじゃないですか。」
横に転がっている死にかけのジジイより、死にかけの…いや、死んでいるジジイがそこにいた。
「仕方がありません。これにしましょう。」
今は四の五の言ってられない状況。
文句は転魂が済んだら受け付けよう。
「よし。それではこのD級の器を右の赤いカプセルにセットです。」
ゴロウがあっという間に運んでくれた。一人だと地味にきついので助かる。
「ありがとうございます。これで、『転魂の儀式』の準備は完了です!」
私は、先ほどから机に投げっぱなしだった伝説の魔封具を手に取り、青いカプセル…ホラルドさんが入っている方の前に立った。
あとは、私がいつも通りの力を出すだけ。
儀式で行われる内容の重大さに比べて、私の気持ちは落ち着いて無風の大海原のように落ち着いていた。
「さあ、新たな器を求める貪欲な魂よ。願わくば、その旅路に幸あらんことを!『流転魂魄』!」
その呪文を唱え、杖に集めた魔力をカプセルに向け一気に魔力を放出し、杖に集まった光がカプセルに注ぎ込まれる!
光はカプセルの中で変容し、魂を器から分離させる力となる。
「これが、リンドウの力…!なんと凄まじい…!」
やがて、魔力の光は二つのカプセルの間の配線を電撃のように伝って、新しい器の入ったカプセルを満たしていく。
「よし。魂と器の分離は成功ですね。ホラルドさん、かなり弱っていたので心配でしたが。」
一番のネックだった工程が終わったのを見て、ほっと胸をなでおろす。
「さあ、あとは新しい器に魂が融合するのを見守るだけです!」
「いよいよですね…!」
配線を走る魔力が全てカプセルに移り、その激しさが徐々に落ち着いていく。
暖かい緑の光が、新しいジジイの器をじんわり優しく包み込んだ。
そして…。
静かに…まるで重い扉を開けるようにゆっくりと、器の瞼が開いた。
「おお…器に魂が宿った…!」
「これが、私とリンドウにしか出来ない、転魂の力。魂を器から切り離し、別の器に結合し…不老不死を実現する秘術です!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます