良い死体、入荷してます。

虹雷

第1話【美しい冒険者の死体】

 モンスターの呻き声が四方八方から聞こえる、森のダンジョンの奥深く。


「うほ。これは久しぶりに『良い商品』になる予感がします!」


 眼の前に横たわる『それ』は、かつての姿が想像できないほどに損傷していた。

 しかし、装備の端々から、生前どれだけの活躍をしてきた冒険者かが読み取れた。

 ミスリルシリーズの防具に、複数のエンチャントに対応した刀。

 A級か、S級か。期待に胸が高鳴る。


「さて…長居は禁物ですね。ゴロウ、今日はコレを持って帰りますよー。」

「…承知。…ですが、ミクロさん。処理を…。」


 ゴロウは元々険しい顔をさらにしかめながら、地面のそれを指さした。


「ああ、失敬失敬。…よいしょっ。」


 言いながら、私は特製の魔封具…いわゆるマジックアイテムを取り出した。


「死者よ、静謐なる眠りにつきたまえ。エレガント・リポーズ!」


 呪文を唱え、魔封具を眼の前の死体に振りかざす。

 すると、魔封具から光のヴェールがふわりと広がり、聖母のように優しく死者を包み込んだ。


 死の香りが和らいだそれを2人で棺桶に収める。これで、死体の保存は完了。

 ゴロウは、嫌な作業が終わったことであからさまにほっとした表情を見せた。


「…ありがとうございます。それでは、参りましょう。」


 大股で地面を踏みしめ先導するゴロウに続き、私は森の外に向かって歩き出した。

 棺桶を運ぶ彼は、頼りになる背中がより一層大きく見えた。



「…ミクロさん。着きましたね。」

「ありがとうございました!いつも頼りになります。」


 森の外に着くまでに、器が盗賊団に奪われかけたり、迷い込んだ駆け出しパーティがトロールに潰されて全滅する現場に出くわしたりしたのだが、概ね問題無く帰還した。

 戦闘が苦手な私がダンジョンの深層に入るには、ゴロウのようなベテランの助けを得ることが不可欠である。


「…今から、作業ですか?」

 巨体に似合わない小声で、ゴロウが言った。


「ええ、そうですけど。何か?」

「…ちょっと、見せてもらえないかなって。」


 普段なら、適当にあしらって返すところだったが…彼に関しては、特別だった。


「しょうがないですねぇ。今日だけですよ?」


 ゴロウの好奇心を背に感じつつ、重い鉄扉を押し開けると、年齢を重ねた冷たい石の匂いが私達を出迎えた。


「さあ、これが私の工房です。いかがですか?…あ、入るのは二回目でしたね。」

 灰色の巨石で組まれた家の内部には沢山の積まれた棺と、仕事のための魔封具が私の使いやすいかたちに収まっている。


「まぁ…ミクロさんって感じの部屋ですね。」

 そう話すゴロウの目線は、私の仕事道具でなく雑多に散らばった服や片づけられていない食器に向いていた。

 失礼な奴め。


「…こほん。では早速始めましょうか。さっきの死体を、この台の上に。」

 ゴロウは指示を素直に聞いて、先ほど森で見つけた死体を棺桶から取り出し、作業台の上に置いた。

 高価そうな装備が明かりに照らされ放つ輝きと、物言わぬ死体のコントラストに私は興奮を覚える。


「よし、保存はしっかり効いていますね。それでは復元の魔法に取りかかります!」

 私は傍の棚から杖の魔封具を取り出し、死体の上に振りかざす。


「おぉ…!」

 ゴロウが眼を見開き、息を呑むのも無理は無い。


 この杖はこの地に伝わる伝説の魔封具の一つ、「リンドウ」。

 ベヒーモスやユニコーンその他諸々の魔物の素材や煌びやかな宝石が埋め込まれており…めちゃくちゃ重い。

 その能力は…。


「刮目して下さい。これぞリンドウの秘術!『身羅再生』!」


 杖を振り上げ、体内の魔力を一気に注ぎ込む。

 すると、この世界の何処かから死体を再生させるのに必要なエネルギーが集まってきて、魔力と交わっていく!


「さあ、あなたの本来の姿を、見せちゃって下さい!」


 そして、杖に集まった巨大なエネルギーを死体にぶち込むと、巨大な光が死体を包み、失われた肉と美貌を急速に取り戻していく!


「ふぅ…。…終わりました。」


 これで、復元の魔法は遂行完了。大きな杖で丁度隠れて見えなかった死体の顔を、恐る恐る覗き込む。


「こ、これは…!」


 まるでお伽話の眠り姫のように…とても高貴で、美しい顔がそこにあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る