第2話5年後

案外、月日は早く流れた。もう俺は5歳になり、ある程度喋ることができる歳になった。打ち明けるなら、そろそろだろうか。そんなことを迷っていた



◇◆◇◆



この世界には保育所や幼稚園がないようで、基本は親などが教育を行うらしい。

「ルーシャ、文字の読み書きできるようになってきたね」

そう言いながらイリエさんは優しい手で俺の頭を撫でてくれた。この世界の文字は、特殊な文字だったが、不思議なことに、体が勝手に理解していた。そして俺は、気になっていたことを聞いてみた。

「僕に、お父さんはいるの?」

「……」

彼女はその言葉を聞いて驚いた表情になったが、すぐに優しい顔に戻した。もしかしたら、聞かない方がよかったかもな。そう頭をよぎったが、彼女は少しの無言の後、口を開いた。

「あなたのお父さんは、いなくなっちゃったの。でも、立派な人だったのよ」

寂しそうな表情で彼女はそう言った。すぐにハッとした表情になったイリエさんは、またすぐに笑顔に戻して、

「よし、今日の勉強はこれで終わり。お散歩行こっか」

「あ、うん。わかった」

イリエさんも、気分を変えたいんだろうと思い、俺は同意した。



◇◆◇◆



家を出ると、大きな高原が広がっていた。少し遠くに町が見えて、かなり見晴らしが良い。母さんは俺の手を握り、俺は握り返した。少し歩いていくと公園があるので、恐らくその場所に向かっているんだろう。時々、スライムがいるが、イリエさん曰く、こっちから攻撃を加えない限り攻撃されないらしい。そんなことを考えながら歩いていると、公園に着き、イリエさんはベンチに腰掛け、こう言った

「アズサちゃんがいるわよ。一緒に遊んできたら?」

「わかった」

アズサというのはこの公園で知り合った女の子で、優しく、とても大人しい性格の子だ。俺はしゃがみ込んでいるアズサに近づくと、アズサはそれに気づいてこちらに振り返った。

「よ、アズサ」

「来たんだね、ルーシャ」

長い黒髪をなびかせながら、笑顔で彼女はそう言った。アズサが地面の砂に何か書いていることに気づいた俺は、

「何書いてるの?」

と聞いた。すると、

「魔法陣だよ」

笑顔でアズサは言った。俺は少し驚いた。俺が一度魔法についてイリエさんに聞いた時は、「まだルーシャには早いよ」と言われたのでてっきり、学校に入学するまではそういう知識は必要ないと思っていた。

「ルーシャ、見ててね」

そう言いながらアズサは少し力を込めていた。




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