第20話:正しい商いには、人が集まる
その日、村に土煙が立った。
いつもなら旅人の出入りで起きるものだが、今日のは違う。
重く、濃く、そして長い。
まるで大蛇が村へ向かって進んでくるかのようだった。
「……キャラバンだな」
父がつぶやいた。
やがて馬車の列が姿を現し、その中央に豪華な装飾の馬車が一台。
「あれは……商会のキャラバンじゃ……」
おじいさんの声が低くなる。
そして馬車の扉が乱暴に開き、皺を刻んだ顔の男――会長らしき人物が怒りの形相で飛び出してきた。
「てめぇら! どういうつもりだ!!」
村人たちがびくりと肩を縮こまらせた。
会長は杖を地面に叩き、それが乾いた音を響かせる。
「薬草が! ポーションが! ぜんっぜん売れん!! ワシの商会は三十年やってきたんじゃぞ!? それが……ガキの遊びみたいな商いのせいで滅茶苦茶だ!」
怒鳴り声が村中に突き刺さる。
しかし――キャラバンの商人たちを見ると、彼らは疲れきっていた。
やせ細り、顔に生気がない。
(……この人たち、買い叩かれてたんだろうな)
私は一歩前に出た。
「こんにちは、商会の会長さん。今日は何のご用件ですか?」
「貴様ぁぁぁぁ!!」
会長は私を見るや否や、顔を真っ赤に染めて怒鳴った。
「てめぇのせいでワシの在庫は山積みじゃ! 冒険者はお前の所ばっかりに売るし、村は買い叩かれるのを嫌がる! 何様のつもりだ!!」
私は静かに言った。
「買い叩いていたのは、会長さんですよね?」
キャラバンの商人たちが、一斉に息を呑んだ。
会長の目が怒りで震える。
「はぁ? なんだと?」
「薬草も、ポーションも……“正当な価値” より低く買っていたのは商会です。だから、生産者も村人もみんな離れた。悪いのは私ではなく、“正しく支払わなかった” ことです」
村人がどよめく。
キャラバンの商人たちの目に、初めて火が灯り始める。
会長は唾を飛ばして叫んだ。
「ガキが偉そうにッ!!」
次の瞬間――杖を振り上げ、こちらへ殴りかかろうとした。
「危ないッ!!」
「やめろ!!」
剣士の青年、魔法使いのお姉さん、筋肉の斧使い……いつの間にか集まっていた冒険者たちが、一斉に飛び出した。
「坊やに手ぇ出すな!!」
「この子は私たちの“信用”だ」
「暴力で黙らせようなんざ、三流以下だぜ!」
数人の冒険者が会長を押さえ込み、杖が地面に転がった。
「離せ! 離さんか!!」
「やめたほうがいいですよ、会長さん。今ここで暴力に走って得する人はいません」
私は近づき、会長の顔を真正面から見た。
「私たちのファンドは、“正しい取引” で得た利益で回しています。薬草を育てる人も、売る人も、加工する人も、冒険者も……みんなが“損をしない仕組み”です」
キャラバンの商人たちが小さく頷き始めた。
「正しく支払ったら、どうなると思いますか?」
私はゆっくり言葉を置いた。
「人が集まってきます。商品が集まってきます。そして……信頼が集まってきます」
商人たちの目に光が宿った。
「ワシの商会は……損をしないために買い叩いたんじゃ!!」
「だから、信頼が減っていったんです」
会長が口を閉ざした。
私は振り返り、キャラバンの商人たちに向けて言った。
「みなさん、この数年……疲れませんでしたか?」
「……疲れた」
「買い叩いて、客は離れ……」
「やりがいなんて、どこにもなかった……」
「でも、カイ坊の村は違った……」
「正しく払って、正しく返す……」
「そんな商売、久しぶりに見た……」
彼らの声は震えていた。
「私は“生活支援ファンド”という仕組みを作りました。みんなが出資し、必要な物が必要な人に届く仕組みです」
商人たちが息を呑む。
「そして、これからは――“新しい商会” を作ります」
村人、冒険者、キャラバンが一斉にざわついた。
「商会……?」
「カイが……?」
「まさかそんな……!」
私ははっきりと言った。
「はい。正しい値段で買い、正しい値段で売り、苦しい人には助けを送り、出資してくれた人には利益を返す――そんな“信頼で動く商会”を作ります」
キャラバンの商人たちの目が一気に輝いた。
「……そんな商会で働きたい」
「正直な取引がしたい……!」
「俺らにも……仲間に入れてくれ!」
会長が怒鳴る。
「勝手なことを言うな!! お前たちはワシの――」
「会長、もう無理だよ……」
「俺たちは……正しい商売がしたいんだ」
「ずっと、そう思ってたんだ……」
会長の叫びは、もう誰の心にも届かなかった。
私は小さく頷いた。
「ようこそ。今日からあなたたちは――“生活支援商会” の一員です」
「「「おおおおおお!!」」」
キャラバンの人々は歓声を上げ、涙を流し、手を取り合った。
会長だけが、叫びながら地面を叩いていた。
「こんな……ガキに……!!」
(ガキじゃないよ)
私は心の中で小さく呟いた。
(人を信じて、“正しい商売” をしているだけだ)
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