第3話:初めての投資先は家族会議で決めよう

翌日。

朝から我が家では珍しく全員がそろって食卓を囲んでいた。

仕事の前に、父が「大事な話がある」と告げたからだ。


「昨日カイに言われて、少し考えてみたんだが……」


父は湯気の立つスープを前に、腕を組んで唸っていた。

唸っている時間のほうが、スープを飲む時間より長い。


「薬草の仕入れを増やしてみるのは、悪くないかもしれないと思ってな」


「お父さん、それって……」


「家計の立て直しだ!」


父が胸を張ると、母がぱちぱちと拍手した。

私はといえば、心の中でそっと頷いた。

(昨日の説明、ちゃんと伝わってたんだな……よかった)


「ただな、問題がある。仕入れを増やすってことは、それなりに資金が必要なんだ」


そう。ここが肝心だ。


どれだけ良い投資先があっても、元手がなければ話にならない。


この家計に残っているお金は多くない。

だからこそ、私はずっとタイミングを見ていた。


(ここで提案するしかないよね)


「ねえ父さん。だったらさ、資金を増やせばいいよ」


「増やす? どうやって?」


「出資を募るの」


「出資……って、誰から?」


「家族から」


父と母が同時に首をかしげる。


「いやカイ、お前……家族って、今この場にいる三人しかいないんだぞ?」


「うん。だから三人から出資してもらえばいいんだよ」


私は食卓の中央に、紙切れを三枚並べた。昨日のうちに用意しておいたものだ。


「これ、出資証書」


父が驚いた顔をして紙をじっと見る。


「お、お前……いつの間にこんなものを……?」


「昨日の夜。机で」


「三歳児が机で出資証書を書く家って、そんなにないと思うよ……」


母が苦笑していたが、責められてはいない。

むしろ嬉しそうだった。


「じゃあ、こうしよう。父さんは手持ちの銅貨十枚、母さんは五枚。そして私は……仕事の手伝い分の報酬として、これまで貯めてた分の三枚」


「カイ、お前そんなに貯めてたの?」


「うん。あんまり使うことないから」


父はしばらく紙を見つめて、それからぽつりと呟いた。


「これ、本当にうちでやるのか……?」


「うん。本気だよ。私がこの家の資金を増やすから」


父は目を丸くしたまま、母のほうを見た。

母は微笑んでいる。


「カイが言うなら、私は賛成だよ。あの子、妙に計算強いし」


「妙に、って言わなくても……」


私は小声で抗議したが、母は笑って続けた。


「失敗しても、家族の間なら怒る人はいないしね」


父が大きく息を吐き、ゆっくりと頷いた。


「わかった。やってみよう。家族で出資して、家族で商いを大きくする。いいじゃないか!」


「じゃあ、契約成立だね」


私は三枚の証書を父と母に渡し、自分の分を胸にしまった。


(これで……最初のファンドができた)


まだ規模はとても小さい。

でも、それでいい。


最初の一歩を踏み出すことが、一番難しくて、一番大事なのだ。


「よし、じゃあ今日から気合い入れて働くか!」


「うん! 回転率を意識してね」


「回転率ってなんだ……?」


「まあ、やってるうちにわかるよ」


父が困った顔をしていたけれど、母はまるで遊びの延長みたいに楽しそうだった。


――こうして私は、世界で最も小さな投資ファンドを立ち上げた。


いつか利回りで世界を救うための礎が、この朝の食卓で静かに築かれたのだ。

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