最果てダンジョンの満腹食堂 ~追放された聖女(偽)は、魔物肉で胃袋を掴む~
@jatp5287nato
第1話
プロローグ:追放された聖女(偽)と、空腹の限界
「――というわけで、君には出て行ってもらいたい」
王城の豪奢な謁見の間。シャンデリアのきらめきが目に痛いほど眩しいその場所で、第一王子アルフレッド様は冷ややかな声でそう告げた。 私の隣には本物の『聖女』シルビアちゃんが立っている。対して私は、エリゼ・カミシロ。二十二歳。元居酒屋の雇われ店長だ。
「理由は、私のスキルが『役に立たない』からでしょうか?」 「自覚があるなら話が早い。君のスキルは【魔法厨房】と【鑑定】。ただの飯炊き女など、魔王討伐の旅に連れて行けるわけがないだろう」
こうして私は、金貨十枚を手切れ金に国を追放された。 それから一ヶ月後。私は大陸の最北端、最果ての街『エッジワース』に辿り着いていた。
「……お腹すいた」 街の屋台は『黒焦げ肉』か『謎のドロドロスープ』しかない。私の【鑑定】スキルは全てに警告色を出している。 「食べるものがないなら、作るしかないじゃない」 私は決意の眼差しで街の外――魔物が跋扈する森へと視線を向けた。
第1話:プルプルな魔物は、黒蜜きなこの夢を見るか?
街の外、通称「迷いの森」。 私はスキル【魔法厨房】で愛用の包丁を具現化した。 「ぴぎっ?」 目の前に現れたのは、青いゼリー状の物体。スライムだ。
【対象:ブルースライム】
推奨調理法:核を摘出後、冷水で締め、甘味または酸味のあるタレと合わせる。
「……いける! わらび餅だ!」 私はスライムを解体し、魔法で生成した「きな粉」と「黒蜜」をたっぷりとかけた。 口に入れると、ひんやりとした冷たさと、もちもちの弾力。 「おいしい……! これ、日本のわらび餅より好きかも……!」
「……おい」 背後から低い声がした。振り返ると、巨大な大剣を背負った強面の男――ヴォルフが立っていた。 彼は私の手元のスライム(きな粉まみれ)を凝視し、ゴクリと喉を鳴らした。 「……食えるのか、そんな青いのが」 「よかったら食べます?」
男は恐る恐る口に入れ――カッと目を見開いた。 「なんだこれは……! 甘い……美味い……!」 どうやら、胃袋を掴むことには成功したようだった。
第2話:強面(こわもて)の傭兵と、オーク肉の生姜焼き
「俺はヴォルフだ」 スライムを完食した男は、Sランク冒険者だった。彼は私に「専属料理人」のような契約を持ちかけてきた。 「俺が食材を持ってくる。お前が料理する。それを俺が食う」
彼が狩ってきたのは、巨大なハイ・オーク。 「臭くて靴底みたいな味だぞ」と言う彼に対し、私は生姜をたっぷり使ったタレを作る。 ジュウウウウッ!! 香ばしい醤油と生姜の香りが森に広がる。
「なんだこの暴力的な匂いは……!」 丼飯の上にたっぷりと肉を乗せた『オーク肉の生姜焼き丼』。 ヴォルフさんは一心不乱にかきこんだ。 「肉が柔らかい……脂が甘い! なんだこれは!」 完食した彼は、真剣な顔で言った。 「エリゼ。街に戻ったら店をやれ。俺が毎日通う」
第3話:ギルドの戦慄と、幽霊物件
街へ戻り、ギルドで素材を換金した私たちは、ヴォルフ紹介の物件へ向かった。 そこは裏路地にある廃屋同然の元酒場『赤髭亭』。 「……汚いな」 ヴォルフさんは顔をしかめたが、私の目には輝いて見えた。 「磨けば光りますよ。私、ここを『満腹食堂』にします!」
第4話:魔法厨房(マジック・キッチン)vs 十年分の油汚れ
翌日、大掃除を開始。 「【魔法厨房】、展開! 対象:店舗内全域!」 私は調理用の洗浄スキルを応用し、熱湯と泡で十年分の油汚れを瞬殺した。 ピカピカになった店内に、ヴォルフさんも呆れ半分、感心半分だ。 「お前、本当に聖女か? やってることが職人なんだが」 厨房の魔道コンロも魔力で修理完了。舞台は整った。
第5話:最強の集客兵器、その名は『揚げ油の匂い』
記念すべき第一弾メニューは「コカトリスの唐揚げ」。 ニンニク醤油に漬け込んだ肉を、高温の油へ投入する。 強烈な飯テロの匂いが路地に漏れ出した瞬間、店のドアがバン!と開いた。 「おい! ここで何を焼いてる!?」 入ってきたのはギルドマスターのドワーフ爺さんだった。 揚げたてを食べた彼は絶叫した。 「外はカリカリ、中はジューシーじゃ! 酒を持ってこい!」 即座に営業許可が下りた。
第6話:開店! 『満腹食堂』
開店当日。最初は客が来なかったが、換気扇から「唐揚げの匂い」を全力で放出したところ、冒険者たちがゾンビのように吸い寄せられてきた。 「うめぇぇぇぇッ!!」 「なんだこの柔らかい肉は!?」 店は大盛況となり、食材が完売するまで客足が途絶えなかった。
第7話:ドワーフの宴と、シュワシュワの魔法水
夜の営業は居酒屋状態に。 ドワーフたちは、私が作った「ハイボール(強炭酸酒)」に夢中だ。 「くぅ〜っ! この喉越し! いくらでも飲めるわい!」 ヴォルフさんはカウンターの隅で、静かにオークハンバーグを味わっていた。 「エリゼ。お前の料理は、腹だけじゃなくて……胸の奥が満たされる」
第8話:金貨の匂いを嗅ぐ商人と、スライムの衝撃
商業ギルドの理事ボルマンが来店し、レシピの買収を持ちかけてきた。 断ると「潰してやる」と脅されたため、勝負をすることに。 出したのは「スライムの水信玄餅風」。 ガラス細工のように美しい透明な菓子を食べ、ボルマンは完敗を認めた。 「私の負けだ……金貨などで買える技術ではなかった」 彼は逆に強力なスポンサーとなり、食材ルートを提供してくれることになった。
第9話:Sランク冒険者の意外な好物
毎日店を手伝ってくれるヴォルフさんのために、まかないで「オムライス」を作った。 ふわとろの卵とケチャップライス。 「……優しい味だ。孤児院の頃を思い出す」 強面のSランク冒険者が、少年のように頬を緩める姿に、私の胸も温かくなった。
第10話:クラーケンの逆襲(物理)と、ソース焼きそば
巨大イカ「ランド・クラーケン」を入手。 硬い肉質をヴォルフさんの拳(物理)で叩いて柔らかくし、「ソース焼きそば」を開発。 ソースの焦げる香りが食欲中枢を刺激し、新たな看板メニューとして定着した。
第11話:貴族街からの刺客
ライバル店『銀の匙』亭からの圧力で、市場の食材を買えなくなった。 エリゼとヴォルフは森へ直行し、魔物野菜を現地調達。 「スタミナ魔物肉丼」などのB級グルメを提供し、逆に「精がつく」と評判になり客が増えた。
第12話:俺たちの食堂は、俺たちが守る
『銀の匙』亭が雇ったゴロツキが店を襲うが、常連の冒険者たちが瞬殺して追い払った。 「俺たちの女神の店に何しやがる!」 店は完全に「みんなの居場所」となっていた。ヴォルフさんと常連たちと祝杯をあげる。
第13話:深層からの『赤い悪魔』
ヴォルフさんがダンジョン深層から激辛植物「ヘル・ペッパー」を持ち帰る。 私はこれを使い「激辛麻婆豆腐」を作成。 「辛ッ! 痛い! でも止まらん!」 ヴォルフさんは滝のような汗を流しながら完食し、謎の爽快感に包まれた。
第14話:激辛テロと、赤き行列
麻婆豆腐の匂いが街に広がり、激辛ブームが到来。 そんな中、ダンジョンで遭難して衰弱した冒険者カイルが店に辿り着く。 彼に激辛は無理なので、消化に良いメニューを作ることに。
第15話:命を繋ぐ『黄金の中華粥』
カイルのために作ったのは、コカトリスの出汁で煮込んだ「中華粥」。 食べたカイルは涙を流して回復。 「美味い……味が体に染み込んでくる……」 翌日、彼の古傷まで完治していたことが判明し、ギルドが騒然となる。
第16話:発覚! エリゼの『飯バフ』効果
ギルドでの検証により、エリゼの料理には「食べた人のステータスを上げる」バフ効果があることが発覚した。 ギルドマスターはこれをトップシークレットとしたが、噂は風に乗って王都へ漏れ始めていた。
第17話:王都からの招かれざる客
王都の近衛騎士団長ガストンが現れ、エリゼを軍事利用するために強制連行しようとする。 「お前のような無能でも、道具としてなら使い道がある」 拒否するエリゼに剣を向ける騎士たち。 その時、ヴォルフが立ちふさがった。
第18話:Sランク冒険者 vs 王国騎士団長
「俺はこの店の用心棒だ」 ヴォルフは素手でガストンを一撃で吹き飛ばした。 「王家の権威なんぞ知らん。二度と来るな」 騎士団を追い返したヴォルフは、不器用に言った。 「お前がいなくなったら、俺の晩飯はどうなるんだ」
第19話:奈落の顎(あぎと)が吠える時
ダンジョン・スタンピード(魔物暴走)が発生。 ヴォルフは前線へ向かい、エリゼは避難を命じられる。 しかし、「腹が減っては戦はできない」と、エリゼは店に戻り、大量の炊き出し準備を始めた。
第20話:戦場には『絶望』と『乾パン』しかない
三日間の防衛戦で疲弊し、絶望する冒険者たち。 そこにエリゼがリアカーで突入し、「特製・オーク豚汁」と「おにぎり」を配り始めた。 温かい食事に、兵士たちは涙し、気力を取り戻す。
第21話:起死回生の『豚汁(トンジル)』バフ
豚汁を食べた兵士たちに強力なバフがかかり、戦況が逆転。 「力が湧いてくるぞ! オークども覚悟しろ!」 しかし、敵の親玉であるレッドドラゴンが出現。ヴォルフが一人で立ち向かうが、疲労で限界を迎えていた。
第22話:最強の補給物資、その名は『カツサンド』
ドラゴンのブレスが迫る中、エリゼは魔道二輪車で戦場を駆け抜け、ヴォルフに「特製カツサンド」を投げ渡した。 「これを食べてッ!!」 食べたヴォルフは全ステータスが300%上昇。【起死回生】の効果が発動する。 「食った分は……働かせてもらうぞ!!」
第23話:勝利の女神はエプロン姿
覚醒したヴォルフの一撃が、レッドドラゴンの首を切り落とした。 エッジワースは守られた。 戦いの後、ヴォルフは「今までで一番美味かった」と笑い、エリゼの肩で寝落ちした。
第24話:王都からの手紙と、私の答え
復興した街に、王都から「筆頭料理長として戻れ」という手紙が届く。 エリゼはその手紙を迷わずコンロの火で燃やした。 「私の居場所はここです」 ヴォルフと共に、この街で生きていくことを選ぶ。
第25話(最終話):いらっしゃいませ、満腹食堂へ!
今日も『満腹食堂』は大盛況。 ドラゴンステーキなどの新メニューも加わり、店は笑顔で溢れている。 「いらっしゃいませー!」 追放された聖女(偽)と、最強の冒険者が営む食堂の物語は、これからも続いていく。
(第1巻・完)
最果てダンジョンの満腹食堂 ~追放された聖女(偽)は、魔物肉で胃袋を掴む~ @jatp5287nato
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