RED(I) AFTEA -STONE RIVER-
藤原侑希
1 STONE
此処は一体何処だ?他の3人は??何処にいるんだ???まるで見当がつかない。
足元はゴツゴツとした石と冷たい砂だ。おかしい。変だ。俺は、俺達は間違いなく死んだはずだ。呼吸が止まった時の苦しさはまだ生々しく覚えている。それとも、まだ生きているのか?
辺りを見渡すと、どうやら大きな河の岸辺に立っている。水面上を含め辺り一面には濃い白い霧が立ち込めていて対岸どころか、数メートル先も見通せ無い。見覚えのある白い闇だ。不快な湿気が身体に纏わりつく。
自分の体を調べると何の怪我も無く、身に付けている物も普段と変わらないTシャツとジーンズだ。靴も同じ様に普段と変わらないアディダスのスニーカーだ。他には何も身に着けてい無い。
自分に何が起こったのか、全く理解出来無い。周辺を調べると共に、3人を探す事にした。
一度、水に手を入れて流れの向きを確かめると、何の考えもないまま、上流に向かって歩き難い岸辺で歩を進める。
何故なのか、まるで疲れず、空腹も感じず、幾らでも歩ける。
深い霧のせいか、どれだけ移動したのかまるで見当がつかない。
歩みを進めると、遥か遠くに2人の人影が微かに見えた。その人影を目指す事にした。
二つの人影に近づくのに比例して、焦げ臭さと、生ゴミの匂いが強く鼻につく。
酷い悪臭だ。
果てしない距離を歩いた様に感じる。漸く2人の前にたどり着いた。
1人は眼鏡を掛けた焼け焦げた男。焦げ臭さはコイツからか。
もう1人はおかしなパーマの髪型でこんなに足場が悪いのに草鞋を履き、この濃霧の中で無意味なサングラスを掛けた首に縄の輪を巻き付けた男。輪を作った縄の余りが足元まで垂れ下がっている。生ゴミの匂いはコイツか。
他人の事をとやかく言えないが浮世離れした連中だ。
「恐れ入るが
此処が何処なのか?
私の連れの3人が
何処に居るのか
ご存じならば
教え頂きたい。」
「赤い炎の男よ。
此処はイシの世界。」
首に縄で出来た輪を巻き付けた生ゴミ男が答える。
「赤い炎の男よ。
姉たる黒い女
妹たる白い女
妻たる青い女
3人共に、
それぞれ
相応しい場所で
相応しい者に
貴殿同様
今頃会っている。」
眼鏡を掛けた焼け焦げた男が代わって答える。
2人共に話し方も浮世離れしている。
「貴殿ら2人が
私が会うに
相応しいと
仰るのか?」
「そうだ。
だが、
我々は
単なる始まりに過ぎない。
そして
此処はイシの世界だ。」
再び、首に縄で出来た輪を巻き付けた生ゴミ男が答える。
「そうだな。
2人が仰る通り
辺りは
見渡す限り石だらけだ。」
俺は2人に向けて答えた。
「重ね重ね
恐れ入るが
此処から離れるには
河上に向かうべきか
河下に向かうべきか
ご存じならば
お教えいただきたい。」
そう尋ねると、2人は口元に皮肉な微笑を浮かべた。
「我々2人が
貴殿に
教えられる事は
最初から何も存在し無い。
ご自身の判断で
これまでの様に
決定されるがよかろう。」
眼鏡を掛けた焼け焦げた男が答える。
「だが
貴殿が望むのならば
此処から抜け出す
方法をお伝えする事だけは
出来る。」
首に縄で出来た輪を巻き付けた生ゴミ男が答える。
「それは?」
「赤い炎の男よ。
此処
イシの世界から
抜け出す為には
自分の背の高さと
同じだけ
足元にある
イシを積み上げるのだ。
それを成すまでは
このイシの世界から
抜け出す事は叶わん。」
眼鏡を掛けた焼け焦げた男が答える。
「それ以外に
此処から抜け出す事は
出来ぬ。
どれだけ
刻が流れようが
決して
誰も
何も
此処に
貴殿の為に
助けは来ぬ。」
首に縄で出来た輪を巻き付けた生ゴミ男が答える。
「貴殿が
イシを積み上げる事を
諦めた時
貴殿は此処に
転がるイシに変わってしまう。
そして
いずれ
これから見せる
我々の様に
その身は砕け散り
砂に変わり
永久に此処から
抜け出せなくなる。」
眼鏡を掛けた焼け焦げた男が答える。
そう言うとその刹那、2人共に姿が砂に変わると、崩れ落ち、風に舞い、濃霧の中に消え去った。
石を河岸で自分の背の高さまで積み上げるだと?
ならば、此処は有名な賽の河原なのか??どれだけ石を積み上げても、知る限り積み上げても積み上げても壊される。無意味な行為を延々と強要され続けられるだけのはずだ。どうする?無視を決め込むか。
だが、それでは此処に永遠に閉じ込められたままだ。とりあえず積むか。何か、抜け道があるはずだ。石を積む事は二の次だ。状況を分析する事が肝心だ。
転がっている石を、適当に手早く積み上げる。顔の高さまで積み上がると、予想通り鬼が壊しにやって来た。
女鬼は何を言っているのか意味不明な言葉を早口で喚きながら、もう一体、小柄な鬼は酒瓶を片手に、千鳥足で濃霧の中から突然現れた。
最も簡単に積み上げた石の塔を叩き壊すとどちらも満足そうな顔をしながら濃霧の中に溶け込むと消えた。
何度石を積み上げても結果は同じだ。予想通りの行動だ。
もう一度、石を積み上げて2匹の鬼が現れるのを待つ。鬼が濃霧の中から現れると、前に立ち行く手を塞ぐ。どちらも意外そうな顔をした。
鬼だろうが何だろうが、打ち倒すだけだ。
握りしめた拳を鬼女に叩きつける。手応えが無い。千鳥足鬼には蹴りを飛ばす。手応えが無い。
手応えが無いのも当たり前だ。拳も足も鬼達の体をすり抜けている。鬼達は俺の体をすり抜けると当たり前の様に積み上げた石を叩き壊した。
鬼達は皮肉めいた薄笑いを浮かべると濃霧にその姿を紛れさせて消えた。
こちらから攻撃出来ないどころか、触れる事さえ出来ないのは予想外だった。これは面倒な相手だ。
どうする?何もかも最初からやり直しだ。
状況を整理しよう。何の裏付けも無いが、此処から抜け出すにはどうやら本当に、自分の背の高さまで足元に転がっている石を積み上げなければならない様だ。
だが、それは2匹の鬼達によって阻止されてしまい叶わない。まるでコバヤシマル試験だ。カークの様にゲームのルールその物を変えるか、何か新しい発見を得る必要がある。
何も、この場所に拘って石を積み上げ続ける必要は無い。それに積み上げなくても、現状此処から抜け出せないだけで、それ以外に何の不便も不都合も無い。
少なくとも河が流れている向きだけは調べがついている。河上に向かうか?河下に向かうか??河上に向かえば、いずれ源流にたどり着くはずだ。
どうせ疲れもしなければ、空腹にもならない。源流にたどり着けば何かが解るだろう。
独りよがりで、勝手で、何の根拠も無い理由だが、濃霧の中、もう一度水に手を入れて流れを確かめると河上に向かって移動を開始した。
淡々と距離を歩き続ける。延々と時間を移動に費やし続ける。
その反面、僅かな距離や時間しか移動していない様な気もする。それは変わり映えしない、砂上に転がっている様々な大きさの石と視界を遮り続ける濃い霧だけしか見えない風景が原因だ。これでは八甲田山の雪中で遭難した連中と何ら変わりがない。河の流れの向きだけが頼りだ。
微かに水が何かに当たる音が聞こえる。何かがこの先にある様だ。更に歩を延々と進める。濃い霧の中に何かが見え始めた。
立ち止まると見えたのは、河に突き出している桟橋だった。
長々とした桟橋の先には対照的に公園の池に浮かんでいるボートの様な小舟が一艘だけ係留されている。
岸辺には乗客が誰もいないからか、手持ぶたさに暇そうな老婆がつまらなそうに、撫然とした態度で立ちすくんでいた。
あのボートを使えば此処から脱出出来そうだ。そう考えると、桟橋に向かって再び歩き始める。多少なりとも気が楽になった。
だが、簡単にはたどり着けなかった。
「あなたは
これまでの
あなたの判断の
報いを受けなければならない。
報いとして
いつまでも
無駄に
無意味に
疲れる事も無く
終わる事も無く
イシを積み上げ続け
打ち壊され続け
此処に囚われ続けなければならない。」
突然、霧の中から身体中の骨が砕け、臓器がはみ出し、着ている可愛らしいピンクのトレーナーと裾にレースがあしらわれたフレアスカートを、自らの血で汚した少女が現れると淡々とした、感情の無い声でそう告げられた。
「それで?」
質問をすると、少女は見覚えのある作り笑いを浮かべてから、最初に出会った2人の男達同様、姿が砂に変わると、崩れ落ち、風に舞い、濃霧の中に消え去った。
また石の話か。
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