第3話「名付けと再会」
>TIME: 3330:08:00 RELIABILITY: DECREASE
>VARIANCE_COEFFICIENT: HIGH
>DQ_FACTOR: INCREASE
1.初めての名前
馬の背に揺られて移動する。女(メイ)は前、男(ケヴィン)は背中だ。鞍に座っているおかげで、裸足で痛む足のことは忘れられた。
小さめの馬に見えるが、左右に獣のツノや皮が大量に下げられ、さらに人間二人を乗せているのに、その足取りは力強く、揺れも少ない。
男は、私が答えにくいことをあえて聞いてこなかった。
ケヴィン:
「あんた、名前は?」
男は再び、優しい口調で問いかけた。
女は口を開いたが、自分の名前が何なのか、喉の奥に引っかかって、どうしても思い出せない。
男はそれに気づき、笑うことも、苛立つこともなく、わずかに肩をすくめた。
ケヴィン:
「そうか。記憶がないのか。それもそうだろうな、あの森に入って無事に出てこられる奴は狂ってるか、何も覚えてないかだ」
男は少し考え込むように顎をさすり、女に聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。
ケヴィン:
「じゃあ、メイでいい。今日からあんたはメイだ」
メイ。その言葉には何の響きもなかったが、名を与えられたことで、女は森の奥にいた「名もない女」から、この世界で初めて「メイという役割」を与えられた気がした。
女は、ようやく声を出した。
メイ:
「メイ・・・」
男は満足したように頷き、馬を進めた。
2.文官の思惑と予期せぬ再会
俺が「メイ」と名付けてやると、女は安堵した様子でその名を繰り返した。記憶がないらしい。
俺は再び、幼馴染の自衛団隊長の顔を思い浮かべた。
ケヴィン:
(あいつに押し付け、金をもらう。完璧だ。俺は面倒な肉体労働と、危険な神の子の保護という責任を負わずに、金だけを手に入れることができる。)
馬は土の道を進み、遠くに砦のような大きな壁が見えてきた。
ケヴィン:
「もうすぐ着くぞ、メイ。あんたの居場所だ」
俺がそう言うと、メイは不安と期待が入り混じった顔で、砦の壁を見つめた。
しかし、その瞬間、メイの顔から血の気が引いた。
砦の門の前に、数人の男が、地面に血を流して倒れているのが見えた。
そして、彼らの傍には、泥と血だらけの男が立っていた。
男はこちらを、憎悪に燃える瞳でまっすぐに見据えていた。
3.生還者の憎悪
憎悪の目。
いるはずのない男が立っていた。
メイは恐怖する。
あの血生臭い森の男だ。
全身泥まみれで、鎧は一部が砕け、皮膚には深い傷が走っていた。彼は、あの触手に湖に引き摺り込まれて死んだのではなかったのか。
その男の顔に浮かんでいるのは、獲物を取り逃がした獣の飢えだった。
彼は馬上のメイを睨みつけていた。特に、女に着せられた魔除けの紋様の上着を、血走った目で見つめていた。
メイ:
「ヒッ…」
メイは反射的に声を上げる。
ケヴィンは一瞬で馬を止め、手綱を強く握りしめた。彼の背中が、一気に緊張で硬くなるのがわかった。
4.ケヴィンの命がけの交渉
ケヴィン:
「ギルベルト」
こちらを睨みつけている、猛獣殺しのギルベルトに話しかける。
彼は実力はあるが粗暴と評判の男だった。
彼の剣からは血が滴っており、門前の加害者が彼であることは明白だった。
その目はいつにも増した狂気を宿していた。
背後でメイが震えている。メイは明らかにギルベルトを恐れていた。
ケヴィン:
「落ち着け、メイ」
俺はそう言うが、実のところ自分に言い聞かせるために呟いたのだ。
ケヴィン:
「よう、ギルベルト。随分と派手なご帰還だな。俺は諦めてお土産を拾って帰るところだったんだが」
俺は努めて穏やかに、事務的に話しかけた。ギルベルトは俺の偽装工作(角や皮の土産)に一瞥もくれず、ただメイだけを見つめている。
ギルベルト:
「ケヴィン……」
ギルベルトは低く、喉を絞り出すような声で俺の名前を呼んだ。水と泥でかすれた声だった。
ギルベルト:
「なんでテメェの服をそいつが着てるんだ。その女を渡せ。そいつは、俺の獲物だ。俺が最初に見つけ、俺が最初に触れた。俺の神の子だ」
やはり狙いはメイだった。
彼は一歩、また一歩と近づいてくる。その足元はぐしょぐしょで、彼の歩みと共に泥と血が混じった水たまりが広がっていく。怪我もしているようだ。
俺は馬をわずかに後退させ、冷静に状況を計算した。
* 戦闘力: 俺(文官)とギルベルト(猛獣殺し)では、勝負にならない。
* 目的: 俺の目的は金と面倒の回避であり、戦闘ではない。
* 切り札: 幼馴染の団長を呼ぶしかない。
ケヴィン:
「待て、ギルベルト。落ち着け。こいつは神の子じゃない。通りがかりの奴隷商から逃げた戦争難民だ。すぐそこで保護したんだよ。それに、俺は今、駐屯地に報告に行くところだ。隊長に、あんたが独断で門前で騒ぎを起こしたことを報告しにいく。いいのか、団長からの罰則は覚悟しているんだろうな?」
5.絶叫と襲撃
俺は組織のルールと罰則という、ギルベルトの最も苦手な概念を持ち出して時間を稼ぐ。
ギルベルトは一瞬、顔を歪ませた。彼の弱点は、秩序や事務手続きだった。
その隙に、俺は馬を旋回させ、砦の門に向かって大声で叫んだ。
ケヴィン:
「門を開けろ!緊急事態発生だ! ギルベルトが門前で騒ぎを起こした!団長を呼べ!」
声は砦の中に響き渡った。門の上から、衛兵たちが慌ててこちらを覗き込んでいるのが見えた。
ギルベルトは自分の名前と罰則を聞き、完全に冷静さを失った。
ギルベルト:
「貴様ぁあああ!!」
彼は泥の中から、大剣を引き抜き、馬上の俺たちめがけて一気に走り出した。
>TIME: 3330:09:40 TARGET ENCOUNTER: RECURRENCE
>HQ_FLUC: LOW
>DQ_LEVEL: UNSTABLE
>AUDIT PROCESS: CONTINUING OBSERVATION
執行官:「観測できない因子が多いな」
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