第31話・パンを食べる少女

 変態一家のせいで、私の計画は台無しになってしまった。

 しかし『飴玉魔術』という収穫があったのが唯一の救いか。

 とはいえ、なんか10年分ぐらいの疲労が一気に押し寄せてきた気分だなぁ……

 確認してみると、このバスは元々向かう予定だった町に向かうようだ。

 でもその町でやることがなくなってしまったので、もう通り過ぎてもいいや。

 寝よう。

 寝て少しでも元気を回復させよう。

「次はアヴィルサー」

「……んぁ……」

 車内の案内が聞こえたような気がして、私は少しだけ目を開けた。

 どうやら元々の目的地のようだが……

 この町は木々に囲まれた自然豊かな小さな町で、バス停から見える大きな時計台がシンボルとなっている。

 『セイヴィアーク』が手に入っていれば、魔導研究所として使おうと思っていた廃屋があるのだが……

 でももうやることはない。

 このまま通り過ぎて、もっと大きな町へ向かったほうがいい。

 ……と、思っていたが、大時計が示す時刻は午後2時を少し回ったところ。

 あまりにも濃密な時間を過ごしたので気にならなかったが、時計を見ると急にお腹が空いてきたな……

 どうしようか?

 バス内で非常食を食べてもいいけど、いざという時のことを考えると……

 ……よし。せっかく町に到着したタイミングで目を覚ましたことだし、予定も消し飛んだから、ここで昼食を食べていくか。

 ついでに魔術の整理と、スナイパーライフルの魔力弾に魔力を装填しておいた方がいいし。

 そう考えて、バスを降りることにした。

 ……降りたのはいいが、周囲を見渡しても飲食店はおろか、食料が買えるお店が見当たらない。

 それに自然豊か、大時計、という観光名所っぽい場所ではあるが、人通りはまばらで観光客らしき姿は見えない。 

 もしかしてこの町は観光には力を入れていないのか? もったいないなぁ。

 バスを降りたのは失敗だったかも……

 仕方ないから、どこか座れる場所で非常食でも食べようか……

 でもなぁ、こんな美少女が真昼間から非常食を食べている姿はなぁ……

 ……いや、田舎町であっても人が生活しているんだ。少し歩けばどこかにお店もあるだろ。

 ……もしかして、出張販売に頼りきっている、ってことはないよな……?

「ん?」

 次のバスは90分後。

 仕方がないのであまり期待はせず、歩みを少し進めたところで、1人の少女の姿が目に映った。

 見た目の年齢は10代前半ぐらい。

 腰まで伸びた髪は光の加減で銀髪に見えるが、よく見れば白髪で、手入れもされておらずボサボサ。

 ヨレた大きめのTシャツをボロい男性用のベルトで締め、ワンピースのように着用している。

 そんな少女が、時計台近くにあるベンチに座って、パンをかじりつつ漫画雑誌を読んでいる。

 地域によっては浮浪者も珍しくはない。

 だが、それにしては顔立ちは整っており、可愛い系よりも美人系だとはっきりわかる。

 成長すれば確実に男を手玉に取れる極上の美人となるだろう。

 気になるのは、その美少女具合だ。

 浮浪者にしては栄養はちゃんと取っているようで、痩せこけているなどの様子は見られない。

 なんならその身なりは、コスプレでは? と思うほど、肌の色は良い。

 もしかすると大時計がモチーフとなった作品があり、その登場人物になりきっているとか?

 いわゆる聖地巡礼なのかもしれない。

 それならそれで楽しんでもらえばいい。

 仮に本当に浮浪者だったとしても、私は施しを行うほど善人ではない。

 私が善人ぽく振る舞うのは、魔導が絡んだ時だけだ。

 しかし将来極上美人が確約されているような容姿だ。

 なので、お宝発見、とかいって、どこかの芸能事務所にでも売れ……紹介すれば高値で買っ……謝礼が貰えて、少女は逆転人生を送れるかもしれない。

 そう考えるとウィンウィンではあるか……

 ……んー……どうしよっかなぁ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る