第19話・数十年ぶりの再会

「ガルド様。またそのようなことを。

 今度こそロージィ様が本気でお怒りになりますよ?」

 ガルドはジジィの名前、ロージィは嫁の名前だろうか?

 ジジィに警告するシルヴァは実は味方だった? とは考えづらいが、その調子でジジィを止めてくれ。

 ……というか、さっきからジジィとか言ってるけど、実年齢で言えば私のほうがはるかに年上なんだよな……まぁ私には美少女という免罪符があるけど。

「あの歳になっても嫉妬するとは、あやつも可愛いところがあるのぅ。ワシに一目惚れしただけのことがわあるわい。

 じゃがそれとこれは別の話。また適当に言っておけば大丈夫じゃろ。

 それよりも、お茶が溢れてしまっておる。新しいものを用意してくれい」

「……かしこまりました」

 ……うーん……やっぱり雇い主を止めることはできないか。

 シルヴァは言われた通り、ジジィの勢い余った登場で溢れてしまったお茶を拭き取り、替えを用意するため一礼して部屋を出る。

 期せずして戦力が一人減ったものの、私のピンチはまだ続く。

「おじいさん。

 こちらのルシア・ガルブレイさんは僕が先に目をつけたのです。今回ばかりはいくらおじいさんでも譲れませんよ」

 ジジィの元気の源は性欲か。

 というか、ジジィとは真逆のヒョロガキなくせに度胸だけはあるのか、ライセルはジジィに臆する様子はない。

「ほう!!」

 私の名前を聞いた途端、ジジィは嬉々とした表情で食いつく。

 ……いやいや……会ったことないって……ボケてるだけだって……そもそも『魔女狩り』に『魔女ルシア』が見つかっていたら、無事では済まない。

 私の美貌に免じて逃がしてもらった記憶もない。

「ルシア・ガルブレイとは凄い偶然もあったものじゃな! それに背格好も似ておる!

 これを運命と言わず何というか!」

 ……ボケてきた、って言うんだよ……頼む。そうであってくれ……

「ふむ。もしかしておじいさんとお知り合いだったのですか?」

 と、ライセルは私に問うが、私は無言で首を横に振る。

 本当に知らない。

「ほっほっほ。

 ワシの言うルシア・ガルブレイはワシが20歳そこそこの時に知り合ったのじゃから、当人ではないわい。

 似てはいるがの」

 ………………はて……数十年前の筋肉ダルマ……?

「その時は部隊で『魔女狩り』に出ておってな。

 そこで出会ったルシア・ガルブレイという魔導研究者が『研究のために魔女の魔力を奪いたい』という理由で、ワシらに同行を求めてな。

 詳しい話は端折るが、結果として魔女の討伐には成功し、彼女は礼を言って去って行ったのじゃ」

 …………思い出した。あの時の部隊かぁ……でもあの時はこんな筋肉ダルマなんていなかったはず……

 というか、私が買った情報だと『敏腕傭兵部隊』だったはずなんだが……あいつらって『魔女狩り』部隊だったのか……よく生き残ったな……私……

 そもそも、これだけ慎重に生きてきた私が魔女狩り部隊に同行を頼むはずがない。

 そんなことをすれば、万が一討伐対象の魔女が私のことを知っていたら、私もついでに討伐されてしまう。

 確かあの時は『魔王崇拝者の悪徳教祖を懲らしめる』という理由で編成された部隊に、私が『色々な工作』をして同行することに成功したんだ。

 生きているから良かったものの、結果として何も得るものがない上に、下手すると私の命が狙われたかもしれないという、ただただクソ情報だったな。

 あの情報屋、今の時代なら色々なネットワークを使って晒しあげ、商売できなくしてやるところだぞ。

 なにが『数々の貴重な魔術と魔力を大量に保有している』だ。

 あったのは信者に売りつけるための、何の効果もない呪術具もどきが大量に保管されていただけだぞ。

 一応周囲の目もあったから声を上げてブチ切れるのを抑えて、体裁的に礼だけ言って帰ることにした。

 しかしあの時の顔は相当引きつっていたと思う。

 そんな昔話だが『魔王とは魔女の王』という意味だ。

 なので、その魔王崇拝者の悪徳教祖が魔女であった、とすれば、一応『魔女狩り』の仕事となる。

 その教祖は魔王崇拝者なだけあって女性(初老)だったが、使用していた魔力や魔術を見ても魔女である可能性は極めて低い。

 なお、その女性があのあとどうなったか聞きたくもない。

 こじつけが酷すぎる気もするが『魔女狩り』による『冤罪魔女裁判』なんてこんなものだ。

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