第18話・魔女狩り時代に流行ったもの

 私の警戒心は限界突破。

 私は他の、完全に姿を隠して生きる魔女とは違い、魔女という身分は隠すものの多くの人と関わってきた。

 時には争うこともあったが、それでも生き延びてこれたのも『危険が迫ればとにかく逃げる』を徹底してきたからだ。

 まぁちょっとばかし欲を出しすぎて、今回のように追い詰められることも多々あったけど。

 今回だって上手くやってみせる。

 できればどさくさに紛れて、土産としてあそこに飾ってある魔術を1つでも多く持ち帰りたいところ。

 よし。やるか。

 意を決し、私の右手はコップには伸ばさず、左袖に触れようとした瞬間、

「!?」

 シルヴァは無言で私の左肩に右手を添えた。

 ……やっぱりやべぇよ、こいつ……

 だが魔力探知の経験値が足りないのか、まだまだ甘い。

 右手は陽動で、本命は左足。

 魔力を込めて三度踵を鳴らせば……

「やはりワシの勘は正しかったようじゃな!」

「!?」

 大声、そして大きな衝撃と共に、扉がぶっ飛びそうな勢いで派手に開けられた。

 そして、また私だけ驚いてしまい、思わず体がビクリと跳ねる。

 と同時に視線を向け、衝撃の正体を確認した瞬間、私は思わず逃亡魔術の発動を止めてしまった。

 本来なら少々のイレギュラーが発生したところで魔術を止めたりはしない。

 だがそこへ現れたのは、短パン一丁で玉のような汗をかいた、ほぼ全裸のじーさん。

 しかし、経験豊富な私は男の全裸を見ただけで動揺するなんてことはない。

 ただし、1つだけ例外がある。

 それは『狂人変態勇者』を思い出させる、現役ボディビルダーも真っ青な、鍛え抜かれた筋肉の巨漢だ。

 それに加えてスキンヘッドに、体には数々の傷が刻まれており、まさしく『歴戦の兵』といった風貌。

 私にトラウマを植え付けた『狂人変態勇者』に酷似した人物だけは、どうしても苦手なんだよな……

 硬直し、不安の色がにじみ出ているだろう私に、じーさんはズンズンと歩み寄ってくる。

 すると顎に指を当てつつ、まるで私を値踏みするかのように、まじまじとねっとりとじっくりと上から下まで視線をゆっくり動かす。

 私は過去から現在、そして未来永劫美少女なので、この手の経験は仕方ないと思っている。

 しかしそれと慣れは別問題だ。

 何度経験してもイラつく。今すぐその眼球に魔力弾をぶち込んでやりたい。

「素晴らしい! お前さんはワシの初恋の相手によく似ておる!

 どうじゃ? ワシの愛人にならんか? 悪い思いはさせんぞ?」

 金持ちジジィの定番セリフキタァ。

 それに初恋の相手って、いつの話だよ?

 見た目からして、80年くらい前の話だよなぁ?

 どうせ愛人にするために適当なことを言ってるだけだろ。

 ……とまぁ心の中では強気でいられるが、戦局的にますます不利になってしまった……

 どー見ても、このジジィは強い。

 話が通じる相手ならいいが、この手の性欲の塊のような生物は、どうあっても強引に事を進めようとする。

 しかし、私の立場からすれば拷問さえなければ、性奴隷であっても生きている分、まだマシな方。

 私の意識が保っていられれば、何が何でも逃げ出す機会を作り出すこともできる。

 最悪なのは私を魔女だと認識していた場合だ。

 狂気に満ちた『魔女狩り』の場合、他の魔女を狩るために居場所を吐くまで恥辱と激痛を与えられる毎日が続く。

 しかし『本当に魔女の居場所なんて知らない』と言ったところで聞く耳はもたない。

 まぁ実際知らないし、そんな質問をされたら即適当な場所を言うけど、それで拷問はナシ、なんてことにはならない。

 つまり捕まった時点で『魔女裁判』が始まる。

 そして私が知る限り、助かった魔女は1人もいない。

 そんなことが横行していた時代、本物の魔女は元より冤罪で捕まった時のために流行っていた方法がある。

 ……流行りという言葉は適切ではないかもしれないが……

 それが『拷問回避の自爆魔法』だ。

 拷問を受けるぐらいなら、周囲もろともぶっ飛ばす自爆魔法。

 私も一応仕込んではあるが、それを使う勇気が出るかどうか……

と、そんな絶望的なことを考えるよりも、この美しい肌に傷一つつけずに逃げる方法を考えるべきだな。

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