第16話・希少魔術は心を奪う

「では、こちらへどうぞ」

 再発する怨嗟をなんとか抑え、ライセルに案内されて応接室へ向かう。

 途中、エントランスからは見えない位置にも台座、あるいは壁と、様々な魔術が飾られている。

 簡単なものでいうと、魔導ナイフ。

 単純に魔力の刃を生み出して刃先を伸ばす程度のもの。

 しかしこれが意外と厄介で、目や勘が戦闘に慣れたころ、ナイフの射程が伸びるという、相手の油断に漬け込む魔術だ。

 矢尻のない弓矢。

 魔銃が普及する前に使われていた、かなり古い魔術で、先端に攻撃系の魔力を仕込んで使用するのが一般的。

 そして、言わずと知れた魔銃。

 リボルバー式やオートマチック式と、新旧10数点ほど。

 等々、貴重なものから一般的なものまで、数多く飾られているが、これらに共通することは全て攻撃系魔術であること。

 しかも、どれもこれも今すぐ使用できるほど、綺麗に整備されている。

 これを見て普段の私なら、どうやったら自分のものにできるだろうか? などと考えたりもするのだが……

 これらが自分に向けられることを想像すると、冷や汗が止まらない。

 『魔女狩り』の邸宅。

 そしてどれもこれもが年代ものとは思えないほど、入念に整備された攻撃系魔術。

 それに加えて、中位魔女以下に対して確実に仕留められる高威力魔術まである。

 ずらりと並ぶこれらの魔術は『いつでもおまえを殺せるんだ』と言っているような気がしてならない……

「そう緊張なさらなくても大丈夫ですよ」

 そんな私に気づいたか、ライセルは私の方を向き、笑顔を見せる。

「どれもが先代達が使用していたものを飾っているに過ぎないので、危ないことなんて一切ありませんよ」

 嘘つけ。

 あれもそれもどれも、いつでも使える準備万端じゃねーか。

「でも魔導研究者のルシアさんでも、これだけの魔導兵器が並んでいると緊張してしまうんですね。

 そんなところも可愛らしいです」

 ……侮辱された……

 というか、ここに並んでいるほとんどが『攻撃系魔術』だ。

 『魔導兵器』はもっと大規模な魔術のことを言うんだよ。

 このど素人が。

 と、怒りに任せてここに飾ってある魔術を使って、ライセルの土手っ腹に穴をぶち開けて逃亡……したい気持ちをなんとか抑える。

 下手な動きを見せれば、第二、第三のメイドが現れる可能性だってある。

 囲まれたら一巻の終わりだ。

 我慢我慢。

「こちらです」

 と、ライセルは到着した応接室のドアを開け、私に入るよう促すが……

 ……本当に入ってもいいのだろうか?

 見た感じは普通の応接室。

 部屋の中央には大きめのテーブルと、真新しい一人がけのソファーが四脚。そしてドア正面には大きな窓。

 廊下と比べれば密閉された空間ではないので、最悪囲まれても、手持ちの魔術と私の魔力で逃げに全振りすればなんとかなるか。

 ……よし。警戒は怠らないよう、細心の注意を払って……

「ぉぉ……」

 部屋に入って早々、私はドアから左手側にあるショーケースに目を奪われてしまった。

 どれもこれも貴重な魔術で、コイン、カード、絵画、そして特に目を引いたのが『シュレイドの壺』だ。

 200年前、歴史に名を残した詐欺師が開発したという、魔力操作によって中身が変化する壺らしい。

 どういう仕組みなのか分解してみたいと思っていたところ、100年前、オークションにかけられたので喜び勇んで参加……したはいいものの、惨敗。

 私もそれまで様々な仕事をこなしてきたので、お金持ちの部類に入ってはいた。

 しかし開始早々、瞬時にまーったく手の届かない金額にまで跳ね上がったのだ。

 余力も全て投資すれば届かないことはなかったが、その後、壺だけ持って旅を続けることになってしまう。

 なので決断できなかった。

 ……やっぱりイグナード家は金持ちか……

 やばいなぁ……命の危険のドキドキから、違うドキドキにかわっちゃうぞ……

 これ以上の魔術を見せられたら靴を舐める……なんてことはしないが、磨いてやってもいい。

 やはり私を落とそうとするなら、これぐらいでなければ。

 あとはどうやって強請るか……やはりライセルの恋心につけ込むか……

「失礼します」

「ぅぉ……」

 魔術に目を奪われて、当初の警戒心はどこへやら。

 皮算用をしていたところへ、シルヴァがお茶セットを持って応接室に入ってきた。

 ……だから、気配を消すのをやめろ……というか、驚いているのは私だけじゃないか……

 だがある意味ありがたい。

 シルヴァの登場によって、失いかけた警戒心を再度強める。




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