第15話・メイド『シルヴァ・ローイング』
「では応接室で落ち着いてお話をしましょう。
こちら、ルシア・ガルブレイ様にお茶を用意してください」
ライセルはそう『空間』に向かって、指示を出した。
目の前に使用人がいるわけでもない、というか、人の気配がしない。
私は人の気配が読める超人ではないのだが、なんとなく『無人』みたいな空気感がある。
そんな中でライセルは淡々と指示を出した。
もしかすると集音魔術を設置しているのかもしれない。
さすが金持ちの家。
「かしこまりました」
「うぉ……」
警戒を緩めていたわけではないのだが、それでも予想外の展開に、思わず焦りと驚きの声が漏れてしまった。
ライセルの声に反応して突如正面に姿を現したのは使用人らしき女性。
年齢は20代中盤あたりで、クラシカルなメイド服を着用している。
普通に見れば美人だが、左眉から口元にかけて大きな傷跡に、髪色はまるで血を被ったような朱殷色。
……いや、普通に、普通に見れば髪は地毛っぽい。
なので、多分返り血だかそんなもので染めたわけではなさそうだ。むしろそうで当て欲しい。
それに顔の傷だって『ドジっちゃった⭐︎』とかいって、調理中に負った傷で、本人も気にしているかもしれない。
……でもなんとも言えないこの圧力というか、存在感というか……
もしかすると『ライセル様を惑わすメスガキ』と思われているだけかも。
主人は良くても、メイドの方が納得しないケース。漫画でもありそうな展開だよな。
でも、ヒョロガキなんて興味ない、とか言っても『ライセル様に対してなんと無礼なメスガキ! ここで始末してやる!』なんて面倒な展開になるかもしれない。
「彼女はシルヴァ・ローイングです。
とても優秀なメイドで、この家の守りを一手に担っています」
「……守り?」
せっかく穏やかな展開を妄想して、私の中の絶望感を払拭しようとしていたのに……
また私を不穏にさせるワードを出しやがって。
普通、メイドのこと守りって言わないだろ……
「家事全般のことですよ。
僕たちイグナード家のものは、彼女にとてもお世話になっているんです」
なーんだ家事かぁ……ってなるかあああっ!
「ルシアさんのことも」
「ライセル様」
ライセルが得意げに何か説明しようとしたところで、シルヴァが割って入った。
私のことが何!?
もしかして、私のことを調べたのはシルヴァだった、って言いたかったのか?
もはやそれ、メイドの仕事じゃないんだよ……普通の家ではないと自白してるようなものだぞ……
「私はお茶の準備をしてまいりますので」
「あぁ。よろしく頼みます」
そう言ってシルヴァは一礼すると、再びその身を空間に溶け込ませ……
って、いやいや……
普通は踵を返してキッチンに向かうでしょ?
消えないよ……普通のメイドは……
姿を消す魔術を使用した形跡はない。
となると魔法を使用したのか?
しかしそんな素振りは欠片も見せなかった。
では、もっと特殊な……それこそ暗殺に特化した『魔女狩り』の能力なのか……?
……まずい……まずいなぁ……
私も『魔女狩り』と対峙したことはある。
ただしその時は私が『魔女』だと悟られなかったし、疑いもかけられていなかった。
なので相手も本気を出していなかったように思えた。
それでもその勝利には、魔導研究用に溜め込んだ20年分の魔力を使い果たす必要があった。
あの時はホンットに膝をついて泣いた。
もうちょっと『私のために争わないで』を演じきっていれば乗り切れたのだが……
残念ながら、私の我慢の限界に達してしまったのだ。
今思えば、あの時の私が今まで生きてきた中で、一番の美少女だったかもしれない。
演技だったけど。
今回はそこまで大量の魔力を持ち合わせていない。
ライセルのせいで『セイヴィアーク』もぱぁ……
……落ち着いて……
とりあえず色々と気になることはあるが、当たり障りなく接し、無事この家から出られることを考えよう。
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