第31話:絡繰(からく)りの舞踏会、鉄と油の味がする
ガシャン、ガシャン、ガシャン。
女官人形たちが、不気味なリズムで迫ってくる。 その優雅な歩調とは裏腹に、口から飛び出した刃は殺意に満ちていた。
「……チッ、数が多いな」
迅(ジン)が刀を一閃させる。 女官の首が飛び、胴体が両断される。
バシャッ。 吹き出したのは血ではない。黒く濁った機械油だ。 鼻をつく油の臭気が、庭園の白檀(びゃくだん)の香りと混ざり合い、異様な空気を生み出す。
「キギ……ギギ……」
首を失っても、人形は止まらない。 胴体だけで迅にしがみつき、自爆するように内蔵された火薬を発火させようとする。
「面倒くせェ!」
迅は蹴りで胴体を吹き飛ばすと、爆風を背に次の人形へ斬りかかる。 急所がない。 完全に破壊しなければ止まらない。 人間よりもタチが悪い相手だ。
だが、迅にとって「面倒」であっても「脅威」ではない。
「テツ! 掃除だ!」
「はーい! いただきまーす!」
テツが人形の群れに飛び込む。 彼女にとって、ここは戦場ではない。 高級食材(精密な歯車やバネ)が歩いている、夢のようなバイキング会場だ。
ガリィッ! バキボキッ!
テツが女官人形の腕に噛みつき、内部の駆動系を引きずり出す。 真鍮(しんちゅう)製の歯車をキャンディのように噛み砕き、鋼鉄のバネをパスタのように啜(すす)る。
「ん〜ッ! この油、コクがあって美味しい!」
テツの口の周りが黒い油で汚れるが、彼女はお構いなしだ。 捕食者が一人混じるだけで、無機質な人形たちの統率は崩壊する。
「ギ……ガ……」
人形たちが、本能的な恐怖を感じたかのように動きを鈍らせる。 その隙を、迅は見逃さない。
「道が開いたな」
迅は踏み込む。 刀身に風を纏(まと)わせ、一直線に駆け抜ける。
「散れ」
ズババババババッ!!
神速の居合い。 すれ違いざまに放たれた無数の斬撃が、十数体の人形を瞬時に解体した。 空中に舞う手足、着物の切れ端、そして大量の歯車。
まるで機械仕掛けの桜吹雪だ。
「……ふぅ」
迅は刀についた油を振るい、残骸の山を見下ろす。 動くものはもういない。
「ごちそうさまでした! ……でも、ちょっと油っぽくて胸焼けしそう」
テツが膨れた腹をさすりながら戻ってくる。
「デザートは後にしておけ。……本番はここからだ」
迅の視線は、庭園の奥にある巨大な本殿――「紫宸殿(ししんでん)」に向けられていた。 そこから、強烈な視線を感じる。 人形ではない。 明確な意思を持った、上位の番人が待ち構えている。
「行くぞ。……帝(みかど)の寝室まで、土足で踏み込んでやる」
迅は黒い油で汚れた玉砂利を踏みしめ、本殿への階段を登り始めた。 御所の静寂は破られた。 ここからは、錆(さび)と血の匂いが支配する、本当の地獄めぐりだ。
(続く)
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